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第4章

③ 限界突破を目指して

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「限界突破?」

「そうです。あなたは現在まだ限界を突破できておりません。そして、封印される前のアスランも限界突破はしないままでした。それで魔王と相討ちにまで持ち込むことができたのであれば、勇者としての力が弱まってしまったとしても、限界突破を繰り返せばいずれ魔王を凌ぐ強さとなることでしょう」

 な、なんだかよくわからないが、ひとまず馘首になるということではなさそうだ。

「限界突破……みーはん様はいつの間にやら限界突破をされて、レベルが300を超えておられました」

「妾も限界突破しているわよ」

「通常、誰しもがレベルは99より上がらないよう設定されておりますわ。ですが限界突破をするごとに、多くの場合100ずつレベルの上限が増える設定になっているのです」

 いつも思うけど、その「設定」っていうのはなんなんだ!



「ど、どうすれば限界突破なんてできるんだ?」

「みーはん様は竜の民の料理をおいしくしたことで限界突破されたようでした。どうやら社会貢献することで限界突破が可能になるようでした」

「妾も竜王時代、行政改革を断行して民の生活が改善された時には限界突破ができたわ」

「だったら私はこれまでかなりの魔物をやっつけたから社会貢献してきたと思うんだけど」

「その者の職業に相応しい社会貢献をすることが限界突破の鍵になりますわ。魔物を倒すことは勇者でなくともできる社会貢献です」

「なるほど、みーはんは美食研究家として、ファラナークさんは竜王として、その立場でできることをしたということか。となると、勇者ならではの社会貢献か……魔王を倒すくらいしか思いつかないな」

「勇者とは、勇気ある者のことよ。人々に勇気を与え奮い立たせることができるのであれば、それは勇者の社会貢献じゃないのかしら?」

「スポーツ選手の活躍は人々を勇気づけます」

「なるほどな……自分が活躍して人々を勇気づけるということか」

「つまり、勇者の活躍を広く発信すればいいということね」

「では、ダーリンの活躍を録画して、ユーチューブにアップしましょう」

「ユーチューブ?」

 ファラナークはそれを知らないが、関心があるようだった。

「はい、世界中にダーリンのすばらしさを知らしめることができるツールです」

「面白そうね」

 というわけで、魔界で私が魔物を倒すシーンを録画することになった。



「…………」

 進むべき道がはっきりしたので迷うことはなくなったのだが、勇者の力が衰えてしまったことで私はしっかり落ち込んでいた。

「あれ? ファラナークさんもついてきてくれるの?」

「あら、いけなかったかしら」

「いや、その……≪テイミング≫の能力が弱まったから……もうついてきてくれないんじゃないかなって……」

「≪テイミング≫はかかるかかからないかの確率が下がっただけでしょ。すでにできてしまっている場合は関係ないと思うわよ」

「そうか……よかったよ……」

「それに、妾がついていくのはもう≪テイミング≫の力は関係ないわよ」

「え?」

「妾のステータスをごらんなさい」



【名前】   ファラーナク

【職業】       竜人

【レベル】     367

【HP】   5408450

【MP】   8752366

【攻撃力】  932534

【守備力】 1324235

【素早さ】  450956

【賢さ】  6094864

【運の良さ】 568409



「あれ、職業が『竜人』になってる」

「職業というのも変な感じがするけど、妾はもう『人間に変身できる竜』じゃなくて、『竜に変身できる人間』になったのよ」

「え、竜のほうが強そうな気がするけど、ファラナークさんはそれでいいの?」

「いいも何も、そうなっちゃったんだから仕方ないわ。それに別に人間になったからって弱くなったわけじゃないわ」

「そうか……確かにステータスが跳ね上がってるね。前に見たときよりもレベルが100近く上がってる。私よりも上がるスピードが段違いだ」

「うふふふふ。だって勇者とやっちゃうと一回ごとにひとつレベルが上がるんだもの」

「ぐはっ」

 ついさっきまでの情熱的な戦いを思い出してしまった。

 忘れていたが、確かに私にはそういう能力があるらしい。

 あの戦いでファラナークのレベルはいくつ上がってしまったのだろうか。

「もしかして、背が低くなったのは人間になったから?」

「多分そうでしょうね」

「そういう意味では人間らしくなったよなぁ」

 そして肌も紫っぽかったけどなんかちょっとピンクよりにになってなんかエロい。

「そして、≪テイミング≫は人間には無効になるわ」

「あれ、そうなんだ……って、それじゃあ私についてくる理由は……??」

「うふふふふ。どうしてでしょうね」

 ファラナークは美しい笑みを浮かべた。



 そして、私が魔物を倒す動画の撮影が始まった。

「あれ、こんなにもカメラを使うの?」

「はい、迫力のある映像をつくるにはさまざまなアングルから撮ったものを編集しなければなりません」

「とはいえ、百台近くあるじゃないか」

「はい、いくつかは式神に可能な限り肉薄させて撮影します。ダーリンはカメラなど気にせず戦ってください。戦いに巻き込まれて壊れても私が≪合成≫で新しくつくればよいだけなので」

