3 / 41
第1章 逃げる2人
殺された妻
しおりを挟む
リーカーは今朝のことを思い出していた。そこには明るい幸せな家庭があった。今の彼にはそれはもう遠い過去のように思われた。
――――――――――――――――――――
空は晴れ渡り、すがすがしい朝だった。これからリーカーは聖なる山に向かうところだった。妻のアーリーと5歳になる娘のエミリーが玄関先に見送りに出ていた。
「私は魔法剣士となった。これからは女王様に仕えることになる。ゆくゆくはお前のために、未来の女王様のために力を尽くすことになる。そのために私は必ず成し遂げる」
ビンデリア国は魔法使いのエリザリー女王が統治していた。そしてその女王を支えるのは魔法力と剣の力を持つ魔騎士と言われる魔法剣士たちだった。
リーカーは大恋愛の末、エリザリー女王の一人娘アーリーを娶った。継承権からいえば彼女は次の女王になるはずであった。そのためビンデリア有数の剣士だったリーカーは、新たに魔法の修行をして魔法剣士になった。将来の女王のアーリーを支えるために。
だがそれだけでは十分ではない。女王の夫、つまり王配と認められるためには試練を受けねばならなかった。それは魔道の剣を手にすることだ。それは聖なる山にあるヨミ洞窟の奥に存在する。
「では行ってくる」
「パパ! しっかりね」
「ああ、エミリーもママのいうことを聞いて、おとなしく待っているんだ」
リーカーはかがんで笑顔で言った。
「あなた、どうかご無事で・・・」
少し心配げなアーリーに、「大丈夫だ」というようにリーカーは大きくうなずいて出かけて行った。
エリザリー女王の夫であった、今は亡きジェームズ公はヨミ洞窟から魔道の剣を持ち帰った。その洞窟は魔物が蟠踞する恐ろしい場所だった。魔法と剣の技に長けたジェームズ公はその試練に耐えて成し遂げたのだ。
一方、リーカーは剣士としてはこの国1,2を争うほどに優れていたが、魔法は全く使えなかった。だから血のにじむような修業を重ね、なんとか魔法を身に着けることができて魔法騎士となったのだ。この上は魔道の剣を我がものとしなければならない。
この剣はジェームズ公が亡くなったのと同時に王宮から消えた。ある魔法使いがヨミ洞窟を調べたところ、元の場所に突き刺さっていたそうだ。次に試練を受ける者を迎えるために・・・。
◇◇◇
リーカーはヨミ洞窟にたどり着いた。そこには年老いた魔法使いが待っていた。
「これから先は試練じゃ。襲ってくる魔物をはねのけ、魔道の剣を引き抜いて持って帰ってくるのじゃ。ただし魔道の剣は邪な者には抜けぬ。この国のため、女王様のために身をささげる決心がある者しか抜けぬ。よいな?」
「はい。わかっております」
リーカーは「はぁ!」と息を吐いて気合を入れると洞窟に入って行った。中は冷たい風が吹き不気味に静まり返っていた。
(何かがいる・・・)
リーカーは剣を抜いた。彼を狙って何かが迫ってきている気配はあった。すると突然、
「グオー!」
と大きな音が響き渡り、化け物の大蛇が目の前に現れた。毒霧を吐きながら、リーカーを一飲みしようと大きな口を広げていた。
「***一刀斬***」
リーカーは魔法を込めた剣を振るった。するとその大蛇は一刀両断され、姿を消した。
だがそれで終わりではない。魔物たちが次々にリーカーを襲ってきた。モンスターやドラゴン、そしてケルベロス・・・。だがリーカーは恐怖に打ち勝ち、それらを倒していった。
やがて洞窟の奥に来た。そこには地面に突き刺さった剣があった。それは暗闇に怪しい光を放っていた。まさしくこれぞ魔道の剣・・・リーカーはそう確信して剣に向かって誓いの言葉を述べた。
「我はこの身をこの国と女王様に捧げる。魔道の剣よ! 我をふさわしいと思うなら、地面より抜け出て我とともに来い!」
リーカーは魔道の剣の束に手をかけた。しびれるような感触はしたが拒絶されている気はしなかった。彼は力を込めた。
すると魔道の剣は一瞬、きらめいた。リーカーの思いと呼応するかのように・・・。そしてそのまま引き抜かれた。リーカーの手にかかる抵抗は全くなかった。魔道の剣はリーカーを認めたのだ。
