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第4章
㉔ バグってハニー
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「そう言えばみーはん、あのガラスの棺みたいなのに入っていた青年はどうなったかわかるだろうか?」
「わかるわけないでしょう。しかも、こんなになっちゃうような爆発だったんだから。あれが魔王なら死んでるとは思わないけど、遠くへ吹っ飛んじゃってる可能性は高いわよ」
「おデブちゃん、魔王様を見たの?」
「多分魔王だと思うわ。眠ってる感じだったけど。すごくきれいな顔をした男の子」
「ああ、おそらく魔王様で間違いないわ……」
ファラナークは複雑な表情でうなだれるようだった。
ひとまず、いづなの結界を解いてもファラナークに魔王の影響が現れていないところをみると、魔王はすごく遠くに行ったか、深い眠りに入ったのどちらかだと思う。
「はう?」
その時京香ちゃんが大きな反応を示した。
「あそこに何かあります」
少し離れたところに走ると、旋風魔法で周囲の砂を吹き飛ばした。
そこから現れたのは、あのガラスの棺だった。
どう見ても無傷だ。
中の青年も眠ったままだ。
「超イケメンば~い♡」
京香は上の頭と下の頭では好みがまるっきり違うらしい。
目がハートマークになっていた。
「それが、魔王よ」
「え? 魔王?」
みーはんの言葉に京香ちゃんは青ざめた。
「どうやら寝ぼけて暴れ回ったというおっさんの仮説が正しかったみたいね。さっきまでのような攻撃的な空気が全然感じられないわ」
そのままみーはんは前に躍り出て、ガラスの棺にパンチを食らわせた。
「くぅ~」
痛そうに手を押さえたのはみーはんのほうだった。
「なんて硬いの? 寝てる間に殺してやろうと思ったのに」
「殺すんですか?」
「当たり前でしょ? 魔王なのよ!」
「そんな……こんな無垢な顔をしとられるのに」
「顔は関係ないでしょ」
「でも、きっといい人です!!」
京香ちゃんは魔王をかばった。
……結構いるよね、イケメンは絶対に悪いことをしないと信じてる子って。あるいは、イケメンならどんなにひどいことをしても許しちゃう子。
だけど、私も魔王がどんなに悪い奴なのか、本当のところは知らない。
「まあ、仕方ないわ。どっちにしても殺すことはできそうもないから」
「魔王様……」
ファラナークは複雑な面持ちで魔王の棺の前に立った。
彼女は私の味方であると確信しつつも、魔王に対する忠誠心が消えてしまったわけではなさそうだ。
簡単に人を裏切れる人ではないからこそファラナークは信頼に値する。
ただ、それはよくわかるのだが、私の腕をぎゅっと抱きしめてくるのはいかがなものか。
腕がおっぱいに挟まれてとっても気持ちいい。
こうしていないと私の味方でいることに対する罪悪感が消せないのだろうが、いづなの顔がすごいことになっている。
「だけど、魔王様のステータスはあそこまで大きくなかったのは間違いないわ。眠ったままの状態でどうやって……?」
「あ、もしかしてこれかしら?」
みーはんが勝手に魔王のステータスウインドウを開いた。
「これ見て。≪寝る子は育つ≫ってスキルがあるわ」
「これはスキルではないわ。誰かが魔王様にかけた効果よ」
「もしかして、寝ている間に勝手に経験値がたまっていくということでしょうか?」
「私が、食べたのが経験値になるのと同じ感じ?」
「そうよ。だけど、これは自分自身にはかけることのできない効果よ。それに完全に眠ってしまえばかけることもできないわ」
「ということは、魔王がおっさんを分裂させた直後、眠りに入る前にかけた味方がいたということね」
「だけど、四将軍の中にこのようなスキルをもつ者はいなかったわ。もちろん、これは妾がアジ・ダハーカになる前の話だから、誰かがそれを身につけたかもしれないし、妾の知らない味方が新たに加わったのかもしれない」
「しかし、魔王が長い眠りにつくという前提であれば、これほど合理的な効果はありますまい。なかなかに戦略的です」
「こうしとる間にも、魔王さんは強うなりよるばい」
その恐るべき事実に誰もが黙りこくるしかなかった。
「よいしょっと。これでOKね」
みーはんが何かしてくれたらしい。
「≪編集≫のスキルで≪寝る子は育つ≫を消しといたわ」
「…………」
とんでもない問題だったのに、あっさりと解決させちゃったなぁ。
「じゃあ、『さらに百万年眠る』って追加しときましょう」