「だけど、カメラを壊したらせっかくの撮影データが……」

「ご安心ください。録画したデータはカメラではなく、電波でこちらのハードディスクに保存されます」

 うーん、相変わらずキレるなぁ。

 いづなのこういうところは本当に頼りになる。



 ひとつ問題になったのが、私は魔王の手先によって私こそが魔王だと世に広められてしまっていた。

 なので、サングラスをして正体がわからないように魔物と戦った。

 できるだけかっこよく魔物をやっつけ、撮影されたデータをパソコンで編集した。

 ファラナークも興味があったようで、操作を教わると編集作業をしてくれた。

 ちなみに女神は何をしようとしているかさえも理解できないようでただただ見ているだけだった。

 編集が終わると、人間界の神社に戻って動画をアップロードした。

 私が様々な魔物を倒す様子を一本三分程度にまとめ、『勇者の活躍』というアカウントをつくった。

 いづなもファラナークも、編集の仕方に違いはあるもののいずれも迫力のある素晴らしい動画にしてくれた。きっと見た人も感動してくれるだろう。

「勇者が魔界で魔物たちと戦っています。皆さんも応援してください。この動画に勇気づけられた方はチャンネル登録、グッドボタンをお願いします」というメッセージを概要欄にもつけた。

「思ったよりもアップロードに時間がかかります。一日に三本がいいところでしょう」



 翌日、早速視聴回数を確認してみたが、視聴回数はなんと千回以上を超えていた。ぶっちゃけ、できたてのアカウントで見ようと思う人などそうそういないから十人見てくれればいいところだと思っていたから期待をはるかに上回った。

 コメントも入っていた。

『かっこいい』

『2コメ』

『なんかよくわからんが、戦っているシーンはすごいwwwww』

『新しいゲームの戦闘シーンかな? だったら実況も入れてくれないと』

『アクションCGの練習でしょうか? すごくよくできています。チャンネル登録しました。今後も頑張って配信してください』

 CGだと思われているのは微妙なところだが、なかなか好評のようだぞ。



 そして、一週間後にはチャンネル登録者が一万人を超えた。

「これだけ登録者がいれば、おそらく何らかの変化があるのでは?」

「それはここをタッチするとわかるわよ」

 女神はステータス画面の私がこれまで触ったことのないアイコンを触った。



『勇者の社会貢献ポイント 2 ……限界突破まで128ポイント必要です』



「…………!!!」

 まず、こんな表示ができたことも驚きだが、社会貢献がたったの2ポイントだったというのはさらに驚きだった。



『この映像のクオリティに感動しました。私は映像監督を目指していますが、とても勇気をもらうことができました。今後も応援させていただきます』

『サングラスしてるけど、おっさんだよね。このおっさんはCGじゃないと思う。特に身体の動きがキレているわけでもないのに力強く戦っている。いい演技をしていると思う。たぶん全然売れてない役者さんなんだろうけど、こういう金になるかならないかわからないことに全力で取り組んでいるところに好感が持てる。ちょっと生きることに疲れていたけど、頑張ろうかなって思えた』



 どうやらこの二件のコメントが社会貢献ポイントにカウントされているらしい。

「まずは喜ぶべきだろうけど……2ポイントか……これを続けてるうちにたまるかもしれないけど、ずいぶん先のことになりそうだなぁ」

「チャンネル登録したからと言って必ずしも勇気を与えられたというわけではないようです。単純に面白いから登録した人が圧倒的なようです」

「コメントに『勇気づけられた』と書き込んでもらうようにすれば?」

「無理やり誘導したものはポイントにはなりませんわよ」

 そりゃそうだろうな。

「労力に対して見返りが割に合わないんじゃないだろうか。いづなやファラナークさんも撮影や編集が大変だろう」

 というわけで路線変更をせざるを得なくなったが、今後も勇気をもらったというコメントを期待できないわけではないのでアカウントは残すことにした。時間がゆっくり進む魔界ですでに千本近く動画を制作していたので、人間界に一体式神を残して一日三本の動画更新を継続することにした。これで一年近くはもつだろう。



 その後、過去の私について女神が教えてくれた。

「実は若い頃のアスランが限界突破しなかったのは、勇者に可能な社会貢献当いうものがわからなかったからですわ。当時はそれを探すだけの時間的余裕がありませんでしたの」

「限界突破しなくても、魔王様と互角に渡り合えたのね」

「アスランにはそれを補って余りある才能がありましたから」

 才能か……自分のことのはずなんだけど、すごく縁遠い言葉にしか聞こえないなぁ……



「今はまだ魔王は目覚めておりませんわ。時間的に余裕があります。神界に行けばもしかすると何かがわかるかもしれませんわ」

「神界?」
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