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第14章 駆け落ちの行方
説得
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部屋にいる2人はじっと黙ったままだった。しばらくの間、静寂がこの空間を支配していた。
「ソラン。もうダメかもしれない。」カズン王女は悲しげにつぶやいた。
「ああ、やっとここまで逃げてきたのにマコウの取締官がかぎつけてきた。もうすぐすると押し寄せてくるかもしれない。」ソランもため息をついた。
「もう逃げられない・・・逃げるところはない・・・」カズン女王はまたつぶやいた。
「捕まれば引き離される・・・。君は星で幽閉。僕は反逆罪で死刑。もう2度と会うことはできない・・・」
「いやよ! それぐらいなら!」カズン王女はソランをじっと見つめた。
「2人だけになれる世界に行きましょう。誰にも邪魔されない・・・」
「ああ、わかった。2人の永遠の愛のために・・・」
ソランとカズン王女は手をお互いに握り締め、そして立ち上がった。
2人のそんな悲劇的な気分を知らずに女将は浮かれていた。
「私が2人を守る! 愛する2人を・・・! そうだ。ここにかくまうことを言って安心させてあげないとね。」
そして部屋の前まで来て、
「女将です。ちょいと失礼しますよ。」と声をかけた。しかし返事は聞こえなかった。
「女将ですよ。ちょいと開けてください。」それでも返事はなかった。
「ちょっと開けますよ!」女将が開けるとそこに2人の姿はなかった。荷物もそのままで、ただ書置きがしてあった。それは異星人の言葉で女将には理解できないものの、その内容についてはピンときた。
「もしかして外に出て心中? 確かに近くに崖はある・・・これは大変!」女将はその書付を握ると、
「大変だ! 大変だ!」と騒いで帳場に急いで降りた。
そこには正介がいた。女将はぜえ、ぜえと肩で息をして何も言えなかったが、とにかくその書付を正介に渡した。
「どうしたんです? そんなに慌てて。」それを受け取った正介は目を通した。するとその顔色が変わった。
(しまった! そこまで思い詰めているとは・・・)
「女将さん! ちょっと探してきます!」正介はそこを飛び出して行った。
「私も行くよ・・・」女将はそう言ったものの、息が切れて動けなかった。
ソランとカズン王女は旅館をそっと抜け出して裏山に上っていた。そこには窓から見えた崖があるはずだった。2人の心は決まっていた。そこから飛び降りてともに死のうと・・・。それが2人が下した決断だった。
2人は懸命にその崖を目指して裏山の細い険しい道を進んでいた。生い茂った木々が空を隠し、昼間だというのに薄暗かった。辺りは不気味なほど静まり返り、2人を奥へ奥へと引き込んでいるかのようだった。
しばらくすると森を抜けた。明るくなったその目の前にはあの崖があった。2人はゆっくりと崖の端まで歩いた。ここから身を投げると死が待っている。もう後戻りはできない・・・。2人は互いの顔を見ると、何も言わずに目をつぶって神に祈った。そして靴を脱ぎ、その崖に飛び込もうとしていた。
「待たれよ!」
その声は辺りに響き渡り、木にとまっていた鳥が飛び立った。
「誰!」カズン王女が目を開けて辺りを見渡した。すると近くに黒装束の男が立っていた。
「カズン王女! ソラン! 死んではならぬ!」それは半蔵だった。
「あなたは誰なの? 私たちを捕まえに来たの?」
「私は敵ではない。あなたたちの味方だ。2人を守るためにここに来た。」半蔵は言った。
「止めないで。もうどうすることもできないのよ!」カズン王女が叫んだ。
「いや、まだ手はある。2人して生きる道はきっとある!」半蔵は言った。
「だが、もうマコウの手が伸びている。捕まるのは時間の問題だ! 捕まれば最後、ユーラス星に送られて僕は死刑。カズンは一生幽閉の身になる。」ソランが声を上げた。
「それならば我らがきっと守る。旅館の人間もあなたたちの味方だ。地球人を信じて欲しい!」半蔵は強く言った。
「しかし・・・」