みーはんは大切な個人情報に、何をためらうことなく書き込んだ。
なるほど、あと百万年眠ってくれるなら何も悩むことはない。
まあ、問題の先送りでしかないけど。
ぶぶー。
『数値が大きすぎます』
「ええー、何よそれ」
なんでもありじゃないとは言ってたけど、さすがに三万年寝てた人を追加で百万年寝かせるのは無理があると思う。
「じゃあ、一万年は?」
ぶぶー。
「じゃあ、千年」
ぶぶー。
「じゃあ、百年」
ぶぶー。
うわ、意外と寝させてくれないものだな。
って、百年でも人間の一生よりも長いくらいなんだから安心しててもよさそうなものだけど、人間界に行けば一ヶ月ほどでしかないからおちおちしていられない。
でも書き込みそのものがキャンセルされているわけじゃないから、どこかの数字なら大丈夫なのだろう。
「じゃあ、九十九年」
ぶぶー。
「じゃあ、九十八年」
ぶぶー。
「じゃあ、九十七年」
ぶぶー。
…………
「じゃあ、六十四年」
このとき初めて「ぶぶー」というエラーの音がしなかった。
「また寝ぼけて暴れられても困るから、『快眠体質』とも書き込んでおきましょう」
ぐっすり眠れれば寝ぼけることもないか。
つまり、あと六十四年は目覚めることがないってことか。
人間界に戻れば二十日がいいところだな。
ただ、いつごろ魔王が目覚めるのかがわかったというのは良くも悪くも、目標が定まったということだ。
「眼鏡ちゃん。この魔王にもエッチな夢を見せてあげなよ」
「ええー?」
「面白そうじゃない」
「ダメです、ダメです、ダメです!! こんなむしゃんよか人にエッチな女の子だと思われるのは、絶対にダメですばい!」
私ならいいのか……
遠回しに私はかっこよくないと言われてしまった。
とか何とか言いながら、京香ちゃんは棺から離れると、目をつむって何か祈り始めた。
「あ、魔王の顔が赤くなった」
その変化を改めて覗き込むと、京香ちゃんは「ぐへへへへ……」と笑った。
「ダーリン、これからどうしましょうか?」
「やはり、最後のかけらを探すしかないだろう。人間界に戻ろう」
最後のかけらがいないから≪剣技≫のかけらの必殺の技も失敗した。
魔王を倒すには絶対に必要であることがわかった。
「はい!」
いづなの凛とした返事がむしろ心に突き刺さった。
そうだ。
これまでのんべんだらりと最後のかけらを探しに行かなかったのは、それが原因だった。
最後のかけらを手に入れると、私はもう不死身ではなくなる――。
私の場合、かけらに分かたれてしまったからこそ、どれか一つでもかけらが生き残っていれば蘇ることができたのだが、完全体になれば私の死はそのまま人生の終焉を示す。
これまでは現実感がなかったからこそいろんな無茶もできたし、実際普通なら死んでいるような出来事にも何度も出くわした。
もう、それは許されない。
それによって私がいちいち躊躇していたら、勇気ある行動などできるのだろうか?
それに、妻もいるし、大切な仲間もできた。
彼女らを置いて死んでしまうことはできない。
悠希くんが改めて勇者として立ち上がることを待つのも無責任というものだ。
「それから、以前破壊された勇者の鎧も修復しなければならないのではないでしょうか?」
あ……
やはり装備も完璧にせねばならないだろう。
だけど、また誰かに産んでもらわないといけないのだろうか?
それは気が引けるなぁ。
それに、自分の子供にも等しい鎧を破壊されて、秋穂さんは何て思うかなぁ。
まあ人妻だし、彼女の幸せを壊さないためにも会わない方がいいんだろうけど。
元気でやっているといいな。
時間はもうない。
「人間界に戻れば、残された時間は二十日ほどしかない。その間に最後のかけらを取り戻し、勇者の鎧を復活させよう」
「そうしましょう」
「妥当なところでしょうね」
「がまだしましょう!」
みんなが賛同してくれた。
そうだ、私は魔王を倒すために選ばれた勇者なのだ。
きりっと覚悟を決めたところで、なぜかみんなが私に抱き付いてきた。
ちょっと、ちょっと。みんな何をしてるんだよ。でへへへへー。
てれれれってって~♪
「ん?」
『おめでとうございます! あなたは勇者として8人以上のハーレムを築き上げました。あなたは≪ハーレムの主≫の称号を獲得しました』
『BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が299になりました』
「あれ?」
「なによこれ?」
「アスラン、いつの間に大きなハーレムを?」
「ダーリン、これはいったいどういうことでしょうか?」
「う?」
いづなの顔から表情が消えてる!!