リーカーは魔道の剣を持って洞窟の外に出た。そこにはあの年老いた魔法使いが待っていた。
「見事だ!」
年老いた魔法使いが大きくうなずいた。
「ジェイ・リーカー。お前はこの魔道剣に認められた。女王を支え、このビンデリアに平和をもたらすのだ」
「はっ。この命にかけましても私に与えられた使命を全ういたします」
リーカーは片膝をついて頭を下げた。
「この魔道剣はお前を大いに助けてくれるだろう。だがこの魔道剣を手に入れたということはこれからお前は苦難の道を進まねばならないだろう。それがこの剣を持つ者の運命だ。それにこの剣の魔力を使いすぎると鉱の呪いがお前に起こる。注意するのだ」
「はっ。肝に銘じます」
◇◇◇◇
リーカーは魔道剣を得て大きな喜びに包まれていた。それを妻のアーリーと娘のエミリーにいち早く伝えようと家に走って戻ってきた。ところが家の様子を見てリーカーは愕然とした。
門は破られ、家のドアは開けっ放しで中は荒らされていた。何者かが侵入したようだった。
「アーリー! エミリー!」
血相を変えたリーカーは家の中に入っていった。すると血を流したアーリーが倒れていた。
「おい! しっかりしろ! 何があったんだ!」
リーカーはアーリーを抱き起こした。彼女は虫の息だったが、リーカーの顔を見て安堵の表情が浮かべていた。
「あなた・・・いきなり剣士たちが・・・」
アーリーは息も絶え絶えに言った。
「剣士がどうした? エミリーは?」
「急に襲ってきて・・・魔法で結界を張っても破られて・・・エミリーを天井に隠して・・・私、いえ、エミリーは狙われています・・・」
「どうして! なぜなんだ!」
リーカーは動揺して声を上げた。
「あなた、エミリーを守ってください。エミリーを・・・」
アーリーはリーカーの腕をしっかりとつかんで訴えた。そしてそこでこと切れた。
「アーリー! しっかりするんだ! アーリー!」
リーカーは呼び続けたが、アーリーはもう目を開けることはなかった。彼女はリーカーの腕の中でそのまま冷たくなっていった。
「アーリー・・・」
リーカーは深い悲しみを覚えていた。しかしいつまでもそうしてはいられなかった。リーカーはアーリーの亡骸を下ろすと天井に声をかけた。
「エミリー! 聞こえるか? パパだ!」
「パパ・・・」
上の方から声が聞こえた。リーカーは天井の板を開けた。そこには目を赤く泣きはらしたエミリーの姿があった。
「エミリー! 無事だったか!」
彼女は音を立てまいと口を押さえ、流れる涙を必死にこらえていた。アーリーの魔法とエミリーの頑張りで、襲ってきた剣士たちから何とか隠し通せたようだった。
「怖かっただろう。もう大丈夫だ。よく我慢した」
リーカーはエミリーを下ろした。床に下りたエミリーに、変わり果てた母の姿が目に入った。
「ママ!」
エミリーはアーリーの亡骸のそばに寄ると、こらえていた涙を流した。
「エミリー・・・」
リーカーはエミリーの肩を抱いてやることしかできなかった。
(一体、どうしてこんなことに! アーリーを殺したのは誰なんだ! 許さぬ・・・)
リーカーに悲しみとともに激しい怒りが込み上げてきた。こんなことをした者に復讐したい衝動に駆られていた。 その時、
「やはりここにいたか!」
いきなり声が聞こえた。リーカーが前を見ると、見知らぬ数人の剣士たちが立っていた。エミリーがどうしても見つからず、リーカーの帰りを魔法で隠れて待っていたようだった。彼らは剣を抜いてリーカーに近づいてきた。
「お前たちか! 妻を殺したのは!」
リーカーが大声を上げて右手を伸ばした。すると剣が飛んできて、その右手にしっかり握られた。それはあの魔道剣だった。
「そうだ。死んでもらおう」
その剣士のリーダーらしい男は言った。そしてその男は呪文を唱えた。すると多くの刃物が飛んできて、リーカーに襲い掛かってきた。
「カーン! カーン!」
リーカーは剣でそれらをはじき落とした。
(魔法を使うとは! 魔騎士と魔兵? まさか!)
