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第4章
㉓ 愛の漣
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「とりあえずさ……あの爆発ならしばらく巨人は復活しないと思うのよね」
ずいぶん離れたこの位置も振動は起こらなくなり、穏やかな空気があるばかりだった。
「だ、だからすぐにおっさんを探しに行きましょう」
「そうですね……ダーリンの肉体が粉微塵に吹き飛んでいても必ずかき集めて復活させます!」
いづなは強い決心をその目に湛えていた。
「すぐに行きましょう。敵は、今は静まっているわ」
「はい!!」
ファラナークも京香も仙崎の自己犠牲の精神に強く心を振るわされていた。
「うん、行きましょう」
みんなが手をつないでさっきの場所に≪瞬間移動≫する。
仙崎を思う仲間たちの中、みーはんだけが気まずい思いをしていた。
先ほどまで砂の巨人がいた場所にきたが、もはや何もなかった。
半径数十キロにわたって地面が抉られていた。
ただ、先ほどの振動のせいもあって岩盤がむき出しになるのではなく、ここもやはり砂であった。
「ダーリン! ダーリンの肉片は?」
「アスラン、出てらっしゃい」
「先生、先生!」
三人は敵がまだいるかもしれないというのに、安全よりも何よりも仙崎を探すことに全力を注いだ。
しかし、どこを探しても一片の肉すら見つからなかった。
とんでもない爆発になってしまったものだと、改めてみーはんは思った。
「いづな先生。全然見つからんとです!」
「このままでは、アスランが復活するまでにとてつもない時間がかかってしまうわ」
「いいえ、愛の力さえあれば、必ずや見つけ出せます」
いづなは目を閉じると全身から光を放ち始めた。
「我が愛よ……塵となって分かたれしはあなたの向かうべきところです。輝きを集め、新たなる光として形を成しなさい」
すると、さわさわと無数の光がいづなから発せられ、それが四方へと広がり始めた。
「≪愛の漣≫」
京香の目には信じられないほどの神秘的な光景に映った。
しばらくすると、いづなの前にぐにょぐにょと何か肉片のようなものが形成され始めた。
「まさか、これがアスランなの?」
「もっと速く、もっと速く復活させられないの?」
だが、この段階でいづなはすでにかなり消耗していた。
「くうっ」
「いづな先生、つらそうばい……」
膝が折れそうになったいづなの手をぎゅっと握ったのはファラナークだった。
「いづなちゃん。妾の愛も使ってちょうだい!」
「え?」
「だって、妾もアスランを愛しているんだもの!」
はあ?
何をいきなりカミングアウトしてきやがってんだ、このBBA! と思ったが、今はそれを口にするときではなかった。
「あああ、アスラン。妾の愛を受け止めて」
なにふざけたこと言ってやがんだ、このクソBBA!!
いづなの顔がすごいことになっていることにファラナークは気づいていないようだった。
「私の愛も使うてください!」
反対の手を握ってきたのは京香だった。
「仙崎先生、また私のあそこに思いっきり突っ込んでください!!」
くっそー!!
あの忌まわしい出来事を思い出させんじゃねぇろ!
ラッキースケベによって偶然仙崎と京香が結合してしまったあのシーンが蘇ってしまう。
それでも肉片は先ほどよりも何倍も速く大きくなっていった。
みーはんはその光景を見ているだけしかできなかった。
この人たちと同じように、何のためらいもなく愛を叫ぶことなんてできなかった。
だけど、素直に愛を口にできることがうらやましくて仕方がなかった。
三人はみるみる消耗してゆく。
愛するとはこういうことなのだろうか?
おっさん、ごめん!!
おっさん、速く戻ってきて!!
そんな気持ちが湧き上がってきて仕方なかった。
だけど、自分でもわかっていた。
いたずらのように「セックスしないと爆発する」と書き込んでしまった本当の理由を……
「……わ、私だっておっさんのこと愛してるんだから!!」
つなぐ両手がふさがっているので、みーはんはいづなに抱きついた。
そのとき、奇跡が起こった。
誰かの愛が、ほかの誰かの愛を高めていった。
それが連鎖することで、四人の愛は爆発的に膨れ上がった。
それはたし算ではない、かけ算のようだった。
いや、愛の愛乗の愛乗の愛乗かもしれない。
凄まじい愛が周囲を包み込み、魔界の赤い空を希望の青に変えてしまうほどだった。
『アスランのためなら何でもしてあげたくなっちゃう。あなたたちなんかより、妾が一番アスランを愛してるのよ!』
『もう我慢できん! 誰よりも仙崎先生とセックスしたいんは私ばい!! 戻ってきたらずっこんばっこんやりまくるばい!!』
『あんなおっさんを百年も愛せるのは私だけなんだから!! あんたらなんかに負けないんだから!!』
『うらー!! おらの亭主に手ぇ出すんじゃねぇろー!!』
カッ!!
