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第5章 ニールの港
ハイスという男
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ニールの港は活気に満ちてにぎわっていた。ここはビンデリア唯一の海への玄関だった。他国からの船が並び、様々な珍しい物品が運ばれてきていた。高い建物がそびえたつ街中には市場が立ち並び、多くの人々が行き来していた。
リーカーとエミリーはようやくニールの港に到着した。ここはリーカーの古くからの知り合いの男がいるはずだった。彼を探すために情報が集まりやすい酒場に入った。そこは荒くれ者の船乗りや怪しげな連中がたむろしており、この場に似つかわしくない親子を不審な目で見ていた。リーカーはその視線にかまわず、奥に入って行きカウンターで尋ねた。
「ハイスはいるか?」
するとバーテンは黙ったまま顔を奥のテーブルに向けた。
「ありがとう」
リーカーはその奥のテーブルに向かった。そこには大柄な男が一人で飲んでいた。
「ハイス、私だ」
リーカーが声をかけた。するとハイスは顔を上げた。そしてリーカーを認めるといきなり立ち上がって
「この野郎!」
と殴り掛かってきた。
「おっと!」
リーカーはその拳を避けた。それでもハイスは次々に拳を繰り出してきた。リーカーはそれを手で何とか受け止めていた。
◇◇◇◇
白フクロウが王宮のサランサの元に戻ってきた。
「リーカーもエミリーも大丈夫だ」
サランサの腕に止まった白フクロウはそう伝えた。
「そう。それはよかった。でもリーカー様たちは今度はどこに行かれたのでしょう・・・」
彼女はリーカーを追うマークスの存在が気がかりだった。
「リーカー様、ご無事をお祈りいたします」サランサは空に向かってそう呟いていた。
◇◇◇◇
酒場で、リーカーとハイスが拳を構えてにらみ合っていた。さっきからお互いに拳を叩きあっていたが勝負はつかなかった。
「パパ・・・」
エミリーが心配して声をかけた。するとハイスの腕は止まった。
「おっと。お嬢ちゃん。怖がらせてごめんよ。これが俺流のあいさつなんだ!」
ハイスは拳を下ろして笑顔になった。
「お前っていうやつは相変わらずだな」
リーカーがあきれたように言った。
「ははは。驚かしてやろうと思ってな・・・」
ハイスはソファにどっかりと腰を下ろした。
「ハイス、頼みがあってここに来た。それは・・・」
リーカーが言いかけるとハイスは右手を挙げて制した。
「わかっている。隠れるところを探しているんだろう。俺に任せろ」
ハイスは胸を叩いた。
「こんなことを頼むからには訳を言わねばならないが・・・」
「いや、すべてわかっている。巷じゃ、お前が妻を殺して娘を連れて逃げていると言っているが、俺はだまされねえ。お前がそんなことをするわけがない。さっき拳をかわしてそれを確信した。誰かの罠にはまっているんだな」
ハイスの言葉にリーカーは深くうなずいた。
「ああ、そうだ。エミリーが狙われている。私はこの子を守り通さねばならない。殺された妻のためにも」
「ここへ来るんじゃないかと用意はしていた。隠れ家に案内しよう。ついてきてくれ。」
ハイスには何もかも分かっていた。彼は危険を承知でリーカーたちをかくまおうというのだ。
◇◇◇◇
マークスの隊はニールの港に到着した。街では多くの人々で混雑して、まともに歩けないほどだった。ミラウスはため息をついて言った。
「こう人が多いと探しようがないですね」
「うむ。そうだな。しかし必ず奴はこの港のどこかに隠れている」
マークスは確信していた。必ずリーカーがいると。彼は辺りを見渡した。商人、船乗り、剣士、女子供・・・・様々な人でごった返している。姿をくらませるのには好都合だ。
「この港の役人の手を借りよう。徹底的に捜索して探し出すしかない」
マークスはミラウスにそう言った。
◇◇◇◇
リーカーとエミリーは酒の貯蔵庫に案内された。そこは港から少し離れた場所にあった。周囲を森に囲まれ静かなところだった。もちろん人は誰もいなかった。
「ここなら滅多に人が来ない。でももし誰か来ても地下室があるからそこに隠れたらいい。いざとなったらその地下室から外に抜けられる抜け道もある。俺だけが知っている秘密だがな。まあ、夜は冷えるが昼間は日も当たるから温かい。だが少々、かび臭いがな」
「すまぬ」
リーカーは頭を下げた。