リーカーは心に浮かんだことが信じられなかった。リーダーの男は言った。
「少しはできるようだな?」
「貴様は魔騎士なのか? それならなぜ我らを?」
「それはどうかな? ふふん。知らずに死んだほうが身のためだ!」
その男は後ろにいる剣士たちに合図した。すると剣士たちは魔法で剣をムチのようにしならせながら襲い掛かってきた。
(剣の腕は自信があるが、魔法はまだまだ。しかしここで討ち取られるわけにいかぬ)
リーカーは振り下ろされる剣を避けて呪文を唱えた。
「***瞬動***」
すると彼の姿は急に消え失せた。剣士たちは一瞬、動揺して辺りを見渡した。その隙をついてリーカーは現れた。
「***魔道剣*瞬殺***」
リーカーは呪文を唱え、剣を素早く振り回し、一瞬のうちに斬りつけた。すると「ドサッ!」大きな音がして剣士たちたちはすべて床に倒れていた。
「なかなかやるようだ。さすがビンデリア一の剣士と言われたリーカーだ。しかし次はそうはいかんぞ!」
リーダーの男が呪文を唱えて剣を構えた。するとリーカーには周囲の光景がゆがんで見えてきた。そしてあちこちから剣が向かってくるように見え、リーカーは剣を振り回した。敵の魔法はこちらの自滅を待っているようだった。
(これは幻影魔法! 見てはならぬ)
リーカーは目を閉じた。そして敵の気配を探った。
「目をつぶりよったな! これで貴様も終わりだ!」
男はリーカーの背後から剣を振り下ろした。だがその気配を一瞬、早く感じたリーカーは振り返って
「***魔道剣*一刀斬***」
を放った。その強烈な一撃はその男を倒した。目を開けると男は恨めしそうにこちらを見ていた。
「しくじったか・・・だが俺を倒しても変わらぬ。貴様たちは別の者に殺されるだけだ」
男はそう言うと倒れて動かなくなった。
「パパ・・・」
エミリーが不安そうにリーカーを見ていた。リーカーは膝を落としエミリーの目を見ながら言った。
「よいか。我らにはもう道がない。これから自らの力で切り開いていくしかない」
―――――――――――――――――
リーカーは今日の出来事を思い出していた。あれからリーカーとエミリーは家を出て森の方に逃げた。家を襲って来たのは、正体を隠していたものの魔騎士と魔兵に違いなかった。そしてその後も魔騎士と魔兵が2人を襲ってきた。自分を妻殺しの反逆者として・・・。どうして奴らが・・・何のために・・・疑問はつきなかった。
「うむむむ・・・」
そのうちリーカーは右腹に鋭い痛みを感じるようになっていた。右手で触れるとそこは岩のように固くなっていた。
(これが代償か・・・。魔道剣の鉱の呪いが出ている。まだまだ未熟な上に自分の力以上の強力な魔法を使いすぎたためか・・・)
彼はそう思った。だがそれを後悔している暇はなかった。
(この身がどうなろうとエミリーを守らねば・・・)
彼の決意は揺るがなかった。
――――――――――――――――――――
空は晴れ渡り、すがすがしい朝だった。これからリーカーは聖なる山に向かうところだった。妻のアーリーと5歳になる娘のエミリーが玄関先に見送りに出ていた。
「私は魔法剣士となった。これからは女王様に仕えることになる。ゆくゆくはお前のために、未来の女王様のために力を尽くすことになる。そのために私は必ず成し遂げる」
ビンデリア国は魔法使いのエリザリー女王が統治していた。そしてその女王を支えるのは魔法力と剣の力を持つ魔騎士と言われる魔法剣士たちだった。
