魔道の剣  ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

広之新

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第3章 隠し里

長老の言葉

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 その山の奥に隠し里があった。深い森の中でもそこだけは開けており、多くの屋敷と小屋、そして畑もあった。だが警戒は厳重のようで里の周りは高い塀が立ち並び、里への入り口には堅固な門になっていた。
 リーカーとエミリーはリサたちに連れられてその門をくぐり、大きな屋敷に連れて行かれた。そこにも槍を持った男たちが警備し、リーカーたちは庭に通された。それに面する部屋には2人の年輩の男が座り、リーカーに厳しい目を向けていた。

「リサ! その者たちはどうした?」
「ジムが山賊に襲われたのを助けて送ってきてくれた方です」
「リサ! この里の掟を知っておろう。この里に近づく者はすべて捕らえて牢に入れよと。それに例外はない。ここの里のことを外に漏らさぬためだ」
「それはわかっております。しかしこの者はジムの命を助けた者。しかも幼い子を連れております。お見逃しくださり、解き放たれますように」

 リサは最初にリーカーに会ったときは強い態度で臨んでいたが、内心はジムを救ったリーカーに感謝しているようだ。ジムも横から言った。

「お願いでございます。この方は私を助けてくださった方です。悪いお方ではございません。俺がこの旦那に甘えてこの近くまで送ってもらったのが悪かったのです」

 年輩の男の一人が改めてリサに聞いた。

「ではその者の名は? どこから来た?」
「それは・・・」

 リサは答えられなかった。訳ありのリーカーがあえて名前を伏せていたからだ。

「どうした? 聞いておらぬのか?」

 それにリーカーが答えた。

「よんどころない事情があって名を名乗れぬ。だが我らは怪しい者ではない」
「名乗れぬと? ますます信用ならん!」

 年輩の男たちはリーカーに疑いの目を向け、こそこそと話し合っていた。
 するともう一人、奥からゆっくり入ってきた。それはかなりの高齢の老人で目が不自由らしく、探り探り歩いていた。リサは慌ててその老人の手を取って部屋の真ん中に座らせた。

「儂はこの里の長老、ジャゴンじゃ。話しはそこで聞いていた。そこのお方。仔細がありそうじゃな」
「はい。我らはある者に命を狙われ、追われております」
「そうか。しかしそれはなぜじゃ?」
「それはわかりません。しかし妻は殺され、いわれのない罪を着せられました。そのためこうして娘を守るため放浪しております」

 リーカーの言葉を長老はそれを静かに聞いていた。そしてしばらく考えた後、長老は言った。

「わかった。あなた方を解放しよう」

 だが年輩の男たちはその裁定に不満だった。

「長老! この者たちは・・・」

 彼らがそう言いかけた時、長老はそれを右手で制した。

「この方々は悪いお方ではない。むしろ何者かに陥れられているのだろう。しかもジムを山賊から助けてくださった。その様なお方にむごい真似ができようか」

 長老のその言葉にはさすがに年輩の男たちもさらに反対もできず、仕方なく納得してうなずいた。長老はリーカーに尋ねた。

「時にあなたはどちらに向かうつもりだったのかな?」
「マールの町です」
「それなら人知れず抜けられる道がある。だがもう日が暮れる。明日、案内させよう。儂の家に泊まるがよい」
「すまぬ。世話になる」

 リーカーはそう言って頭を下げた。

 ◇◇◇◇

 リーカーに痛めつけられた山賊の3人は這々の体で何とか隠れ家に戻った。その奥では客人が来ているようで酒宴が行われていた。

「どうしたんだ! お前ら!」

 奥にいた男が声をかけた。

「お頭! 里の奴らを見つけたんで捕まえようとしたらこのざまです。滅法、強い奴がいまして・・・」
「何だと! それでおめおめと帰ってきたのか?」
「ですがお頭、奴は剣も抜かず、あっという間に俺たちを打ちのめしたんですよ。かないっこない」
「何を言ってやがる! それなら・・・」