「この地球は保護惑星でマコウ人に虐げられ、絶望的な毎日を送っている。しかしそれでも地球人は希望を捨てようとはせぬ。昨日より今日、今日よりも明日に希望をつないで生きているのだ。カズン王女。ソラン。あきらめてはならぬ。きっと2人が幸せに生きていく道がある。」半蔵は静かに言った。その言葉が2人に染みたようであった。
「さあ、旅館に戻れ。皆が温かく迎えてくれるはずだ。」半蔵がそう言うと遠くから足音が聞こえてきた。女将が心配して何とかここまで登って来たようだった。それを見て半蔵は姿を消した。
「はあ、はあ、間に合った・・・」女将は息が上がってヨレヨレの状態だったが、2人がそこに立っていることでホッとしていた。
「女将さん。大丈夫ですか?」カズン王女が駆け寄った。
「ええ、大丈夫ですよ。それよりあなたたち、ここで何をしようと思ったんだい?」
「それが・・・」カズン王女は言葉を濁した。
「ここから落ちて死のうとしたんだろう。どういう事情かは知らないけど短気は駄目だよ。死んじゃいけないよ!」女将の目には涙が浮かんでいた。
「死ぬほど辛いこともあるだろう。でも2人が力を合わせりゃ、何とか切り抜けられるよ。だから死ぬなんて言わないでおくれ。生きていくと言っておくれ・・・」女将の目から涙がこぼれた。
「女将さん・・・」カズン王女の目から涙が流れた。今まで辛い言葉を浴び去られてきた彼女にとって女将の言葉が胸に響いた。それはソランも同じだった。
「約束しておくれよ。きっと短気なことはしないって。私もできるだけのことはする。困ったことがあったらなんでも言っておくれ。私は2人の味方だよ。」
「女将さん。ありがとう。もうこんなことはしない。約束するわ。」カズン王女は言った。ソランも横でうなずいていた。
「それならもう泣くのを止めて、さあ、笑って! そんなことじゃ辛気臭くなってしまうよ。さあ、部屋に戻ってお食事にしましょう。うちの菊がきっとおいしいものをこしらえますから。」女将は涙を拭きながら2人の肩を抱いた。
「ええ・・・。ありがとう。」カズン王女は涙を拭いて笑顔になった。
その光景を半蔵は遠くの木の陰から見ていた。
「もうこれで王女たちは自ら命を絶ち事はしないだろう。しかしいつまでもこのままというわけにはいかぬ。2人が安心に暮らせる方法を考えなくては・・・」
「ソラン。もうダメかもしれない。」カズン王女は悲しげにつぶやいた。
「ああ、やっとここまで逃げてきたのにマコウの取締官がかぎつけてきた。もうすぐすると押し寄せてくるかもしれない。」ソランもため息をついた。
「もう逃げられない・・・逃げるところはない・・・」カズン女王はまたつぶやいた。
「捕まれば引き離される・・・。君は星で幽閉。僕は反逆罪で死刑。もう2度と会うことはできない・・・」
「いやよ! それぐらいなら!」カズン王女はソランをじっと見つめた。
「2人だけになれる世界に行きましょう。誰にも邪魔されない・・・」
「ああ、わかった。2人の永遠の愛のために・・・」
ソランとカズン王女は手をお互いに握り締め、そして立ち上がった。
2人のそんな悲劇的な気分を知らずに女将は浮かれていた。
「私が2人を守る! 愛する2人を・・・! そうだ。ここにかくまうことを言って安心させてあげないとね。」
そして部屋の前まで来て、
「女将です。ちょいと失礼しますよ。」と声をかけた。しかし返事は聞こえなかった。
「女将ですよ。ちょいと開けてください。」それでも返事はなかった。
「ちょっと開けますよ!」女将が開けるとそこに2人の姿はなかった。荷物もそのままで、ただ書置きがしてあった。それは異星人の言葉で女将には理解できないものの、その内容についてはピンときた。
「もしかして外に出て心中? 確かに近くに崖はある・・・これは大変!」女将はその書付を握ると、
「大変だ! 大変だ!」と騒いで帳場に急いで降りた。
そこには正介がいた。女将はぜえ、ぜえと肩で息をして何も言えなかったが、とにかくその書付を正介に渡した。
「どうしたんです? そんなに慌てて。」それを受け取った正介は目を通した。するとその顔色が変わった。
(しまった! そこまで思い詰めているとは・・・)