リーカーは大恋愛の末、エリザリー女王の一人娘アーリーを娶った。継承権からいえば彼女は次の女王になるはずであった。そのためビンデリア有数の剣士だったリーカーは、新たに魔法の修行をして魔法剣士になった。将来の女王のアーリーを支えるために。
だがそれだけでは十分ではない。女王の夫、つまり王配と認められるためには試練を受けねばならなかった。それは魔道の剣を手にすることだ。それは聖なる山にあるヨミ洞窟の奥に存在する。
「では行ってくる」
「パパ! しっかりね」
「ああ、エミリーもママのいうことを聞いて、おとなしく待っているんだ」
リーカーはかがんで笑顔で言った。
「あなた、どうかご無事で・・・」
少し心配げなアーリーに、「大丈夫だ」というようにリーカーは大きくうなずいて出かけて行った。
エリザリー女王の夫であった、今は亡きジェームズ公はヨミ洞窟から魔道の剣を持ち帰った。その洞窟は魔物が蟠踞する恐ろしい場所だった。魔法と剣の技に長けたジェームズ公はその試練に耐えて成し遂げたのだ。
一方、リーカーは剣士としてはこの国1,2を争うほどに優れていたが、魔法は全く使えなかった。だから血のにじむような修業を重ね、なんとか魔法を身に着けることができて魔法騎士となったのだ。この上は魔道の剣を我がものとしなければならない。
この剣はジェームズ公が亡くなったのと同時に王宮から消えた。ある魔法使いがヨミ洞窟を調べたところ、元の場所に突き刺さっていたそうだ。次に試練を受ける者を迎えるために・・・。
◇◇◇
リーカーはヨミ洞窟にたどり着いた。そこには年老いた魔法使いが待っていた。
「これから先は試練じゃ。襲ってくる魔物をはねのけ、魔道の剣を引き抜いて持って帰ってくるのじゃ。ただし魔道の剣は邪な者には抜けぬ。この国のため、女王様のために身をささげる決心がある者しか抜けぬ。よいな?」
「はい。わかっております」
リーカーは「はぁ!」と息を吐いて気合を入れると洞窟に入って行った。中は冷たい風が吹き不気味に静まり返っていた。
(何かがいる・・・)
リーカーは剣を抜いた。彼を狙って何かが迫ってきている気配はあった。すると突然、
「グオー!」
と大きな音が響き渡り、化け物の大蛇が目の前に現れた。毒霧を吐きながら、リーカーを一飲みしようと大きな口を広げていた。
「***一刀斬***」
リーカーは魔法を込めた剣を振るった。するとその大蛇は一刀両断され、姿を消した。
だがそれで終わりではない。魔物たちが次々にリーカーを襲ってきた。モンスターやドラゴン、そしてケルベロス・・・。だがリーカーは恐怖に打ち勝ち、それらを倒していった。
やがて洞窟の奥に来た。そこには地面に突き刺さった剣があった。それは暗闇に怪しい光を放っていた。まさしくこれぞ魔道の剣・・・リーカーはそう確信して剣に向かって誓いの言葉を述べた。
「我はこの身をこの国と女王様に捧げる。魔道の剣よ! 我をふさわしいと思うなら、地面より抜け出て我とともに来い!」
リーカーは魔道の剣の束に手をかけた。しびれるような感触はしたが拒絶されている気はしなかった。彼は力を込めた。
すると魔道の剣は一瞬、きらめいた。リーカーの思いと呼応するかのように・・・。そしてそのまま引き抜かれた。リーカーの手にかかる抵抗は全くなかった。魔道の剣はリーカーを認めたのだ。
リーカーは魔道の剣を持って洞窟の外に出た。そこにはあの年老いた魔法使いが待っていた。
「見事だ!」
年老いた魔法使いが大きくうなずいた。
「ジェイ・リーカー。お前はこの魔道剣に認められた。女王を支え、このビンデリアに平和をもたらすのだ」
「はっ。この命にかけましても私に与えられた使命を全ういたします」
リーカーは片膝をついて頭を下げた。
