魔道の剣  ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

広之新

文字の大きさ
2 / 41
第1章 逃げる2人

2つの影

しおりを挟む
 三日月が夜の闇に一本の道を照らし、そこに大きな影と小さな影が浮かび上がらせていた。周囲を鬱蒼とした木々に囲まれ、不気味なほど静まり返っていた。その2つの影は何かに追われるように先を急いでいた。

「ホウ、ホウ」

 フクロウの鳴き声が急に聞こえた。すると2つの影は急に動きを止めた。わきの木々から明らかに人の気配が放たれていたからだ。それは音もなく2つの影に近づいてきていた。やがて辺りに強い殺気がみなぎった。

「ヒューン!」

 鋭い音がして何かが飛んできた。すると大きな影にきらめきが光った。

「ズバッ! バーン! ドサッ!」

 それは一瞬の出来事だった。剣で襲ってきた魔兵が斬られて倒れていた。

「ジェイ・リーカー! 覚悟せよ! 貴様に進む道はない!」

 声が聞こえた。

「貴様たちにやられはせぬ」

 大きな影は声を上げた。そのそばの小さな影は戦いの邪魔にならぬように身をかがめていた。

「我らから逃げられると思うな!」

 声が響くと、また魔兵がわきから飛び出してきた。大きな影は右手に持った剣で、「ズバッ!」と一瞬で斬り捨てた。すると今度はいくつもの火の玉が2つの影に降ってきた。魔法力の強い魔騎士がいるようだった。

「***結界オーベクス***」

 大きな影が呪文を唱えるとすべての火の玉をはね飛ばした。

「おのれ!」

 一人の魔騎士が姿を現した。燃えるような赤い鎧を身にまとっていた。それが月の光にあやしく反射した。

「貴様の命をもらう!」

 そしてさっと剣を抜くと呪文を唱えた。すると剣が燃え盛る炎に包まれた。それは魔法の炎の剣だった。

「食らえ!」

 その魔騎士は炎の剣を振り回してきた。火の粉が飛び散り、その周囲が燃えていた。魔騎士は魔法の火炎で2つの影を焼き殺そうとしていた。大きな影は火の粉をかぶりながらも、剣で炎を断ち斬り、振り下ろされる炎の剣を受け止めて力で押し返した。そして身をひるがえすと、

「***魔道剣マグスグラディス一刀斬ウヌミアクラブラド***」

 と呪文を唱えて剣を大きく振り下ろした。その魔騎士は炎の剣を振り下ろしたが、その炎は真ん中から2つに引き裂かれ、左右に消えていった。そしてその後には真ん中から斬り裂かれた魔騎士の死体が転がっていた。

「パパ・・・」

 小さな影がおびえたように言った。

「エミリー。目を背けるな、これが我らの進む道。よいな」

 大きな影が念を押すように言った。小さな影は小さくうなずいた。

 ◇◇◇◇

 真夜中の王宮は闇に包まれていたが、一つの部屋だけに灯りが点いていた。そこからは

「まだ殺れていないのか! リーカーとエミリーを!」

 といらいらした男の大きな怒鳴り声が聞こえていた。

「はっ。魔騎士たちを差し向けておりますが、今だに報告がありませぬ」

 もう一人の男の声も聞こえた。その声はやや震えていた。

「早くするのだ。どんな手を使っても構わぬ。早く奴を始末せよ!」

 怒鳴った男はさらに大きな声を上げた。すると

「はっ。様子を見てまいります」

 と答えてその部屋を出て行く男の姿があった。

 ◇◇◇◇

 暗闇の道を急ぐ2つの影、それはリーカーとエミリーの親子の影だった。2人はひたすらオースの森に向かって夜道を歩いていた。

(とにかくオースの森に隠れよう)

