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第2章

⑬ スキルの確認をしよう

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「じゃあ、人間界に戻ろう」

「仙崎様、レベルアップもしたことですし、あともう少しだけ時間を使ってスキルの整理をしておかれてはいかがでしょうか?」

「スキルの整理?」

「はい、どのようなスキルを獲得しているのかの確認と、≪スキルのカブ≫を使ってスキルの合成などをしておくべきです。今後の戦いにおいてどのようなスキルが使えるか検討しておくことは戦略的にも戦術的にも重要なことではないかと」

「確かに、その通りだ」

 私は秋穂を早く帰さないといけないとの思いから、そういった戦いの基本となるところが抜け落ちてしまっていたようだった。

「私も確認しておきたいです」



 私たちは≪スキルのカブ≫の酢漬けを何枚か食べてみた。

 すると、ステータスウィンドウ上で次々とスキルが更新されていった。

「おおお? なんでこんなに?」

「それだけレベルが上がったということです。スキルの更新はいくつかレベルアップするごとに可能になります。逆に言えば、それだけスキルの更新をほったらかしておいたということでもあります」

 ゲームでも、シナリオを進めることに一生懸命になっていると、レベルアップしたときのスキルポイントの割り振りとか面倒になるんだよな。後でまとめてやっちゃおうとか思っちゃう。



『≪音速の動き≫が≪亜光速の動き≫に更新されました』

「もっと速く動けるようになったみたいですね」

「わぁ、ということは世界一周旅行とかもあっという間にできちゃうんだ。いいなぁ」

「だけど、速すぎて動きがコントロールできないんだよな。移動なら便利だけど、戦うにはあまり役に立たないんじゃないかな」

 そんなことをつぶやいていると、

『新スキル≪ちゃんと止まる≫が追加されました』

 と、メッセージが続いた。

「おおお?」

「ちゃんと止まれれば、コントロールできるんじゃないですか?」

 これは! まるで黄金聖闘士ではないか!

 私は嬉しくなってさっそく亜光速で動いてみた。

「仙崎様?」

「み、見えない」

 ぱっと消えてはぱっと別の場所に現れる。そんなことが可能だった。

「素晴らしいです」

 ただ、動いている最中は異常に身体が重くなるのですごく疲れる。相対性理論で、光速に近づくほど質量が大きくなるとかあったな。多分あれのことだろう。このスキルは今のレベルでなかったら絶対に使えなかっただろう。

 だが、これはいざというときには使えそうだ。

「ライトニングボルト!!」

 亜光速で拳をうならせる。

「…………?」

 いづなも秋穂も何をしているのかわからなかったらしい。

「とりあえず、これて飛翔魔法を合成して亜光速で飛べるようにしよう」

 恥ずかしかったのでごまかした。



『≪テイミング≫の確率が更新されました。

 魔物のランクによるテイミング成功率

 ランクF スカウトすれば100%

 ランクE 1/32の確率

 ランクD 1/128の確率

 ランクC 1/512の確率

 ランクB 1/2048の確率

 ランクA 1/65536の確率

 ランクS 不可能

 ランクSS 不可能』

「テイミングの確率が上がりました。これでより魔物を仲間にしやすくなります」

「そうか……」

「なんだか複雑ですね……」

 実はこの魔界での一週間、仲間になろうとした魔物もかなりいたのだ。

 だけど、今一緒にいるハウンドオオカミの親のように、こっちに戻ったときには寿命で死んでいたなんてあまりに悲しすぎる。

 だから仲間にはしなかった。

『Aランクの魔物までテイミング可能になりました』

「ただ、Aランクともなると寿命が千年を越えるものもおりましょう。この能力は有効に使うべきだと思います」

「その通りだね」



『≪エナジードレイン≫の能力が更新されました』

「今までの勇者の能力が更新されていってますね」

「どう変わったのでしょうか」

『敵から奪う一定時間でのエネルギー量が三倍になりました』

 三倍とか言われてもよくわからないが、とりあえずたくさん奪えるということだ。そしてそれを自分の力に変えることができる。

『仲間に与える一定時間でのエネルギー量が増加しました』

 今度は与える量も増えたらしい。

『接触によるMP回復が千倍になりました。また、口移しによる場合は一回でMP全回復するようになりました』

 ぶっちゃけ、簡単に回復させることができるということは、この美しい女性たちとの接触できる口実が減ってしまうということなので残念なのだが、私は不健全な関係など望んでいない。