「この魔道剣はお前を大いに助けてくれるだろう。だがこの魔道剣を手に入れたということはこれからお前は苦難の道を進まねばならないだろう。それがこの剣を持つ者の運命だ。それにこの剣の魔力を使いすぎると鉱の呪いがお前に起こる。注意するのだ」
「はっ。肝に銘じます」
◇◇◇◇
リーカーは魔道剣を得て大きな喜びに包まれていた。それを妻のアーリーと娘のエミリーにいち早く伝えようと家に走って戻ってきた。ところが家の様子を見てリーカーは愕然とした。
門は破られ、家のドアは開けっ放しで中は荒らされていた。何者かが侵入したようだった。
「アーリー! エミリー!」
血相を変えたリーカーは家の中に入っていった。すると血を流したアーリーが倒れていた。
「おい! しっかりしろ! 何があったんだ!」
リーカーはアーリーを抱き起こした。彼女は虫の息だったが、リーカーの顔を見て安堵の表情が浮かべていた。
「あなた・・・いきなり剣士たちが・・・」
アーリーは息も絶え絶えに言った。
「剣士がどうした? エミリーは?」
「急に襲ってきて・・・魔法で結界を張っても破られて・・・エミリーを天井に隠して・・・私、いえ、エミリーは狙われています・・・」
「どうして! なぜなんだ!」
リーカーは動揺して声を上げた。
「あなた、エミリーを守ってください。エミリーを・・・」
アーリーはリーカーの腕をしっかりとつかんで訴えた。そしてそこでこと切れた。
「アーリー! しっかりするんだ! アーリー!」
リーカーは呼び続けたが、アーリーはもう目を開けることはなかった。彼女はリーカーの腕の中でそのまま冷たくなっていった。
「アーリー・・・」
リーカーは深い悲しみを覚えていた。しかしいつまでもそうしてはいられなかった。リーカーはアーリーの亡骸を下ろすと天井に声をかけた。
「エミリー! 聞こえるか? パパだ!」
「パパ・・・」
上の方から声が聞こえた。リーカーは天井の板を開けた。そこには目を赤く泣きはらしたエミリーの姿があった。
「エミリー! 無事だったか!」
彼女は音を立てまいと口を押さえ、流れる涙を必死にこらえていた。アーリーの魔法とエミリーの頑張りで、襲ってきた剣士たちから何とか隠し通せたようだった。
「怖かっただろう。もう大丈夫だ。よく我慢した」
リーカーはエミリーを下ろした。床に下りたエミリーに、変わり果てた母の姿が目に入った。
「ママ!」
エミリーはアーリーの亡骸のそばに寄ると、こらえていた涙を流した。
「エミリー・・・」
リーカーはエミリーの肩を抱いてやることしかできなかった。
(一体、どうしてこんなことに! アーリーを殺したのは誰なんだ! 許さぬ・・・)
リーカーに悲しみとともに激しい怒りが込み上げてきた。こんなことをした者に復讐したい衝動に駆られていた。 その時、
「やはりここにいたか!」
いきなり声が聞こえた。リーカーが前を見ると、見知らぬ数人の剣士たちが立っていた。エミリーがどうしても見つからず、リーカーの帰りを魔法で隠れて待っていたようだった。彼らは剣を抜いてリーカーに近づいてきた。
「お前たちか! 妻を殺したのは!」
リーカーが大声を上げて右手を伸ばした。すると剣が飛んできて、その右手にしっかり握られた。それはあの魔道剣だった。
「そうだ。死んでもらおう」
その剣士のリーダーらしい男は言った。そしてその男は呪文を唱えた。すると多くの刃物が飛んできて、リーカーに襲い掛かってきた。
「カーン! カーン!」
リーカーは剣でそれらをはじき落とした。
(魔法を使うとは! 魔騎士と魔兵? まさか!)
