忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ

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11.答え合わせ

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翌日、叶斗は力の入らない足腰をなんとか動かして、村瀬に甲斐甲斐しく車に乗せられて出勤した。

出勤後は、なぜか内海と清水が叶斗の顔を見てひどく安心したような表情をしていた。
そういえばすごい量のメッセージが来ていたな、と思い出す。

朝起きた時にびっくりしたが、固まっている叶斗の手からスマホを奪うと、村瀬が何か返事をして、そのままそのトークを削除してしまった。
おい、と詰め寄ったが、「叶斗さんは知らない方がいいことです」と言い切られ、さらに「叶斗さんのためを思って言ってるんです…」とすがるような目で見られたらそれ以上言えなかった。

2人が村瀬のことを憎々しげに見ていることはだいぶ気になるが、関わるとろくでもないことになりそうだと思い気にしないことにした。




そしてそこで、今回の件がなかったとしても週の利益幅で村瀬に完全に負けていたことを知る。

(こんなに実力の差が…もう敵わないな)

かつての後輩の成長としてうれしい反面、やはりショックでもあった。

そのことに気づいたであろう村瀬はこっそり叶斗を呼び出すと、人のいないところで口を開く。

「こちらは2年間、あなたへの想いを原動力に死に物狂いでしたからね。
今回はその俺の執念が勝ったんですよ」

「それにしてもすごいな…
俺だって決して悪くなかったのに」

村瀬は唇を尖らせる叶斗の頬を両手で包み、背を屈ませて視線を合わせる。

「俺の叶斗さんへの想い、舐めないでください」

真剣な顔で目を見つめられ、叶斗は甘い雰囲気に耐えられず目をそらす。
だがその頬はわずかに赤く染まっており、気をよくした村瀬はニコニコと叶斗に告げた。

「俺の勝ちですね。
叶斗さんを手に入れたので正直これ以上欲しいものはないのですが…」

そこで一度言葉を切った村瀬だが、「なら」と続けた。

「今日は週末ですから、今日の仕事終わりから月曜朝までの叶斗さんの時間を俺にください」

綺麗に微笑むその笑顔からは、拒否は許さないとありありと伝わってくる。

「わかったよ…」

苦笑した叶斗は、俺も聞きたいことあるし…と素直に従うことにした。








その夜、村瀬の家でくつろぎながら、ふと村瀬のスマホが目に入った。

ロックは解除された状態で、村瀬は今シャワーを浴びている。

(そういえば、写真…)

今なら消去することができるかもしれない。

人のケータイを勝手に見ることに抵抗はあるが、万が一村瀬が消去を嫌がることがあれば、これは最大のチャンスだ。

恐る恐る写真データの部分を確認してみる。

(…なんだこれ)

そこには、昨日叶斗が寝てからの寝顔の写真がさまざまな角度で大量に保管されていた。

(あいつ…!人の許可なしに全く…)

突然の自分の寝顔の羅列が現れて驚いたが、探しているのはそれではない。
日付け順に遡っていくが、とうとう初日の卑猥な写真も動画も見つからなかった。

(くそっ、騙されてただけか…)

これは一言文句を言ってやらなければ。そう意気込んだ叶斗だったが、不意に『secret』と名前のつけられたフォルダーを見つける。

ドキドキしながら開こうとするが、4桁の暗証番号が必要なようだ。
さすがに1111などの簡単なものではないだろう。確か村瀬の誕生日は…となんとか記憶を捻り出して打ち込んでみるがどうやら違うようだ。

これは諦めるか…とスマホをロック画面にしようとしたその時。

「あなたの誕生日ですよ」

不意に後ろからかけられた声に叶斗の心臓は止まるかと思った。
画像を探すのに夢中になっていて、村瀬がシャワーを浴び終わったことに全然気づかなかったのだ。

そんな後ろ暗さから振り返ることができず、とりあえず言われるままに自分の誕生日を入れてみる。

(開いた……)

