魔道の剣  ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

広之新

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第2章 オースの森

湖の戦い

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 オースの森には普段は人などおらず、不気味なほど静まり返っている。だが今はその静けさを破り、人の分け入る音があちこちに聞こえていた。それはザウス隊長が派遣した魔騎士と魔兵だった。彼らはリーカーたちの行方を探していた。ザウス隊長からリーカー抹殺の命令を受けて・・・。そして頭上には黒いカラスが飛び回っていた。それは彼らが手なずけて使っている魔法の黒カラスだった。上空からもリーカーを追い詰めようとしていた。

 一方、リーカーとエミリーは追ってから逃げるために森の中をさまよっていた。日はすでに上っていたが、鬱蒼と茂る木々のために辺りはうす暗い。しばらく歩くと前方に何かキラキラしたものが見えた。

(こんなところに何だ?)

 リーカーはそう思いながら歩いていくとその正体がわかった。それは大きな湖だった。豊かな水を湛え、日の光を反射して森の中に光を放っていた。そのうちに波の音もかすかに聞こえてきた。

「こんなところに湖があったのか・・・」

 リーカーは立ち止まって大きく伸びをした。深く暗い森を歩いてきたのでこの明るさを新鮮に感じた。一方、

 エミリーはまだ不安そうで暗い顔をしていた。昨日のことを思えばそれは無理のないことだった。

「エミリー。向こうを見てごらん」

 リーカーはエミリーを高く抱き上げた。この素晴らしい景色を見せるために。

「わあ!」

 エミリーが感嘆の声を漏らした。やっと表情が明るくなった。

「少しそこまで行ってみるか」

 リーカーとエミリーは湖の方に向かった。

 ◇◇◇◇

 サランサは部屋に戻った。彼女は父のワーロン将軍の企みをすべて聞いてしまったのだ。今はとにかくリーカーに危険を知らせなくてはならない。その方法はあった。
 彼女の部屋には天井から鳥かごがぶら下がっていた。そこには真っ白なフクロウが入っており、大きな目で彼女を見ていた。その白フクロウは彼女の言葉を伝えてくれる魔法の鳥だった。彼女はすぐに鳥かごから白フクロウを出した。

「リーカー様に伝えて。『魔騎士と魔兵がオースの森に入りました。あなたとエミリー様の命を狙っております。お気をつけて。』と。さあ、行け!」

 サランサがフクロウをのせた左手を振り上げた。するとフクロウは窓の外から大空に羽ばたいていった。彼女の意思通りにオースの森に向かっている。それを見送りながらサランサは神に祈った。

「リーカー様。どうか、ご無事で」

 今の彼女にはそうすることしかできなかった。

 ◇◇◇◇

 湖に着いたリーカーとエミリーはその湖岸に腰かけた。湖面が日の光を反射してキラキラ輝いていた。その美しさに2人は今までのことを忘れて見とれていた。すると遠くの空から彼らに近づく影があった。それは魔法の白フクロウだった。

(私に何かを伝えに来たのか?)

 リーカーにはそれに悪意を感じず、むしろ何かを教えに来てくれたように感じた。彼がそっと左腕を伸ばすとそれはそこに止まった。

「魔騎士と魔兵がオースの森に入りました。あなたとエミリー様の命を狙っております。お気をつけて」

 白フクロウはそう伝えた。

(誰かはわからぬが、王宮に私を信じて味方してくれている人がいる)

 リーカーはそう思うと少し心強くなった。リーカーが左腕を突き出すと、白フクロウはすぐに飛び立った。

(追っ手はまだやって来る。エミリーと私を狙って)

 彼はその伝言を聞いて、これからも戦い続けなければならないことを覚悟した。

 しばらくしてリーカーは背後に人の気配を感じた。彼はすぐに立ち上がって剣を握って身構えた。

「そんなところにいたか!」

 それは魔騎士と魔兵たちだった。剣を抜いて近づいてきていた。

「お前たちも我らに危害を加えるのか?」
「何を言う! 貴様こそアーリー様を殺害し、エミリー様をかどわかして逃げている大悪人だろう! この魔騎士アクアが成敗してくれる!」