リーカーは心に浮かんだことが信じられなかった。リーダーの男は言った。
「少しはできるようだな?」
「貴様は魔騎士なのか? それならなぜ我らを?」
「それはどうかな? ふふん。知らずに死んだほうが身のためだ!」
その男は後ろにいる剣士たちに合図した。すると剣士たちは魔法で剣をムチのようにしならせながら襲い掛かってきた。
(剣の腕は自信があるが、魔法はまだまだ。しかしここで討ち取られるわけにいかぬ)
リーカーは振り下ろされる剣を避けて呪文を唱えた。
「***瞬動***」
すると彼の姿は急に消え失せた。剣士たちは一瞬、動揺して辺りを見渡した。その隙をついてリーカーは現れた。
「***魔道剣*瞬殺***」
リーカーは呪文を唱え、剣を素早く振り回し、一瞬のうちに斬りつけた。すると「ドサッ!」大きな音がして剣士たちたちはすべて床に倒れていた。
「なかなかやるようだ。さすがビンデリア一の剣士と言われたリーカーだ。しかし次はそうはいかんぞ!」
リーダーの男が呪文を唱えて剣を構えた。するとリーカーには周囲の光景がゆがんで見えてきた。そしてあちこちから剣が向かってくるように見え、リーカーは剣を振り回した。敵の魔法はこちらの自滅を待っているようだった。
(これは幻影魔法! 見てはならぬ)
リーカーは目を閉じた。そして敵の気配を探った。
「目をつぶりよったな! これで貴様も終わりだ!」
男はリーカーの背後から剣を振り下ろした。だがその気配を一瞬、早く感じたリーカーは振り返って
「***魔道剣*一刀斬***」
を放った。その強烈な一撃はその男を倒した。目を開けると男は恨めしそうにこちらを見ていた。
「しくじったか・・・だが俺を倒しても変わらぬ。貴様たちは別の者に殺されるだけだ」
男はそう言うと倒れて動かなくなった。
「パパ・・・」
エミリーが不安そうにリーカーを見ていた。リーカーは膝を落としエミリーの目を見ながら言った。
「よいか。我らにはもう道がない。これから自らの力で切り開いていくしかない」
―――――――――――――――――
リーカーは今日の出来事を思い出していた。あれからリーカーとエミリーは家を出て森の方に逃げた。家を襲って来たのは、正体を隠していたものの魔騎士と魔兵に違いなかった。そしてその後も魔騎士と魔兵が2人を襲ってきた。自分を妻殺しの反逆者として・・・。どうして奴らが・・・何のために・・・疑問はつきなかった。
「うむむむ・・・」
そのうちリーカーは右腹に鋭い痛みを感じるようになっていた。右手で触れるとそこは岩のように固くなっていた。
(これが代償か・・・。魔道剣の鉱の呪いが出ている。まだまだ未熟な上に自分の力以上の強力な魔法を使いすぎたためか・・・)
彼はそう思った。だがそれを後悔している暇はなかった。
(この身がどうなろうとエミリーを守らねば・・・)
彼の決意は揺るがなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる