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第3章 隠し里
里への襲撃
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時刻はもう真夜中を回っていた。いつもなら森はひっそりと静まり返るはずだが、その日はガサガサと人の踏み入る音が鳴り響いていた。満月が明るく照らすもとで、多くの人影がうごめいていた。
やがて里の門の前に多くの者が集まった。門の不寝番は2人だけ、眠そうにあくびをしていた。
「行け!」
声がかかり、一斉に山賊が立ち上がった。そして
「わあーっ!」
歓声を上げて門に殺到した。門番は驚いて槍を構えたが、その勢いを止めることができなかった。門が破られ、山賊が里の中に殺到した。
そのけたたましい音は里中に響き、里の者はすべて起き上がった。うかつにもそのまま外に飛び出る者があったが、山賊によってすぐに斬り捨てられた。リサは剣を抱えて外に出て、周囲の様子を屋敷の影から探った。
「山賊が・・・こんなに・・・」
その時、リサの脳裏のあの時のことが浮かんだ。両親とともに薬草を摘みに来て、山賊たちに襲われたことを・・・そして無残にも両親は自分をかばって斬られて死んでいったことを・・・。
「リサ! お前だけでも生きろ! 生きるんだ!」
両親の声が脳裏に響き、彼女の心の炎を燃やした。
「許さぬ! 絶対に許さない! うわー!」
リサは叫びながら剣を抜いて出て行った。そして里の者を襲う山賊を斬り捨てていった。
「死ね! 死ね! 死ね!」
リサは感情をあらわにして剣を振り回した。その様子に山賊たちは恐れをなして逃げようとした。しかしお頭が叫んだ。
「逃げるな! よく見ろ! 相手はたった一人だ。それも女だ。怖がることはねえ! みんなで包み込んで斬り刻め!」
その言葉に山賊たちは勢いづき、逃げるのを止めてリサに向かって来た。彼女は囲まれて剣で斬られていた。
「うっ・・・」
リサの剣は落とされた。彼女は大きく肩で息をして片膝をついていた。激しい戦いとその傷でもう動けなかった。山賊の一人は止めとばかりに剣を大きく振り上げた。リサは観念して目を伏せた。もうこれで終わりだと・・・。
「***魔道剣*瞬殺***」
リサが目を開けると周りの山賊はすべて倒されていた。そして彼女の横にはリーカーが剣を構えて立っていた。
「あ、あんたは・・・」
リサはそれ以上、何も言えなかった。リーカーはリサに手をさしのばして立たせた。
「下がっていろ! ここは私だけでたくさんだ」
リサはうなずくと体を引きずるようにして屋敷の方に向かった。
リーカーの前に山賊が集まった。一瞬のうちに仲間を倒したリーカーが不気味で近寄れないでいた。
「これ以上の非道は許さぬ。私が相手だ」
リーカーは静かに言った。しかしその奥には怒りの炎が燃えているようだった。それを見て、お頭が彼の前に立ちはだかった。
「貴様か! 俺のかわいい子分をかわいがってくれたのは! かまわねえ! みんなでやっちまえ!」
その合図に山賊たちはリーカーに襲い掛かってきた。
「***瞬動***」
リーカーの動きは目にも止まらぬほど強まった。山賊たちが右往左往しているうちにリーカーの剣が彼らを斬り裂いていった。すると山賊たちは声を出せぬまま、次々に倒れていった。それを見てお頭が弓を取り出していた。
「相手が悪かったな。俺は弓の名手だ。この距離なら外さねえ!」
お頭は弓をつがえた。リーカーは剣を構えた。
「行くぜ!」
お頭がひょうと弓を放った。リーカーは慌てず、その弓を剣で叩き落とした。お頭は目を見開いて驚いた。この距離で矢を叩き落とすとは・・・。
「それだけか?」
「なに! ならば受けてみろ!」
お頭は気を取り直して連続して弓を放った。リーカーはそれをすべて叩き落とした。
「それだけかと聞いているんだ」
リーカーは悠然と前に出て来た。その威圧感にお頭は恐怖を覚え、焦って弓が手につかなかった。このままではやられる・・・。
「旦那! ジョーグの旦那! 出番ですよ! 奴がいますよ!」
お頭は後ろに向かって叫んだ。しかしジョーグは現れなかった。その間にもリーカーは迫ってくる。どうにもならなくなったお頭は弓を捨てて、剣を抜いた。
「こうなりゃ、破れかぶれだ!」
リーカーに剣を向けてきたが、所詮、彼の敵ではない。お頭は一刀のもとに斬り倒された。