 アクアは剣を構えた。彼は何者かにそう伝えられていたのだ。

「違う! 私ではない。妻のアーリーは見知らぬ剣士たちに殺された。多分、魔騎士と魔兵だ」

 リーカーは首を振って否定した。

「そうよ。ママを殺したのはパパじゃないわ」

 エミリーも言った。だがそれを聞いてもアクアは剣をひかなかった。

「お可哀そうに。リーカーに言いくるめられたのですね。リーカー! この俺はだまされんぞ! いくぞ!」

 その言葉で魔兵が向かってきた。リーカーはエミリーを後ろの岩陰まで下がらせた。そして魔道剣を振り回し、呪文を唱えた。

「***魔道剣マグスグラディス発動アクティバーテ***」

 するとその剣は生き物のように動き、魔兵たちを次々に斬り倒していった。

「なかなかやるな! しかし俺はそうはいかんぞ!」

 アクアが斬りかかってきた。その鋭い剣さばきは目を見張るものがあった。しかしリーカーもそれに負けず、剣を振るい続けた。お互いに死力を尽くしたが決着はつきそうになかった。

「俺の技を見せてくれる!」

 アクアはじりじりと後ろに下がり、湖の中に足を踏み入れた。そして剣を大上段に構えると一気に振り下ろした。すると剣から吹き出た水が鋭い槍になってリーカーに飛んできた。

「いかん!」

 リーカーは横に飛んで逃れた。

「バーン!」

 水槍が当たった地面は大きな穴が開いていた。そしてその周囲は水浸しになっていた。

「見たか! 俺から逃れることはできんぞ!」

 アクアは言った。その剣の威力を見たリーカーはすぐに立ち上がって身構えた。

「食らえ!」

 アクアはまた剣を振り下ろした。すると水槍がまた飛んできた。リーカーは剣でそれをはね返した。その威力がリーカーの肩にズシリとかかった。アクアはさらに水槍を放った。それをリーカーはなんとか剣で振り払っていた。

「やるな! だが本当の恐ろしさはこれからだ! それ! それ! まだいくぞ!」

 アクアが剣を素早く振るった。すると多くの水槍が束になっていっぺんに飛んできた。これでは剣では受けられない。

「***結界オーベクス***」

 リーカーはそれを吹き飛ばそうとするが、ただ威力を減じただけで、いくつかの水槍はリーカーの体を切り裂いていった。

「ううっ!」

 リーカーは声を上げた。

「パパ!」

 その様子を見たエミリーは驚いて声を上げた。心配のあまり駆け寄ろうともした。しかしリーカーは倒れなかった。彼はエミリーを右手を上げて制した。だが何を思ったか、そこから走り出してその場を離れた。

「待て!」

 アクアが追ってきた。そしてまた剣を素早く何度も振りおろして水槍の束を放った。リーカーは呪文を唱えた。

「***結界オーべクス***」

「バーン!」

 今度は水槍の束はその結界に阻まれた。今度はリーカーが水槍の束を防いだのだ。

「足元に水がなければお前の技は力がない」

 リーカーは言った。確かに地面を濡らした水は少なかった。

「技を見切ったようだが、それだけで俺は倒せん!」

 アクアは水をまとった剣でリーカーに斬りかかった。その剣の威力は周りの木を斬り倒すほどだった。だが得意技を封じられたアクアに焦りが見え、そこに隙ができていた。リーカーは慌てずアクアの動きをとらえていた。そして

「***魔道剣マグスグラディス一刀斬ウヌミアクラブラド***」を放った。

 それはアクアの水の剣を叩き折り、その体を斬り裂いた。

「グア―ッ!」

 アクアは断末魔の叫びとともに倒れた。その声は森中に響き、こだました。そしてその後にはまた静寂が戻ってきた。

「ふうっ」

 リーカーは息を吐いた。そこにエミリーが駆け寄ってきた。

「パパ!」
「大丈夫だ」

 リーカーはそう言ってエミリーを抱き上げた。するとまた白フクロウが上空に現れ、リーカーの腕に止まった。今度はこちらかの言葉を伝えてくれるようだった。

「誰だかわからぬが感謝する。帰って伝えてくれ。『ありがとう。リーカーとエミリーは無事だ。』と」

 リーカーが白フクロウにそう言って飛び立たせた。それは空のかなたに消えていった。


 その白フクロウは王宮に向かい、サランサの部屋に戻った。それに気づいたサランサは白フクロウを腕に乗せた。

「ありがとう。リーカーとエミリーは無事だ。」

 白フクロウはそう言葉を発した。

「よかった。お2人とも無事で」

 サランサはほっとして喜びながらも、また神に祈っていた。

(どうかお2人をお守りください)
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