魔道の剣　　ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

広之新

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第8章　真実への道

立ちはだかる友

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　ヤギシ副隊長の隊はリーカーが通るであろう道で待ち構えることにした。魔法の黒カラスからの知らせではリーカーたちは確かにこちらに向かっていた。戦いは目の前に迫っていた。

　彼はもう一人、魔騎士を連れていた。それはカロムという男だった。彼はリーカーの討伐にぜひ加えてくれと懇願してきたのだった。魔騎士隊の中では中堅どころで、目立つ存在ではなかったが実直な男だった。真面目で命令に忠実であり、頑固なほど筋を通すのにこだわっていた。
　もちろんカロムには、リーカーは気がふれてアーリー様を殺害してエミリー様を人質に逃げ回っている、幼いエミリー様をだまして・・・という風に伝えていた。

「リーカーが来ましたら是非、私を向かわせてください」

　カロムは何度も言っていた。ヤギシ副隊長はそれを認めた。どうせ隊の中でも目立たぬ奴、手柄が欲しいのだろうと・・・。ただ気になるのは、カロムは普段とは比べ物にならぬほど厳しい目をしていた。

　◇◇◇◇

　王宮ではサランサはマデリーやワーロン将軍たちの陰謀を知ってしまった。しかもエリザリー女王の命まで狙われていた。もう頼るのはリーカーしかない・・・。

（早くリーカー様にお知らせしなければ・・・）

　サランサはエリザリー女王からようやく取り戻した白フクロウに言葉を託した。

「頼むわね。リーカー様の元へ」

　サランサは白フクロウを空に放った。するとそこにワーロン将軍が入ってきた。

「サランサ！　何をしておる？」
「いえ、何も・・・」

　サランサは目を伏せて言葉を濁した。そのおかしな様子にワーロン将軍は勘づいた。

「今、放った白フクロウ。まさか、お前がリーカーに伝えているのか？」
「・・・」

　ワーロン将軍の問いかけにサランサは口を閉ざした。だがその態度はそうだと答えたのも同然だった。

「そうか・・・。お前は何もかも知っているのだな。だが安心しなさい。お前の幸せを一番に考えておる。悪いようにせぬ。すべて父に任せよ」

　ワーロン将軍が無理に笑顔を作って言った。

「でしたらお止めください！　こんなこと、もうたくさんです！」

　サランサは大きな声を上げた。普段はおとなしいサランサの、その感情的な態度に驚きつつも、ワーロン将軍はあることを思い出した。

「そうか。お前、心配しておるのだな。あのリーカーのことを」
「いえ・・・」

　その言葉にサランサはひどく動揺していた。

「そうか。お前はリーカーに惚れていたんだったな。しかし奴は王女のアーリーと結婚したんだぞ。もう奴のことは忘れろ。どうせ奴は殺されるのだから」

　ワーロン将軍は残酷な言い方をした。それにサランサは強く反応した。

「私は今でもあの方を陰からお慕いいたしております。あの方のためなら・・・」

　サランサははっとして途中で言うのをやめた。これ以上話すと、自分がどんなことを口走るかわからなかったからだった。

「まあ、よい。お前がどんなにあがいても奴は死ぬし、エミリーもこの世からいなくなる。お前はそんなことを忘れて幸せな女王になるのだ。はっはっは」

　ワーロン将軍は笑いながらそう言った。

「ひどい！」

　サランサは涙をこぼしながら部屋を出て走り去った。

　◇◇◇◇

　リーカーはエミリーとともに街道を進んでいた。すでに魔法の黒カラスに見つかってその位置を知られている。鬱蒼とした森の中を進んで思わぬ敵の襲撃を受けるよりも、見晴らしのいい街道の方がいいと判断したのだ。

　すると前方に人影が一つ見えた。それは道の真ん中に仁王立ちしていた。

「カロムか！」

　リーカーはその人影を見てはっきりわかった。幼いころから剣の腕を供に磨き、片や剣士、片や魔騎士と道が分かれてしまったが、抜かしと変わらぬ親友の間柄だった。そのカロムがリーカーに戦いを挑もうとしていたのだ。リーカーが近づいて行くとカロムが口を開いた。それはいつもと変わらない様子だった。

「久しぶりだな」
「そうだな。1年ぶりか」
「その様子では気がふれたという噂は嘘のようだな・・・ではなぜアーリー様を手にかけたのだ！」

　カロムは急に大きな声で問い詰めた。それには親友の裏切りに対する悔しさがにじみ出ていた。

「私ではない。多分、魔騎士がワーロンやザウスの命を受けてやったのだ」

　リーカーは答えた。だがカロムはさらに大きな声を上げた。

「言うな！　お前がやったことは明白だ。ザウス隊長がとうに調べているのだ。俺にまで嘘を言うのか！　貴様、そこまで腐ったか！」
「お前に嘘を言ったことがあるか！　信じてくれ！」
「それならこの剣で聞いてやる！」

　カロムは剣の柄に手をかけた。それを見てエミリーが言った。

「やめて！　パパのいうことは本当よ。信じて！」

　しかしカロムは首を横に大きく振り、エミリーに向かって、

「エミリー様。あなたは騙されているのです。この私めがこの奸物を退治し、あなたを救っても見せます。さあ、そこから離れてください」

　とやさしく言うだけだった。エミリーはリーカーから離れたくなかったが、

「向こうの岩陰に隠れているのだ」

　とリーカーに言われ、仕方なくそこに身を隠した。リーカーは剣の柄に手をかけた。

「本当にお前と戦わねばならぬのか？」

「問答無用！」

　カロムは剣を抜くと斬りかかってきた。リーカーも素早く剣を抜くとそれを受け止めた。「カキーン！」という金属音が辺りに響き渡った。そして両者は何度も剣を合わせた。

「親友だったお前を斬るのは俺しかいない！」

　カロムは呪文を唱えた。すると地面から土煙が上がって、それが剣と体全体に付着した。

「魔人の剣だ。行くぞ！」

　カロムは剣を振り下ろした。

「ガチッ！」

　その剣は重くのしかかった。リーカーは何とか受け止めたが、今にも押しつぶされそうだった。リーカーは　

「＊＊＊魔道剣マグスグラディス＊重力斬グラビタスブルヌス＊＊＊」

　の魔法を剣にかけた。すると剣が分厚くなり、鈍い光を放った。その剣で力を籠めるとカロムの魔人の剣を押し返した。2人は間合いを取って剣を構えた。

「私の目を見ろ！　嘘をついている者の目か！」

　リーカーは言った。カロムはじっとその目を見た。

（嘘をつく者の目ではない・・・）

　カムロにはわかった。しかもリーカーの剣は邪悪にまみれることもなく、すがすがしいほどのキレがあった。そしてリーカーの姿をよく見て、さらに驚いて目を見開いた。彼の破れた服の間から黒い鉄の皮膚が見えていた。

「お前・・・それは・・・」

　カロムは思わず声が出た。リーカーは静かに言った。

「そうだ。魔道剣の鉱《あらがね》の呪いを受けている。それでも必ずワーロンからエミリーを守る！」

「お前・・・そこまでして・・・」

　カロムはリーカーの決意が固いことを知った。

（一体、何を信じたらいいのか・・・）

　迷いが生じたカムロは剣を振り上げたまま、動けなかった。

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