忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ

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8.食事

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翌日、会社を出るとそこには思いがけない人物がいた。

「雨宮、お疲れさん」

「山野先輩!?…こんなところでどうしたんですか?」

「たまたま通りかかったから。上がりだろ?ご飯食べに行こうぜ」

「いや…えっと……」

正直帰ってゆっくり寝たい。
ここ数日多少の無理はしているのでそれなりに疲れが溜まっている。
だが、それを山野に伝えるわけにもいかず、叶斗は断りきれずに行くことにした。

(最終日の明日は目星をつけている部分を調整するだけだし…)

大丈夫だよな、と自分に言い聞かせ、山野に連れられるままレストランに入った。


「村瀬が戻ってきたんだろ?」

どこで聞きつけたのか、山野からかけられた言葉に叶斗の体がビクリと反応した。

「…耳が早いですね」

「まあな。また雨宮の周りを付きまとってるんじゃないかって心配で」

「付きまとってるだなんてそんな…」

どこか棘のある山野の言い方に、こんな嫌な言い方をする人だっただろうかと不思議な気持ちになる。

その後もあたりさわりのない会話を続けていくと、不意に山野は真剣な顔をして聞いてきた。

「転職は考えてないのか?」

山野からは、こうしてちょくちょく転職の誘いを受けることがあった。
どうやら山野が今いる会社は福利厚生なども整っているようで、叶斗にその気があれば口添えしてくれるというのだ。

今までは会社を変えたいという気持ちはなかったためすぐに丁重にお断りしてきたが、ふと叶斗はこれからも今の会社に居続けられるのだろうかと疑問がよぎった。

村瀬との今後のことを考えると…今回の勝負の行方次第かもしれないが、そもそも村瀬が自分のことを恨んでいるのなら同じ空間にいても良いことはないだろう。
それは自分だけでなく、村瀬の精神状態にとっても。

(それでも、今このタイミングで逃げるように転職するのはなんか違うよな…)

楽な方に逃げているだけなかんじが否めず、叶斗はそっとため息を押し殺し、代わりにお酒を口に入れた。

(あれ…?なんか…体が……)

そこまで飲んだつもりはなかったが、疲れなどもあり思った以上にお酒が回っていたのだろうか。
体に力が入らず、手を動かそうとするだけでもだるさを感じる。

「雨宮?酔ったのか?」

「わかんない…です。でももうこれ以上は飲めなさそうなんで……お開きにしましょう…?」

「そうは言っても歩けるか?」

「…っ、大丈夫、です…っ」

なんとか掴まり立ちで立ち上がり、一歩を踏み出そうとするが体が思うように動かず傾いてしまう。

「おっと。無理するな。この店の上がホテルになってるから、部屋を取ろう。少しでも休んだ方がいいだろ?」

「…でも……」

よろけそうになった叶斗を抱き抱えるように支えた山野に、部屋へ行こうと誘導される。

正直今すぐ横になりたいのは事実だ。だが、意識はちゃんとあるし、このままついていくことで何か取り返しのつかないことになるのではないか…漠然とした不安を感じながらも、体は自分の意思では思うように動かせない。

「あいつには絶対渡さない」

隣で山野が小さく呟いたが叶斗にはその内容までは聞こえない。

このままではダメだと思うのに、山野に寄り添うように体重をかけてしまっている状態から抜け出せない。

(…?)

不意に視界に黒いものが映り顔を上げると、そこにはなぜか村瀬が立っていた。



「言ったはずです、彼にこれ以上近づくなと」

その目に怒りを乗せ、山野に言い放ったその言葉に叶斗の頭は混乱する。

(どういうことだ…?…2人は繋がっているのか…?)

「見ての通り、これは同意のもとなんだが?」

挑発するように山野が告げると、村瀬は2人の状況を見て苦虫を噛みつぶしたような表情をした。
確かに、今の叶斗は力の入らない体を山野に支えられたまま動けないし、はたから見たらむしろ叶斗が山野に寄り添っているように見えるかもしれない。

「そうなんですか?雨宮さん」

今度はこちらに鋭い目を向けてきた村瀬に、叶斗は一瞬躊躇してしまう。
ここで否定したらきっと村瀬は助けてくれるのだろう。
だが、村瀬だって叶斗にひどいことをしてきたし、そんな相手に助けを求めることでより弱みを握られてしまうのではないか。

それでも村瀬がこの場にいることでどこかホッとしたのも事実だ。

「かまってられない。雨宮、行こう」

何か言わなくちゃと口を開いた叶斗だったが、会話させたくないとばかりに山野に腰を押される。
そのまま腰周辺に添えられる手に、叶斗はどうしようもなく嫌悪感を感じた。

(…っ嫌だ…)

必死に村瀬と視線を合わせるが、叶斗が自分から助けを求めるまでは動くつもりはないらしい。

自分の思うようにならない体では、このまま山野に部屋まで連れて行かれてしまうだろう。
その後にもしも村瀬にされたようなことを求められたら…
そこまで考えて、叶斗は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。

「村瀬…助けて……」

絞り出すような小さな声だったが、村瀬にはしっかり聞こえたようだ。
叶斗が言い終わる前から動き出した彼によって、叶斗の体は一瞬にして山野の腕の中から村瀬の腕の中に変わっていた。

「雨宮さんが嫌がっているようですので、お引き取りください」

「くそっなんでお前がこんなところに…っ」

悪態をつきながらも、自身が劣勢であることを感じたのか山野は最後まで悔しそうにしながらも店を後にした。

「動けますか?」

村瀬に聞かれた叶斗はもう一度自分の体に力を入れてみるが、思うようには動かなさそうだ。

緩慢な動作で首を横に振ると、村瀬にさらに引き寄せられた。

「では俺に体重をかけて」

山野に寄り添っていたのは叶斗の意志じゃなかったんだなとホッとした村瀬は、素直に体重をかけてきた叶斗を愛おしく思いながら、すぐに入れるホテルの部屋を取った。
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