やわらかくも激しい光が放たれると、そこから完全な姿に戻った仙崎の姿が現れた。
「ダーリン!!」
「アスラン!!」
「仙崎先生!!」
「おっさん!!」
四人が一斉に仙崎に抱きついた。
「おっさん、ごめん。ごめんよぉー!」
みーはんが大泣きしながら謝っていた。
三人の女性たちは、仙崎を見捨てて逃げざるを得なかったことを謝っていると思った。
私は突然消えた意識を急に取り戻し、状況がつかめないでいた。
みーはんが泣いて謝っていることには覚えがある。
ステータスにとんでもないことを書きこんだせいでひどい目に遭ったのだ。
だけど……
こうしてみんなが抱きついて喜んでくれているところを見ると、どうやら爆発はしたものの復活できたようだ。
みーはんもいたずらが過ぎたと反省しているのだろう。
私はみーはんの頭をなでてやった。
しかし、どんな爆発をしたんだろうか?
私自身には知る由もなかった。
「は! そういえば、あの砂の巨人は? 魔王は?」
「砂の巨人は消し飛びました。そして、それ以降は何者の気配も致しません」
「そうか……ひとまずは、食い止めることができたのかな?」
「だけどアスラン、魔王様の気配が消えたわけではないわ。きっとまだどこかにいらっしゃると思うの」
「そうか……」
とはいえ、とりあえずは平穏を取り戻せたようだ。
「ひとまず、安心できる状態になってよかったじゃないか。本当にラッキーだった……」
ラッキー?
その時、ひらひらと上空からニットの帽子が舞い降り、私の胸元に落ちてきた。
これはもしかして……
私は京香ちゃんを見つめた。
「ありがとう」
「仙崎先生……!」
しかしこれは他の女性たちには不快だったようだった。
ほかのみんなに締め付けるように力いっぱい抱きつかれて、私はちょっと苦しかった。
ずいぶん離れたこの位置も振動は起こらなくなり、穏やかな空気があるばかりだった。
「だ、だからすぐにおっさんを探しに行きましょう」
「そうですね……ダーリンの肉体が粉微塵に吹き飛んでいても必ずかき集めて復活させます!」
いづなは強い決心をその目に湛えていた。
「すぐに行きましょう。敵は、今は静まっているわ」
「はい!!」
ファラナークも京香も仙崎の自己犠牲の精神に強く心を振るわされていた。
「うん、行きましょう」
みんなが手をつないでさっきの場所に≪瞬間移動≫する。
仙崎を思う仲間たちの中、みーはんだけが気まずい思いをしていた。
先ほどまで砂の巨人がいた場所にきたが、もはや何もなかった。
半径数十キロにわたって地面が抉られていた。
ただ、先ほどの振動のせいもあって岩盤がむき出しになるのではなく、ここもやはり砂であった。
「ダーリン! ダーリンの肉片は?」
「アスラン、出てらっしゃい」
「先生、先生!」
三人は敵がまだいるかもしれないというのに、安全よりも何よりも仙崎を探すことに全力を注いだ。
しかし、どこを探しても一片の肉すら見つからなかった。
とんでもない爆発になってしまったものだと、改めてみーはんは思った。
「いづな先生。全然見つからんとです!」
「このままでは、アスランが復活するまでにとてつもない時間がかかってしまうわ」
「いいえ、愛の力さえあれば、必ずや見つけ出せます」
いづなは目を閉じると全身から光を放ち始めた。
「我が愛よ……塵となって分かたれしはあなたの向かうべきところです。輝きを集め、新たなる光として形を成しなさい」
すると、さわさわと無数の光がいづなから発せられ、それが四方へと広がり始めた。
「≪愛の漣≫」
京香の目には信じられないほどの神秘的な光景に映った。
しばらくすると、いづなの前にぐにょぐにょと何か肉片のようなものが形成され始めた。
「まさか、これがアスランなの?」
「もっと速く、もっと速く復活させられないの?」
だが、この段階でいづなはすでにかなり消耗していた。
「くうっ」
「いづな先生、つらそうばい……」
膝が折れそうになったいづなの手をぎゅっと握ったのはファラナークだった。
「いづなちゃん。妾の愛も使ってちょうだい!」
「え?」
「だって、妾もアスランを愛しているんだもの!」
はあ?
何をいきなりカミングアウトしてきやがってんだ、このBBA! と思ったが、今はそれを口にするときではなかった。
「あああ、アスラン。妾の愛を受け止めて」
なにふざけたこと言ってやがんだ、このクソBBA!!
いづなの顔がすごいことになっていることにファラナークは気づいていないようだった。
「私の愛も使うてください!」
反対の手を握ってきたのは京香だった。
「仙崎先生、また私のあそこに思いっきり突っ込んでください!!」
くっそー!!
あの忌まわしい出来事を思い出させんじゃねぇろ!
ラッキースケベによって偶然仙崎と京香が結合してしまったあのシーンが蘇ってしまう。
それでも肉片は先ほどよりも何倍も速く大きくなっていった。
みーはんはその光景を見ているだけしかできなかった。
この人たちと同じように、何のためらいもなく愛を叫ぶことなんてできなかった。
だけど、素直に愛を口にできることがうらやましくて仕方がなかった。
三人はみるみる消耗してゆく。
愛するとはこういうことなのだろうか?
おっさん、ごめん!!
おっさん、速く戻ってきて!!
そんな気持ちが湧き上がってきて仕方なかった。
だけど、自分でもわかっていた。
いたずらのように「セックスしないと爆発する」と書き込んでしまった本当の理由を……
「……わ、私だっておっさんのこと愛してるんだから!!」
つなぐ両手がふさがっているので、みーはんはいづなに抱きついた。
そのとき、奇跡が起こった。
誰かの愛が、ほかの誰かの愛を高めていった。
それが連鎖することで、四人の愛は爆発的に膨れ上がった。
それはたし算ではない、かけ算のようだった。
いや、愛の愛乗の愛乗の愛乗かもしれない。
凄まじい愛が周囲を包み込み、魔界の赤い空を希望の青に変えてしまうほどだった。
『アスランのためなら何でもしてあげたくなっちゃう。あなたたちなんかより、妾が一番アスランを愛してるのよ!』
『もう我慢できん! 誰よりも仙崎先生とセックスしたいんは私ばい!! 戻ってきたらずっこんばっこんやりまくるばい!!』
『あんなおっさんを百年も愛せるのは私だけなんだから!! あんたらなんかに負けないんだから!!』
『うらー!! おらの亭主に手ぇ出すんじゃねぇろー!!』
カッ!!
やわらかくも激しい光が放たれると、そこから完全な姿に戻った仙崎の姿が現れた。
「ダーリン!!」
「アスラン!!」
「仙崎先生!!」
「おっさん!!」
四人が一斉に仙崎に抱きついた。
「おっさん、ごめん。ごめんよぉー!」
みーはんが大泣きしながら謝っていた。
三人の女性たちは、仙崎を見捨てて逃げざるを得なかったことを謝っていると思った。
私は突然消えた意識を急に取り戻し、状況がつかめないでいた。
みーはんが泣いて謝っていることには覚えがある。
ステータスにとんでもないことを書きこんだせいでひどい目に遭ったのだ。
だけど……
こうしてみんなが抱きついて喜んでくれているところを見ると、どうやら爆発はしたものの復活できたようだ。
みーはんもいたずらが過ぎたと反省しているのだろう。
私はみーはんの頭をなでてやった。
しかし、どんな爆発をしたんだろうか?
私自身には知る由もなかった。
「は! そういえば、あの砂の巨人は? 魔王は?」
「砂の巨人は消し飛びました。そして、それ以降は何者の気配も致しません」
「そうか……ひとまずは、食い止めることができたのかな?」
「だけどアスラン、魔王様の気配が消えたわけではないわ。きっとまだどこかにいらっしゃると思うの」
「そうか……」
とはいえ、とりあえずは平穏を取り戻せたようだ。
「ひとまず、安心できる状態になってよかったじゃないか。本当にラッキーだった……」
ラッキー?
その時、ひらひらと上空からニットの帽子が舞い降り、私の胸元に落ちてきた。
これはもしかして……
私は京香ちゃんを見つめた。
「ありがとう」
「仙崎先生……!」
しかしこれは他の女性たちには不快だったようだった。
ほかのみんなに締め付けるように力いっぱい抱きつかれて、私はちょっと苦しかった。
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