メカラス連邦諸国記

広之新

文字の大きさ
43 / 54
第9章 へつらう父の哀れな姿 ーヨースチン伯爵領ー

9-9

しおりを挟む
 ジャックとハンスは家に戻ってきた。ジャックは何も言わずに奥の部屋に閉じこもった。ハンスは父に声をかけたかったが、何と言っていいかわからず、そのままソファに座ったままうとうとと寝てしまった。
ジャックは明かりもつけず、ただ目をつぶって心を整えていた。そして剣をすっと持ってそれを引き抜いた。その剣の鈍く放つ光を見て彼の決心は決まった。
「私がやらねばならぬ!許せ、ハンス。」ジャックはそう言うと、剣をしまって瞑想を始めた。

 朝になり奥の部屋からジャックが出て来た。その音にハンスは目覚めて立ち上がった。
「父上!」ハンスは声をかけたが、目の前にいる父は何か恐ろしげに見えた。
「これを。」ジャックはハンスに書付を手渡した。
(何だろう?)とハンスがその書付を開けると、それは絶縁状だった。
「親子の縁を切った。これでお前と私は他人だ。」ジャックはそれだけ言うと外に出て行った。
「どうしてでございますか!」ハンスは気が動転しつつも大声で問うてみたが、ジャックは振り返ることもなくそのまま行ってしまった。
(一体、どうして?・・・。そうだ。あのご老人に相談しよう!)ハンスは思い立って、急いで焼かれた村に行ってあの老人を探した。その老人は夜を徹して村人たちの手当てをしていた。
「お願いでございます!」ハンスは息を切らせて言った。そのただならぬ様子に老人は、
「どうされたのかな?こんなに慌てて。」と尋ねた。
「父がこれを。」ハンスは絶縁状の書付を渡した。
「これは・・・」老人は中を見て目を見開いた。
「どうして父が私を・・・」
「これはいかん。お父上は死ぬ気だ。急がねば・・・」老人は立ち上がり、急いで道に向かった。その後をハンスが追っていった。

 ジャックは決意を固め、伯爵の屋敷の前に来た。昨夜は酒宴が開かれたらしく、酒の匂いが外まで漂ってきていた。中にいる者はすべて眠りこけているようで屋敷は不気味なほど静まり返っていた。ジャックは何も言わず、屋敷に入って行った。廊下や部屋のあちこちで酒を飲んで側近たちがそのまま寝ていた。ジャックは鋭い目で見渡しながら進んでいった。すると奥の部屋で鎧を着たまま寝入っている伯爵の姿を見つけた。
 ジャックは片膝をついて、
「伯爵様!」と声をかけた。すると伯爵は眠そうに目をこすって起き上がった。そして目の前にジャックがいるのに気付いた。
「ジャックではないか!」
「はい。ジャックでございます。」ジャックは頭を下げた。
「何しに来た? お前が邪魔立てしたのは見ていたぞ!」伯爵が言った。
「これまでの不忠をお詫びに参りました。」ジャックは言った。
「不忠だと! ふん! 今さら謝っても遅い。お前が私のいうことを聞かずにとるに足らぬ村人をどれだけかばってきたか、私が知らぬと思うのか! それに昨日のことといい、今度は村人とともに重い罪に問うてやるぞ!」伯爵は吐き捨てるように言った。
「伯爵様。私はどんな仕打ちでも甘んじてお受けいたします。しかし村人たちに何の罪もございませぬ。せめて村人たちには・・・」ジャックは地面にこすりつけんばかりに頭を下げた。
「もう遅いわ! 村人たちといい、マクライといい、お前といい、私を馬鹿にしよって!すべて成敗してやる!」伯爵は声を荒げた。
「私は悲しゅうございます。あの生真面目だった伯爵様がこのように変わられるとは・・・。すべて我らのせいでございます。この上は皆に代わり、私めが後始末をつけさせていただきたく思います。」ジャックはすっと立ち上がった。そして剣に手をかけた。彼の目から一筋の涙が流れていた。
「何をする気じゃ!」その気迫に伯爵は驚いて飛び下がった。
「あの世に行っていただきます。もちろんお一人でとは申しませぬ。私めも後から参ります。」ジャックは剣を抜いた。
「何を申す! 皆の者! 起きろ! ジャックが反逆を起こした!」伯爵は恐怖で震えながら叫んだ。するとその声で側近たちが目を覚ました。目の前でジャックが剣で伯爵を斬りつけようとして見てあわてて起き上がると、すぐに傍らの剣をつかんだ。
「ジャックを斬れ! 斬るのだ!」伯爵が大声を上げた。その声に側近たちが剣を抜いて向かって来た。ジャックは剣を振るって側近たちを斬り倒していった。その圧倒的な強さに側近たちは一人、また一人と倒されていった。
「伯爵様。ご覚悟なされよ。これしか道はないのです。この伯爵家を守るためには。」ジャックは言った。
「いやだ! 絶対に嫌だ!」伯爵は叫ぶと自ら剣を抜いて斬りかかってきた。しかしその剣はすぐにはね飛ばされ、ジャックは伯爵の顔の前に剣を突き付けた。伯爵の顔は恐怖でゆがんだ。
「許してくれ! 私が悪かった。すべてお前の言うとおりにしよう。これからは行いを改める。いや伯爵を弟に譲って引退する。だから命ばかりは・・・頼む! この通りだ!」と両手を地につけて頭をこすりつけんばかりに深く下げた。
「伯爵様・・・」ジャックはその様子にさっきまでの決心が揺らいでいた。
「わかりました。それなら剣を引きましょう。お約束ですぞ。」ジャックは剣をしまった。それを見た伯爵は落ちていた剣を拾うと、それでジャックを串刺しにした。
「ううっ!」ジャックは口から血を吐いた。
「この反逆者め!私がお前の脅しに屈すると思っていたのか! 死ね!」伯爵は恐ろしい形相になって言い放った。
「伯爵! 貴様!」ジャックは伯爵の体を引き離すと、剣を抜いてそのまま、
「ザッ!」と斬り放った。
「ぐわっ!」伯爵は断末魔の叫びをあげてそのまま倒れた。そしてジャックも崩れ落ちるように倒れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...