「ふうっ!」
リーカーは息を吐くと剣を鞘に納めた。
「やった! やったわ!」
リサが喜んで飛び出してきた。もうこれで戦いは終わるはずだった。しかし陰からリーカーを狙う者がいた。剣に魔力を籠め、それをリーカーに向かって突き出した。リーカーはそれに気が付かない。渦となった風の刃が彼にまっすくに向かってきていることに・・・。
「危ない!」
それに気づいたのは駆け寄ってきたリサだった。彼女はリーカーをかばって前に立ち、風の刃を受けた。
「バーン!」
それはリサの胸を貫いた。
「うわあ・・・」
リサは悲鳴を上げ、胸を押さえてその場に倒れ込んだ。
「リサ!」
リーカーが叫んだ。急いで駆け寄ろうとしたが、次々に風の刃が飛んでくる。リーカーはそれを剣ではねのけて後ろに下がった。
「惜しかったな。もう少しで。この女が邪魔をしなかったらお前の命はなかった」
ジョーグが姿を現した。剣を構え、いつでも風の刃を出せるような態勢でリーカーに近寄ってきた。
「貴様か! こんなことをしたのは!」
「ああ、そうだ。俺は魔騎士ジョーグ。お前を倒して手柄を上げて出世する。あと腐れのないように山賊はお前が倒してくれた。後はお前だけだ! リーカー!」
「やられはせぬ。貴様のような卑怯な者に」
リーカーは剣を構えなおした。
「それはどうかな?」
ジョーグは風の刃を次々に放った。リーカーはそれを剣ではね返して前に出ようとするも、その刃の勢いになかなか前に進むことはできない。多くの刃が乱れ飛び、少しずつリーカーを斬り刻み始めた。リーカーは少しずつ後ろに下がっていた。やがて壁に背がついた。
「もう後がないぞ! これで終わりだ!」
ジョーグは大きく剣を振るって巨大な風の刃を浴びせようとした。リーカーはその一瞬の隙に呪文を唱えて剣を振り下ろした。
「***魔道剣*一刀斬***」
リーカーの剣は向かってくる風の刃を切り裂き、ジョーグの体の真ん中を斬った。
「ぐおおお・・・」
ジョーグは断末魔の叫びをあげてその場に倒れた。リーカーは剣をその場に刺すと、リサに駆け寄って抱き起した。
「しっかりしろ! リサ!」
しかし彼女は胸を貫かれており、もう虫の息だった。
「あ、あんた・・・リーカーだったんだね。妻殺しの・・・。でも私は信じない。あんたはそんなことできる人じゃない・・・」
「すぐに手当てをする。もうしゃべるな」
「もう命がないことぐらい私にもわかるよ。それよりありがとう。里を守ってくれて・・・みんなを助けてくれて・・・。私はもう安心して父と母と妹のいるところに行けるよ」
リサは微笑みながら一筋の涙を流した。そしてこと切れた。
リーカーはそっとリサを下ろした。彼女の死顔はやさしく安らかだった。長老が見えない目で何とかエミリーに手を引かれて出てきて、リサのそばに座ってその手を取った。
「リサはやられてしまったのか・・・」
「すまぬ。リサは私をかばって死んだ・・・」
リーカーは目を伏せた。
「あなたのせいではない。リサは守りたかったんだ。命をかけてすべてを・・・」
長老は涙を流していた。そして話を続けた。
「あなたはやはりリーカーであったのだな。儂にはわかっていた。あなたが無実であることも含めて・・・。あなたを追って魔騎士が来るのだろう。すぐにここを立たれるとよい。里の者に案内させよう」
長老の言葉にリーカーは深くうなずいた。エミリーは涙をこらえてそこに立ちつくしていた。
◇◇◇◇
リーカーとエミリーは里の者に抜け道を案内され、深い山を抜けた。リーカーは胸の一部に新たに鈍い痛みを感じていた。魔法を過度に使ったため鉱の呪いによりそこが鉄と化していたのだ。
大きな道に出るともう日が昇り、辺りは明るくなっていた。いよいよマールの町である。そこにまた一羽の白フクロウが空から飛来した。
リーカーは迷わず左腕を伸ばした。すると白フクロウは降りてきてそこに止まった。
「リーカー様。あなたを信じる者は王宮にもおります。いつかあなたの濡れ衣はきっと晴れます。エミリー様。女王様はあなたのお越しをお待ちしています。きっと王宮でお会いできる日が来ます。私はその日が早く来るように祈っております」
白フクロウは言葉を伝えた。リーカーはそれに勇気づけられ、エミリーの顔に笑顔が戻った。リーカーは白フクロウに言った。
「伝えてくれ。お前の主人に。『おかげで私とエミリーは無事だ。私たちは敵の目が多いオースの森を出た。マールの町に向かっている。ではまた』では行け!」
リーカーが左腕を上げると白フクロウは飛び上がった。空はいくつかの真っ白な雲が浮かんでいたが、抜けるように青かった。その中を白フクロウが飛んでいった。あの人にリーカーの言葉を届けるために。
やがて里の門の前に多くの者が集まった。門の不寝番は2人だけ、眠そうにあくびをしていた。
「行け!」
声がかかり、一斉に山賊が立ち上がった。そして
「わあーっ!」
歓声を上げて門に殺到した。門番は驚いて槍を構えたが、その勢いを止めることができなかった。門が破られ、山賊が里の中に殺到した。
そのけたたましい音は里中に響き、里の者はすべて起き上がった。うかつにもそのまま外に飛び出る者があったが、山賊によってすぐに斬り捨てられた。リサは剣を抱えて外に出て、周囲の様子を屋敷の影から探った。
「山賊が・・・こんなに・・・」
その時、リサの脳裏のあの時のことが浮かんだ。両親とともに薬草を摘みに来て、山賊たちに襲われたことを・・・そして無残にも両親は自分をかばって斬られて死んでいったことを・・・。
「リサ! お前だけでも生きろ! 生きるんだ!」
両親の声が脳裏に響き、彼女の心の炎を燃やした。
「許さぬ! 絶対に許さない! うわー!」
リサは叫びながら剣を抜いて出て行った。そして里の者を襲う山賊を斬り捨てていった。
「死ね! 死ね! 死ね!」
リサは感情をあらわにして剣を振り回した。その様子に山賊たちは恐れをなして逃げようとした。しかしお頭が叫んだ。
「逃げるな! よく見ろ! 相手はたった一人だ。それも女だ。怖がることはねえ! みんなで包み込んで斬り刻め!」
その言葉に山賊たちは勢いづき、逃げるのを止めてリサに向かって来た。彼女は囲まれて剣で斬られていた。
「うっ・・・」
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「***魔道剣*瞬殺***」
リサが目を開けると周りの山賊はすべて倒されていた。そして彼女の横にはリーカーが剣を構えて立っていた。
「あ、あんたは・・・」
リサはそれ以上、何も言えなかった。リーカーはリサに手をさしのばして立たせた。
「下がっていろ! ここは私だけでたくさんだ」
リサはうなずくと体を引きずるようにして屋敷の方に向かった。
リーカーの前に山賊が集まった。一瞬のうちに仲間を倒したリーカーが不気味で近寄れないでいた。
「これ以上の非道は許さぬ。私が相手だ」
リーカーは静かに言った。しかしその奥には怒りの炎が燃えているようだった。それを見て、お頭が彼の前に立ちはだかった。
「貴様か! 俺のかわいい子分をかわいがってくれたのは! かまわねえ! みんなでやっちまえ!」
その合図に山賊たちはリーカーに襲い掛かってきた。
「***瞬動***」
リーカーの動きは目にも止まらぬほど強まった。山賊たちが右往左往しているうちにリーカーの剣が彼らを斬り裂いていった。すると山賊たちは声を出せぬまま、次々に倒れていった。それを見てお頭が弓を取り出していた。
「相手が悪かったな。俺は弓の名手だ。この距離なら外さねえ!」
お頭は弓をつがえた。リーカーは剣を構えた。
「行くぜ!」
お頭がひょうと弓を放った。リーカーは慌てず、その弓を剣で叩き落とした。お頭は目を見開いて驚いた。この距離で矢を叩き落とすとは・・・。
「それだけか?」
「なに! ならば受けてみろ!」
お頭は気を取り直して連続して弓を放った。リーカーはそれをすべて叩き落とした。
「それだけかと聞いているんだ」
リーカーは悠然と前に出て来た。その威圧感にお頭は恐怖を覚え、焦って弓が手につかなかった。このままではやられる・・・。
「旦那! ジョーグの旦那! 出番ですよ! 奴がいますよ!」
お頭は後ろに向かって叫んだ。しかしジョーグは現れなかった。その間にもリーカーは迫ってくる。どうにもならなくなったお頭は弓を捨てて、剣を抜いた。
「こうなりゃ、破れかぶれだ!」
リーカーに剣を向けてきたが、所詮、彼の敵ではない。お頭は一刀のもとに斬り倒された。
「ふうっ!」
リーカーは息を吐くと剣を鞘に納めた。
「やった! やったわ!」
リサが喜んで飛び出してきた。もうこれで戦いは終わるはずだった。しかし陰からリーカーを狙う者がいた。剣に魔力を籠め、それをリーカーに向かって突き出した。リーカーはそれに気が付かない。渦となった風の刃が彼にまっすくに向かってきていることに・・・。