 お頭が言いかけると、横にいる身なりのいい剣士が口を出した。

「腕の立つ剣士か? 他に特徴はなかったか?」
「へえ、幼い女のガキを連れていました」
「そうか・・・うむ」

 その剣士は何か思い当たることがあるらしく大きくうなずいた。その様子に何か知っていると思って、お頭は尋ねた。

「ジョーグ様。その野郎を知っているんですかい?」
「ああ、多分、奴だ。ジェイ・リーカーだ」
「どんな奴です?」
「とんだお尋ね者だ。あろうことか妻である王女のアーリー様を殺害し、お子のエミリー様をかどわかして逃亡しておる。王宮のザウス隊長から手配が出ておる」
「ええっ! そんな奴がここに?」

 お頭は驚いていた。そんな凶悪な奴がいたとは・・・。

「伝え聞いたところオースの森に潜伏していたらしい。しかし魔騎士の追及を受けて、そこから逃げ出しこの地に来たのだろう」
「そうですか。それなら奴は今頃、隠し里の方に」
「ああ、間違いあるまい。うむ。ここはよい機会かもしれぬ」

 ジョーグはまた大きくうなずいた。

「それは一体どういう事でございますか?」

 お頭は首をひねって尋ねた。

「元々、お前たちはあの隠し里を襲う気でいたのだろう。自分たちの勢力を拡大するために。だから早速そうすればよい。その場所の目星はついているのだろう?」
「へい。大体はわかりますが・・・。でも奴は腕が立つんでしょう?」
「ああ。だから俺も行く。そうして俺は奴を斬る。こんなところに飛ばされているが、魔騎士の俺の腕は天下無双だ。奴の腕が少々、立つからと言って所詮、俺の敵ではない。そうすればお前たちはあの里を簡単に落とせよう」

 それを聞いてお頭は手をポンと打ってうなずいた。

「なーるほど。里の奴らは戦いをろくに知らぬ素人ども。きっとうまくいきますぜ。」
「ああ。リーカーを倒せば、俺は出世してまた王宮に呼び戻される。こんな辺鄙なところともおさらばだ。はっはっは」

 ジョーグは大きく笑った。

 ◇◇◇◇

 リーカーとエミリーは長老の家に泊まることになった。そこにはリサもいて、エミリーの食事の世話や相手をしていた。会った時と違って笑顔を向けるリサに、エミリーも次第に心を許しているようだった。
 やがて夜になり、エミリーとリサは別室に寝に行った。部屋には長老とリーカーだけになった。

「お疲れであっただろう。明日、里の者に送らせる。抜け道を使えばマールの町まですぐだ」
「それは傷み入る」
「それにしてもリサの明るい声を聞けたのは久しぶりじゃ。もうしばらくそんな声を聞かなかった」

 長老はしみじみと言った。

「それはなぜ?」
「死んだ妹が帰って来たみたいに思えたのだろう。リサの肉親はもう祖父の儂だけなのだ」
「では両親は?」
「リサの妹が病気をして、両親は里の外に薬草を取りに行ったが、その時、山賊に襲われて殺された。リサもついて行ったのだが、彼女だけは何とか逃げてこの里にたどり着いた。だが薬草は手に入らず、妹は病で死んでしまった。ちょうどあなたの娘と同じぐらいの年じゃった」
「そんなことが・・・」

 リサはつらい過去を背負っていたのだった。

「両親が殺されてリサは変わってしまった。元々、優しい娘だったのに、あのように猛々しくなり剣を振り回すようになってしまった」
「それはやはり山賊のためか?」
「そうだ。奴らはこの地域をすべて支配しようとしている。だからこの里が喉から手が出るほど欲しがっている。この隠し里を突き止めようと何度も外に出た里の者をかどわかそうとしたし、多くの者を使って探し出そうとしている。この場所が判明するのは時間の問題だろう。ゆくゆくは我らは奴らにより殺されるかもしれぬ」

 長老はそう言ってため息をついた。リーカーは尋ねた。

「奴らの狙いはなんだ?」
「それはこの国から離れて独立した自分たちの国を作るためだ。自分たち山賊が都合の良い、人々を搾取できる国を。そうなったらこの地域に住む者に明日はない」

 長老はそう言い切った。
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