「いいってことよ。俺とお前の仲じゃないか。思い出すぜ。お前さんがこの港に来た頃を・・・」
ハイスは昔を懐かしむように言った。
リーカーは若い頃、この港を訪れたことがあった。その時、彼は武者修行の旅をしていたのだ。各地の剣術道場や腕の立つ剣士に試合を申し込み、剣の腕を磨いていた。ハイスはまだ駆け出しのチンピラだった。けんかに明け暮れ、人々から厄介者扱いを受けていた。
その2人が偶然、出会った。剣士の一団に絡まれて困っていた市場の者を助けるため、ハイスは首を突っ込んだ。だがかえって剣士たちの反感を買って、ボコボコに殴られ袋叩きに合っていた。しかしそこにリーカーが通りかかった。リーカーは剣士たちのあまりに卑怯な振る舞いに怒り、一瞬のうちに剣たちを叩きのめしてハイスたちを救った。それ以来、ともに行動することが多かった。性格も生まれも違う2人であったが馬があったということだろうか、数か月の滞在で兄弟同様の仲になった。
「じゃあ、俺は行くよ。何かうまいものでも調達してくる。お嬢ちゃんも楽しみにしてくれよ」
ハイスはエミリーに笑いかけてそう言うと貯蔵庫を出て行った。
◇◇◇◇
ハイスが外に出てしばらく歩くと目の前に男が立っていた。黒マントにトンガリ帽で怪しげな雰囲気を醸し出しており、この辺りで見た顔ではなかった。ハイスを見て不気味に笑っている。
「なんだ? おまえは」
ハイスが胡散臭そうにその男を見た。
「ここにリーカーがいるな?」
その男はウイッテだった。
「なに! おまえ! リーカーたちに手を出したら俺が承知しねえぞ!」
ハイスは身構えた。
「ふふん。そうか。ではお前にやってもらおうか」
ウイッテは右手を出してハイスに魔法をかけた。ハイスはなぜか身動きできず、体が揺れていくのを感じた。
「そうだ。お前は儂のしもべになるのだ」
ウイッテの言葉がハイスの頭に刻まれていった。ハイスは何とか抵抗しようと頭を振ったり体を動かしたりした。だが次第に意識が薄れていくのを感じた。
(このままでは奴の操り人形になってしまう・・・)
ハイスはそう感じた。それで何とか力を振り絞って、
「この野郎!」
とウイッテに拳を突き出そうとした。だがそれが届く前に彼はその場に倒れた。
「いいぞ。さあ、起きろ、儂のしもべよ」
ウイッテがそっと声をかけた。するとハイスが立ち上がった。その目からは生気は失われていた。
「さあ、リーカーを殺せ! リーカーを殺すのだ!」
ウイッテがハイスの耳元でつぶやいた。
「はい。ご主人様」
ハイスはうつろな目でそう答えた。
リーカーとエミリーはようやくニールの港に到着した。ここはリーカーの古くからの知り合いの男がいるはずだった。彼を探すために情報が集まりやすい酒場に入った。そこは荒くれ者の船乗りや怪しげな連中がたむろしており、この場に似つかわしくない親子を不審な目で見ていた。リーカーはその視線にかまわず、奥に入って行きカウンターで尋ねた。
「ハイスはいるか?」
するとバーテンは黙ったまま顔を奥のテーブルに向けた。
「ありがとう」
リーカーはその奥のテーブルに向かった。そこには大柄な男が一人で飲んでいた。
「ハイス、私だ」
リーカーが声をかけた。するとハイスは顔を上げた。そしてリーカーを認めるといきなり立ち上がって
「この野郎!」
と殴り掛かってきた。
「おっと!」
リーカーはその拳を避けた。それでもハイスは次々に拳を繰り出してきた。リーカーはそれを手で何とか受け止めていた。
◇◇◇◇
白フクロウが王宮のサランサの元に戻ってきた。
「リーカーもエミリーも大丈夫だ」
サランサの腕に止まった白フクロウはそう伝えた。
「そう。それはよかった。でもリーカー様たちは今度はどこに行かれたのでしょう・・・」
彼女はリーカーを追うマークスの存在が気がかりだった。
「リーカー様、ご無事をお祈りいたします」サランサは空に向かってそう呟いていた。
◇◇◇◇
酒場で、リーカーとハイスが拳を構えてにらみ合っていた。さっきからお互いに拳を叩きあっていたが勝負はつかなかった。
「パパ・・・」
エミリーが心配して声をかけた。するとハイスの腕は止まった。
「おっと。お嬢ちゃん。怖がらせてごめんよ。これが俺流のあいさつなんだ!」
ハイスは拳を下ろして笑顔になった。
「お前っていうやつは相変わらずだな」
リーカーがあきれたように言った。
「ははは。驚かしてやろうと思ってな・・・」
ハイスはソファにどっかりと腰を下ろした。
「ハイス、頼みがあってここに来た。それは・・・」
