魔道の剣 ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

プロローグ

　緑豊かなビンデリア国、その王宮は木々が生い茂った深い森の中にあった。それは遠くから見る限りでは雄大で威厳があり、華麗でもあった。だがそばに寄るとその古ぼけて老いた姿が見て取れた。深い緑色によどんだ堀にかかる朽ちかけた橋、長年の風雨にさらされて崩れた壁や塀、伸び放題になっている草木・・・いずれもがこの王宮が歩んできた年月を感じさせた。

　その玄関にはひびの入った長大な石の階段があり、周囲には何本もの大きな柱が立っていた。昔はここから多くの者が出入りしたのであろう。石畳にこすれてすり減った跡がいくつも見えた。そこを上がると金具が打ち込められた重厚な扉が立ちはだかる。それはまるで何者をも拒絶しているかのようだ。
　錆びた取っ手を持って扉を開くと、高い天井の吹き抜けのホールが広がっていた。厳かな空気が辺りを支配する。これから先は王の御座所なのだ。外から入った光が天井のシャンデリアに反射して床に複雑な模様を浮かび上がらせていた。

　ホールからは広い廊下がまっすぐに伸びていた。その壁や床は美しく磨かれているものの、剣が当たってできた痕が痛々しくいくつも残っていた。ここは血塗られた場所でもあるのだ。
　その廊下をそのまままっすぐ進むと大きな広間に出る。かつてはそこでは華やかな会が開かれたのであろう。だが今は往時のにぎやかさはない。装飾品はすべて外されてがらんとして静まり返り、冷ややかな空気が流れていた。

　ただそこには不思議なものがあった。広間の真ん中に大きな黒い鉄の塊が不自然に置かれているのだ。それは窓から差し込んだ日の光を鈍く反射している。それはまるでその存在を人に訴え、呼んでいるかのようだった。誘われるままにそばに寄ってそれに手を触れた。するとほのかな温かみを感じた。生きているのかと思うほど・・・。

　その鉄塊は王宮のある歴史を伝えようとしているのかもしれない。触れた手を通して語りかけ、その思いを頭の中に見せる。そして人々は涙を誘われるのであった。鉱あらがねにまつわる悲しい物語に・・・。