「女将さん! ちょっと探してきます!」正介はそこを飛び出して行った。
「私も行くよ・・・」女将はそう言ったものの、息が切れて動けなかった。
ソランとカズン王女は旅館をそっと抜け出して裏山に上っていた。そこには窓から見えた崖があるはずだった。2人の心は決まっていた。そこから飛び降りてともに死のうと・・・。それが2人が下した決断だった。
2人は懸命にその崖を目指して裏山の細い険しい道を進んでいた。生い茂った木々が空を隠し、昼間だというのに薄暗かった。辺りは不気味なほど静まり返り、2人を奥へ奥へと引き込んでいるかのようだった。
しばらくすると森を抜けた。明るくなったその目の前にはあの崖があった。2人はゆっくりと崖の端まで歩いた。ここから身を投げると死が待っている。もう後戻りはできない・・・。2人は互いの顔を見ると、何も言わずに目をつぶって神に祈った。そして靴を脱ぎ、その崖に飛び込もうとしていた。
「待たれよ!」
その声は辺りに響き渡り、木にとまっていた鳥が飛び立った。
「誰!」カズン王女が目を開けて辺りを見渡した。すると近くに黒装束の男が立っていた。
「カズン王女! ソラン! 死んではならぬ!」それは半蔵だった。
「あなたは誰なの? 私たちを捕まえに来たの?」
「私は敵ではない。あなたたちの味方だ。2人を守るためにここに来た。」半蔵は言った。
「止めないで。もうどうすることもできないのよ!」カズン王女が叫んだ。
「いや、まだ手はある。2人して生きる道はきっとある!」半蔵は言った。
「だが、もうマコウの手が伸びている。捕まるのは時間の問題だ! 捕まれば最後、ユーラス星に送られて僕は死刑。カズンは一生幽閉の身になる。」ソランが声を上げた。
「それならば我らがきっと守る。旅館の人間もあなたたちの味方だ。地球人を信じて欲しい!」半蔵は強く言った。
「しかし・・・」
「この地球は保護惑星でマコウ人に虐げられ、絶望的な毎日を送っている。しかしそれでも地球人は希望を捨てようとはせぬ。昨日より今日、今日よりも明日に希望をつないで生きているのだ。カズン王女。ソラン。あきらめてはならぬ。きっと2人が幸せに生きていく道がある。」半蔵は静かに言った。その言葉が2人に染みたようであった。
「さあ、旅館に戻れ。皆が温かく迎えてくれるはずだ。」半蔵がそう言うと遠くから足音が聞こえてきた。女将が心配して何とかここまで登って来たようだった。それを見て半蔵は姿を消した。
「はあ、はあ、間に合った・・・」女将は息が上がってヨレヨレの状態だったが、2人がそこに立っていることでホッとしていた。
「女将さん。大丈夫ですか?」カズン王女が駆け寄った。
「ええ、大丈夫ですよ。それよりあなたたち、ここで何をしようと思ったんだい?」
「それが・・・」カズン王女は言葉を濁した。
「ここから落ちて死のうとしたんだろう。どういう事情かは知らないけど短気は駄目だよ。死んじゃいけないよ!」女将の目には涙が浮かんでいた。
「死ぬほど辛いこともあるだろう。でも2人が力を合わせりゃ、何とか切り抜けられるよ。だから死ぬなんて言わないでおくれ。生きていくと言っておくれ・・・」女将の目から涙がこぼれた。
「女将さん・・・」カズン王女の目から涙が流れた。今まで辛い言葉を浴び去られてきた彼女にとって女将の言葉が胸に響いた。それはソランも同じだった。
「約束しておくれよ。きっと短気なことはしないって。私もできるだけのことはする。困ったことがあったらなんでも言っておくれ。私は2人の味方だよ。」
「女将さん。ありがとう。もうこんなことはしない。約束するわ。」カズン王女は言った。ソランも横でうなずいていた。
「それならもう泣くのを止めて、さあ、笑って! そんなことじゃ辛気臭くなってしまうよ。さあ、部屋に戻ってお食事にしましょう。うちの菊がきっとおいしいものをこしらえますから。」女将は涙を拭きながら2人の肩を抱いた。
「ええ・・・。ありがとう。」カズン王女は涙を拭いて笑顔になった。
その光景を半蔵は遠くの木の陰から見ていた。
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