リーカーが言いかけるとハイスは右手を挙げて制した。
「わかっている。隠れるところを探しているんだろう。俺に任せろ」
ハイスは胸を叩いた。
「こんなことを頼むからには訳を言わねばならないが・・・」
「いや、すべてわかっている。巷じゃ、お前が妻を殺して娘を連れて逃げていると言っているが、俺はだまされねえ。お前がそんなことをするわけがない。さっき拳をかわしてそれを確信した。誰かの罠にはまっているんだな」
ハイスの言葉にリーカーは深くうなずいた。
「ああ、そうだ。エミリーが狙われている。私はこの子を守り通さねばならない。殺された妻のためにも」
「ここへ来るんじゃないかと用意はしていた。隠れ家に案内しよう。ついてきてくれ。」
ハイスには何もかも分かっていた。彼は危険を承知でリーカーたちをかくまおうというのだ。
◇◇◇◇
マークスの隊はニールの港に到着した。街では多くの人々で混雑して、まともに歩けないほどだった。ミラウスはため息をついて言った。
「こう人が多いと探しようがないですね」
「うむ。そうだな。しかし必ず奴はこの港のどこかに隠れている」
マークスは確信していた。必ずリーカーがいると。彼は辺りを見渡した。商人、船乗り、剣士、女子供・・・・様々な人でごった返している。姿をくらませるのには好都合だ。
「この港の役人の手を借りよう。徹底的に捜索して探し出すしかない」
マークスはミラウスにそう言った。
◇◇◇◇
リーカーとエミリーは酒の貯蔵庫に案内された。そこは港から少し離れた場所にあった。周囲を森に囲まれ静かなところだった。もちろん人は誰もいなかった。
「ここなら滅多に人が来ない。でももし誰か来ても地下室があるからそこに隠れたらいい。いざとなったらその地下室から外に抜けられる抜け道もある。俺だけが知っている秘密だがな。まあ、夜は冷えるが昼間は日も当たるから温かい。だが少々、かび臭いがな」
「すまぬ」
リーカーは頭を下げた。
「いいってことよ。俺とお前の仲じゃないか。思い出すぜ。お前さんがこの港に来た頃を・・・」
ハイスは昔を懐かしむように言った。
リーカーは若い頃、この港を訪れたことがあった。その時、彼は武者修行の旅をしていたのだ。各地の剣術道場や腕の立つ剣士に試合を申し込み、剣の腕を磨いていた。ハイスはまだ駆け出しのチンピラだった。けんかに明け暮れ、人々から厄介者扱いを受けていた。
その2人が偶然、出会った。剣士の一団に絡まれて困っていた市場の者を助けるため、ハイスは首を突っ込んだ。だがかえって剣士たちの反感を買って、ボコボコに殴られ袋叩きに合っていた。しかしそこにリーカーが通りかかった。リーカーは剣士たちのあまりに卑怯な振る舞いに怒り、一瞬のうちに剣たちを叩きのめしてハイスたちを救った。それ以来、ともに行動することが多かった。性格も生まれも違う2人であったが馬があったということだろうか、数か月の滞在で兄弟同様の仲になった。
「じゃあ、俺は行くよ。何かうまいものでも調達してくる。お嬢ちゃんも楽しみにしてくれよ」
ハイスはエミリーに笑いかけてそう言うと貯蔵庫を出て行った。
◇◇◇◇
ハイスが外に出てしばらく歩くと目の前に男が立っていた。黒マントにトンガリ帽で怪しげな雰囲気を醸し出しており、この辺りで見た顔ではなかった。ハイスを見て不気味に笑っている。
「なんだ? おまえは」
ハイスが胡散臭そうにその男を見た。
「ここにリーカーがいるな?」
その男はウイッテだった。
「なに! おまえ! リーカーたちに手を出したら俺が承知しねえぞ!」
ハイスは身構えた。
「ふふん。そうか。ではお前にやってもらおうか」
ウイッテは右手を出してハイスに魔法をかけた。ハイスはなぜか身動きできず、体が揺れていくのを感じた。
「そうだ。お前は儂のしもべになるのだ」
ウイッテの言葉がハイスの頭に刻まれていった。ハイスは何とか抵抗しようと頭を振ったり体を動かしたりした。だが次第に意識が薄れていくのを感じた。
(このままでは奴の操り人形になってしまう・・・)
ハイスはそう感じた。それで何とか力を振り絞って、
「この野郎!」
とウイッテに拳を突き出そうとした。だがそれが届く前に彼はその場に倒れた。
「いいぞ。さあ、起きろ、儂のしもべよ」
ウイッテがそっと声をかけた。するとハイスが立ち上がった。その目からは生気は失われていた。
「さあ、リーカーを殺せ! リーカーを殺すのだ!」
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