 これはむしろ歓迎すべきスキル更新だ。

「いい感じだね。おや、さらにメッセージが続いているぞ」

 私は残念さを押し殺すためにも、あえてにこにこと続きを読んだ。

『また、性交した相手を一回につきレベル1上昇させることができるようになりました』



「…………!!!」



 最後の一文は、私たち三人をしばらく緘黙させた。

「うわー!! 見ちゃダメ、見ちゃダメ!!」

 私は慌ててステータスウィンドウを隠した。

「せ、仙崎様。れ、れれ、レベルアップを……いたしましょうか?」

 いづなは顔を真っ赤にしながらそうつぶやいた。

 秋穂は両手で顔を覆った。

 くそう、みんなでスマホで撮った楽しい思い出の写真を見ていたら、うっかりやばい写真が出てきたような気分だ。

 私は紳士として、私は絶対にそのような目的でこのスキルを使うことはないと決心した。

 そのあと、勇者の剣に魔力を注ぎ込むと、火、風、水、土、雷、光のどれかの属性を帯びた剣に強化できるようになったんだけど、それどころじゃなかった。



「いづなさんのスキルはどうですか?」

『式神を同時に100体まで操れるようになりました』

「式神?」

「はい、私は式神を操ることができます。これまでは1体がやっとだったのですが。仙崎様が初めて私の家に来られたとき、秋穂様のご主人様を病院にお運びしたのは私の式神です」

「あの人、式神だったんですか?」

「はい。いろいろ事情聴取されると面倒なので、ご主人が医師に渡された段階で消しました」

 そうだったのか……

「式神を使えば、たくさんの敵が現れたときには助かりそうだね」

「まあ……そうかもしれません」

 なぜだろう、あまり関心なさそうだ。



『攻撃力上昇の魔法が強化されました』

『守備力上昇の魔法が強化されました』

『治癒魔法が強化されました』

『≪MP自動回復≫のスキルを獲得しました』

『≪巫女の舞≫のスキルを獲得しました』

『≪空間浄化≫のスキルを獲得しました』

『≪アイテム合成≫のスキルを獲得しました』



「うわー、ほかにもいっぱいスキルを獲得してる」

「それも、やっぱり巫女さんらしい神秘的な感じのものが多いですね」

「勇者の従者である私の基本能力は補助系の魔法やスキルになるのです」

 いづなが淡々と答える。いや、もともとそういうしゃべり方の子だけど、なんだか気になった。

「なんだか、あまり関心なさそうだね……」

「いえ、身につくといいなと思っていたスキルはないのかなと」

「≪大賢者≫みたいな?」

「はい…………は!」

 ステータスウィンドウをタッチするいづなの手が止まった。



『≪時の支配者≫のスキルを獲得しました』



「このスキルがほしかったのかい?」

「はい。このスキルは範囲こそ限定されますが、対象の時間を進めたり戻したりすることができます」

「もしかして、若返りとか老化とかですか?」

「その通りです」

「なるほど、敵を力の弱い幼齢に戻したり、老化させることができればやっつけることが簡単になるかもしれない」

 これはとても有効なスキルではないだろうか。

「だったら、私を若返らせてください!」

 秋穂が必死になって頼み込んだ。

「ちょっと待って、女の子なら若返りたい気持ちはあるんだろうけど、容姿が変わっちゃうならむしろまずいんじゃないか?」

「半年分だけ若返らせてください」

「どうしたのですか?」

 冷静に質問するいづなに秋穂は動揺を隠せなかった。

「実は……自分も魔界に来れるようになったから、喜んでレベルアップしたのはいいんですけど、半年も過ごしてしまったから……」

 その後はすごく言いづらそうだった。

「帰って、謙治君に言われたんです……」



『なんか……老けた?』



「だから! 半年分だけ若返らせてください!! お願いします!!」

 なるほど、水田も夫なんだから、もっと気の利いた言葉をかけてやってほしいものだが。

「わかりました」

 いづなは秋穂を対象としてロックすると、ステータスウィンドウに表示されたゲージをスライドさせた。すると、ちょっとだけだが秋穂が若くなったように見えた。

「なんだか、かわいらしさが増したようだね」

「ってことは、やっぱり老けてたんですね……」

「い、いや、そういうわけじゃなくて!」

 セクハラにならないよう心掛けたつもりがセクハラになってしまう。世のおじさんたちが若い子に声をかけることができなくなる理由がよくわかる。



 そして、なぜかいづなは私を対象としてロックした。

 彼女が指を動かすと、私はみるみる年老いて白髪だらけになってしまった。

「六〇歳くらいになっちゃいましたね」

「なんで、爺さんにしちゃうんだ!?」

「ふぅ……素晴らしい枯れ具合です……」

 うっとりといづなは私を見つめた。



「だったら、仙崎さんの若い頃も見てみましょうよ」

 秋穂はいづなのステータスウィンドウに勝手に手を伸ばしてゲージをスライドさせた。

 二〇歳くらいの自分になる。

 若くて体力が有り余っていたころの時期だ。

 彼女たちもこっちのほうが喜ぶかもしれない。

 私はちょっと嬉しくなってマッチョっぽくポーズをとってみせた。

「…………」

「むしろ、普通の若者って感じで、あまり感動がありませんね……」

 いづなの眉間にはしわさえ寄っていた。

 どうやらいづなは同年代の男子には興味がないみたいだ。



「もっと若返らせたらどうかしら?」

 今度は五歳くらいまで若返った。

 若返って小さくなったおかげで、服が合わなくてすっぽんぽんになってしまった。

「きゃー、かわいい! こんな子供が欲しいわ」

 秋穂はすごく喜んだ。だったら早く旦那とつくりなさい。

「確かにかわいいですね……」

 いづなは露わになった私の小さな股間のものをつついてみせた。

「やめなさい!」



 いづなはさらに私を若返らせて赤ちゃんにまでしてしまった。

「はーい、お母さんですよ」

 そう言って、私を抱きかかえるとおっぱいを出して口に含ませた。

 これは素晴らしい。

 しかも、母乳が出た。

 おそらくは、以前の勇者のかけらの影響がどのようにかして現れているのだろう。

「私も、お母さんをやらせてください!」

 秋穂も私におっぱいを飲ませる。

 むほほほほ、素晴らしい役得だ!!



 女性陣は母性を満たされ、私もなんだか満たされたこの上なく充実した時間であった。

 しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。



「秋穂さんもスキルを更新しておこう」

 私は元のおじさんに戻してもらっていた。

『≪大賢者≫のスキルを獲得しました』

「おお、予定通りですね」

「これを≪鑑定≫と組み合わせれば≪大鑑定≫のスキルになるんです。これで見たものはたいていが分かるようになります。すごいでしょ」

 これは彼女が望んでいたスキルだった。これを獲得することで私たちに貢献できることを願っていたのだ。

『そのほか、専業主婦として身につけておくと嬉しいスキルをたくさん獲得しました』

「たくさんですって。うれしいな」

 秋穂はにこにこしながらステータスウィンドウをスクロールさせた。

『仕事で疲れた夫を癒す調理スキルを獲得しました』

『仕事で疲れた夫を癒す会話スキルを獲得しました』

『掃除スキルがMAXになりました』

『洗濯スキルがMAXになりました』

「確かに、すごく役立つスキルです。やった!」



『井戸端会議スキルを獲得しました』

『ワイドショー相手に突っ込みを入れるスキルを獲得しました』

『訪問販売を上手に断るスキルを獲得しました』

『他人の目を気にしないスキルを獲得しました』

「これって専業主婦じゃなくて、ただのおばちゃんスキルじゃないか」

「訪問販売を上手に断れるのはとても有意義だと思います」

「う、うわー……うれしいな……」



『仕事で疲れた夫を癒すベッドテクニックを獲得しました』

「ベッドテクニック……?」

『69、パ●●リ、フェ……』

「きゃー! うわー! うわー!!」

 次々と現れるメッセージを秋穂は顔を真っ赤にして隠した。



 ともあれ、私たちはレベルアップしたし、たくさんのスキルを身につけることができ、その確認によって今後の戦略も考えることができた。

 このとき私たちは、自分たちは強くなり、今後の戦いにおいても勝てるという確信めいたものをもっていた。
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