「危ない!」
それに気づいたのは駆け寄ってきたリサだった。彼女はリーカーをかばって前に立ち、風の刃を受けた。
「バーン!」
それはリサの胸を貫いた。
「うわあ・・・」
リサは悲鳴を上げ、胸を押さえてその場に倒れ込んだ。
「リサ!」
リーカーが叫んだ。急いで駆け寄ろうとしたが、次々に風の刃が飛んでくる。リーカーはそれを剣ではねのけて後ろに下がった。
「惜しかったな。もう少しで。この女が邪魔をしなかったらお前の命はなかった」
ジョーグが姿を現した。剣を構え、いつでも風の刃を出せるような態勢でリーカーに近寄ってきた。
「貴様か! こんなことをしたのは!」
「ああ、そうだ。俺は魔騎士ジョーグ。お前を倒して手柄を上げて出世する。あと腐れのないように山賊はお前が倒してくれた。後はお前だけだ! リーカー!」
「やられはせぬ。貴様のような卑怯な者に」
リーカーは剣を構えなおした。
「それはどうかな?」
ジョーグは風の刃を次々に放った。リーカーはそれを剣ではね返して前に出ようとするも、その刃の勢いになかなか前に進むことはできない。多くの刃が乱れ飛び、少しずつリーカーを斬り刻み始めた。リーカーは少しずつ後ろに下がっていた。やがて壁に背がついた。
「もう後がないぞ! これで終わりだ!」
ジョーグは大きく剣を振るって巨大な風の刃を浴びせようとした。リーカーはその一瞬の隙に呪文を唱えて剣を振り下ろした。
「***魔道剣*一刀斬***」
リーカーの剣は向かってくる風の刃を切り裂き、ジョーグの体の真ん中を斬った。
「ぐおおお・・・」
ジョーグは断末魔の叫びをあげてその場に倒れた。リーカーは剣をその場に刺すと、リサに駆け寄って抱き起した。
「しっかりしろ! リサ!」
しかし彼女は胸を貫かれており、もう虫の息だった。
「あ、あんた・・・リーカーだったんだね。妻殺しの・・・。でも私は信じない。あんたはそんなことできる人じゃない・・・」
「すぐに手当てをする。もうしゃべるな」
「もう命がないことぐらい私にもわかるよ。それよりありがとう。里を守ってくれて・・・みんなを助けてくれて・・・。私はもう安心して父と母と妹のいるところに行けるよ」
リサは微笑みながら一筋の涙を流した。そしてこと切れた。
リーカーはそっとリサを下ろした。彼女の死顔はやさしく安らかだった。長老が見えない目で何とかエミリーに手を引かれて出てきて、リサのそばに座ってその手を取った。
「リサはやられてしまったのか・・・」
「すまぬ。リサは私をかばって死んだ・・・」
リーカーは目を伏せた。
「あなたのせいではない。リサは守りたかったんだ。命をかけてすべてを・・・」
長老は涙を流していた。そして話を続けた。
「あなたはやはりリーカーであったのだな。儂にはわかっていた。あなたが無実であることも含めて・・・。あなたを追って魔騎士が来るのだろう。すぐにここを立たれるとよい。里の者に案内させよう」
長老の言葉にリーカーは深くうなずいた。エミリーは涙をこらえてそこに立ちつくしていた。
◇◇◇◇
リーカーとエミリーは里の者に抜け道を案内され、深い山を抜けた。リーカーは胸の一部に新たに鈍い痛みを感じていた。魔法を過度に使ったため鉱の呪いによりそこが鉄と化していたのだ。
大きな道に出るともう日が昇り、辺りは明るくなっていた。いよいよマールの町である。そこにまた一羽の白フクロウが空から飛来した。
リーカーは迷わず左腕を伸ばした。すると白フクロウは降りてきてそこに止まった。
「リーカー様。あなたを信じる者は王宮にもおります。いつかあなたの濡れ衣はきっと晴れます。エミリー様。女王様はあなたのお越しをお待ちしています。きっと王宮でお会いできる日が来ます。私はその日が早く来るように祈っております」
白フクロウは言葉を伝えた。リーカーはそれに勇気づけられ、エミリーの顔に笑顔が戻った。リーカーは白フクロウに言った。
「伝えてくれ。お前の主人に。『おかげで私とエミリーは無事だ。私たちは敵の目が多いオースの森を出た。マールの町に向かっている。ではまた』では行け!」
リーカーが左腕を上げると白フクロウは飛び上がった。空はいくつかの真っ白な雲が浮かんでいたが、抜けるように青かった。その中を白フクロウが飛んでいった。あの人にリーカーの言葉を届けるために。
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