 リーカーはそう思っていた。だがそれまでにまた魔騎士や魔兵に遭遇するかもしれない・・・そう思うと彼の心は重かった。待ち構えている魔騎士を打ち破らなければリーカーたちに生きる道はない。
 傍らのエミリーは自らの運命を切り開こうと必死だった。彼女も何も言わずにリーカーに手を引かれて、魔法の靴で懸命に歩いていた。森まであとわずかだった。このまま何もなく森に入りさえすれば・・・。
 だがそう簡単に森に入れなかった。その入り口には魔騎士と魔兵の一隊が待ち受けていた。ここに必ずリーカーたちが現れると・・・。彼らを見てリーカーとエミリーの足が止まった。

「俺は魔騎士ズロックだ! リーカー! ここを通すわけにいかぬ。エミリー様をこちらに渡して剣を捨てて降参しろ!」

 ズロックは声を上げた。だがリーカーはそれに応じるわけがない。また剣を抜いた。その後ろでエミリーがその横の木の陰に隠れた。

「貴様がアーリー様を殺したのは明白。大人しく縛につけ!」
「いいや、それは俺ではない。多分、お前の仲間の魔騎士だ」

 それを聞いてズロックは鼻で笑った。

「そんな戯言、聞く耳持たぬ。王家に忠誠を誓う魔騎士がそんなことをするはずはない。貴様がいくら言い逃れをしようと構わぬ。この剣で聞いてくれる!」

 ズロックは自ら剣を抜いてリーカーに斬りかかってきた。リーカーはそれを剣で受けて押し返した。

「なかなかやるな! それならこれでどうだ!」

 ズロックは呪文を唱えた。すると剣の刃が伸びて幅も厚くなり、何倍もの大きな剣になった。それをズロックは軽々と振り回す。

「この剣を受けろ!」

 その大きな剣はそれを受けるリーカーにずしりと重くのしかかった。それでも何とか持ちこたえている。

「まだまだだ!」

 ズロックは何度も何度もその巨大な剣を振り下ろしてきた。

「このままではまずい・・・」

 リーカーはそう思いながら相手の間合いを見極めていた。今の距離ではこちらの剣は届かぬし、相手の剣のみが打ち込まれている。前に出て接近すれば勝機もある。ズロックはリーカーの意図はすべて見通していた。内にはいられないようにしっかり間合いを取っていた。だが・・・

「***瞬動フラシュ***」

 リーカーは魔法で体の動きを一瞬だけ早くする魔法をかけた。すると次の瞬間、リーカーはズロックに接近していた。その一瞬をリーカーは見逃さなかった。

「***魔道剣マグスグラディス一刀斬ウヌミアクラブラド***」

 素早く放った魔法の剣の一撃はズロックを切り裂いていた。

「ぐおおお・・・」

 ズロックはまだ信じられないという顔で悲鳴を上げていた。リーカーは素早く剣を振り上げた。

「俺に勝ったところでそれが何になる。貴様は追われるのだ。その命が尽きるまで・・・」

 ズロックはそう言って倒れた。包囲していた魔兵は、

「ズロック様がやられた・・・」

 と慌てふためいてその場から逃げて行った。その場に残されたリーカーは木の陰から出て来たエミリーとともに森へと入って行った。だが夜通し歩き続けて、気丈なエミリーもさすがに疲れてきて歩みが遅くなった。それはリーカーも同じだった。木々の間に姿を隠した2人はようやくそこで休憩を取った。エミリーはすぐにうとうとと眠ってしまった。
 その寝顔は安らかだった。まるで今日の悪夢のような出来事を忘れてしまったかのようだった。

「あんなことがなければ・・・」

 リーカーはため息をついた。彼らは今朝までは幸せな日々を送っていた。だが突然、地獄のような状況に叩き落とされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ
ファンタジー
森のはずれで花屋を営むオルガ。 草花を咲かせる不思議な力《エルバの手》を使い、今日ものんびり畑をたがやす。 そんな彼女のもとに、ある日突然やってきた帝国騎士団。 「皇子が呪いにかけられた。魔法が効かない」 は? それ、なんでウチに言いに来る? 天然で楽天的、敬語が使えない花屋の娘が、“咲かせる力”で事件を解決していく ―異世界・草花ファンタジー

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

処理中です...