自分に関連することならばやはりここに…そう思って恐る恐る見てみる。

「これ……」

「貴重な写真なんです。削除しちゃダメですよ」

いつのまにか近づいていた村瀬に後ろから抱きしめられる。

スマホに表示されているのは、2年前一緒に働いていた時の、村瀬と叶斗が2人で写っている飲み会で撮った時の写真だ。

「2人の写真はとても貴重なんです。当時は自分から写真撮りましょうなんてなかなか言えなかったですし。
それだって、勇気出して女性社員にお願いしたんですよ」

たしかに、普通に考えてプライベートの付き合いがない限り、男性2人の写真というのはなかなか撮らない。

だからこそ叶斗もこの時のことを覚えていた。
飲み会の終盤、少し緊張気味に「先輩との写真を撮りたいのですが良いですか?」と聞いてきたので、断るものでもないし、とOKしたのだ。

今思えば、もともと叶斗は写真が苦手だったので、この時から村瀬には少し甘かったような気がする。

「叶斗さんの流出したらまずいような卑猥な写真は最初からありません…。
騙してすみませんでした」

叶斗の肩口に頭を擦り付け、素直に謝ってくる後輩に、しょうがないなと叶斗はその頭を撫でてやる。

もっと、というようにぐりぐり押しつけてくるのをかわいく思いながら、「あっ」と叶斗は思い出したことがあった。

「そういえば。山野さんに、俺に近づくなって言ってたの?」

「ああ、それは…」

山野のことがよっぽど嫌いなのだろう。まとう空気の温度が数度下がったように感じたが、それでも説明をしてくれた。

「あの人が今もあなたに付きまとっていることは知っていましたからね」

付きまとう…どこかで聞いたな、と思いながら叶斗は今度はその言葉に違和感は感じなかった。

「俺が早く上がった日があるでしょう?
その日に直接もう叶斗さんに関わるなって言いに行ったんです」

「あ……」

早く帰るなんて舐めやがって、と思っていたが、実際は叶斗のために動いてくれていたのだ。
申し訳ないやらありがたいやら、複雑な気持ちになる。

「昨日あの店にいたのは…?」

「昨日は部長会議があったので会社に残っていたんです。
自分のデスクに戻る時に会社の人があなたが山野と店に入ったと話してるのを聞いて」

「俺の話題が…?」

「あなたは自分が思っている以上に有名人なんですよ。
その人も山野のことをよく思ってなかったようで、叶斗さんのこと心配していました」

「そう…だったんだ……」

自分の話題が出ていてさらに心配してくれている人がいるというのはいまいちピンと来ないが、その人のおかげで助かったのは事実だ。


「だけど、それより厄介だったのはあの2人です」

「2人…?」

「内海さんと清水さんですよ。
あの人たち、すごい嗅覚をしていますね。
嫌な予感がすると言って近くのめぼしい店をピックしてはあなたのこと探していましたよ」

「えっ…?」

そんなにも探してくれていたなんて。
だからあんなにもメッセージが来ていたのか、そう納得すると共に申し訳ない気持ちが大きくなる。

「今度お礼しないとな…」

「!?ダメ、ダメです。あの2人は最初からあなどれなかった…。
付け入る隙を与えてはいけません」

「…?何を言ってるんだ…?」

「ああもう、これだから目が離せないんです。
いいですか、あの2人に何かするならそれは絶対俺も一緒にいる時にしてください。絶対ですよ」

「でも、内海と清水からしたら上司の村瀬がいるのは気を使うだろ…」

「いいえ、大丈夫です。
昨日やりとりをして、仲良くなってますから。
とにかく。わかりましたか?」

すごい圧力で訴えてくる村瀬に、いまだ頭の中にはてなを浮かべた状態の叶斗であったが、とりあえず従った方がよさそうだとしぶしぶうなずく。

「ああくそっ、ずっと閉じ込めておけたらいいのに…!」

危険な発言をする村瀬の言葉を叶斗は本気にしなかったが、そこから2日間はいっときも離してもらえず、彼の本気はやばいと思い知るのであった。










本編一旦終了です!
次からは番外編になります
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