てれれれってって~♪
『おめでとうございます! あなたは勇者として64人以上のハーレムを築き上げました。あなたは≪ハーレム・マスター≫の称号を獲得しました』
『BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が399になりました』
「ど、どど……どういうことでしょうか、これは……」
いづなの顔が怖い!!
「いづな先生、それだけ仙崎先生は甲斐性があるってことですばい」
「は! おほほほほほ。さすが私のダーリンは世界一の男です。どんな女も放っておくわけがありませんわ!!」
急に態度変わって、他の者を押しのけて抱き付いてきた。
だが、その表情は恐ろしいままだった。
「ちょっと待って。アスランはとてもいい子だけど、さすがに64人以上を種付けできるような時間もチャンスもなかったと思うわ。なにか変よ」
みーはんがじっくりと分析するような目で私を見てくる。
「まず間違いないわね。これはバグよ!!」
「バグ?」
「どういう仕組みかわからないけど、社会貢献したかどうかの判定装置みたいなのがあって、それがバグを起こしたからこんなことになったのよ」
「またラッキー?」
なぜかいづなが京香ちゃんをにらんだ。
「かもしれないけど、ラッキーで起こるようなバグかしら。機械がバグを起こすとしたら、むしろカウントを間違えてしまうような膨大な情報量があったとかじゃないかしら」
「おほほほほほ! 私の愛が強すぎて64人以上と機械が判断してしまったようです。いいえ、私のダーリンへの愛は最低でも百人分以上ですが」
急に機嫌がよくなったいづなは私の腕に抱きついたまま、ほかの女性たちから引き離すように後ずさった。
『じゃあ、妾は千人分ね』
『私は、一万回は仙崎先生とセックスしたかばい』
『ちっ、私が一番長くおっさんと一緒にいるようなものなのに……!』
それぞれが声には出さないが、思うところはあったようだ。
みーはんの見立ては正しく、仙崎復活のために捧げた愛が四人から数百人分となって放出されたのである。それによってバグが起こったのだった。
『ふっふっふっふっふ……バグさえ起こさせるとはなかなか大したものではないか』
私の内部から声が聞こえた。
これは≪剣技≫のかけらか?
『認めようではないか。貴様はハーレム王の素質があると!』
いやいやいいや、そんなのにはなる気はないって。
『ふふふふ……まあ、そう言っているがよい。我は確信した。貴様は間違いなくハーレム王になるとな!!』
はあ?
『これまで我が思い描き続けてきたハーレム王とはとても似つかぬから貴様は失格だと思っておった。だが、間違っていたのは我のほうだったのだ。貴様のような男こそハーレム王となるのだ』
絶対に嫌なんですが。
『反発するならばすればよい。しかし、人々の幸せのために行動しようとする貴様は、必ずやハーレムを築くことこそがあらゆる者共の幸せにつながることを知るだろう!!』
ちょっと……意味がわからん。
『我も貴様に戻るとしよう。そして、魔王を倒した後のハーレム生活を楽しむことにしよう』
マジでこいつ何言ってんだ?
まあいいや、戻ってきてくれるなら。
最後のかけらと同化したとき、私はもう死ぬような真似はできなくなる。
その時にどうやって戦えばいいかわからない。
だが、きっとこの仲間たちが私に足りないところを補ってくれるはずだ。
私を守ってくれるはずだ。
だから……私も命を懸けて彼女たちを守ろう。
「行こう、人間界へ!!」
「わかるわけないでしょう。しかも、こんなになっちゃうような爆発だったんだから。あれが魔王なら死んでるとは思わないけど、遠くへ吹っ飛んじゃってる可能性は高いわよ」
「おデブちゃん、魔王様を見たの?」
「多分魔王だと思うわ。眠ってる感じだったけど。すごくきれいな顔をした男の子」
「ああ、おそらく魔王様で間違いないわ……」
ファラナークは複雑な表情でうなだれるようだった。
ひとまず、いづなの結界を解いてもファラナークに魔王の影響が現れていないところをみると、魔王はすごく遠くに行ったか、深い眠りに入ったのどちらかだと思う。
「はう?」
その時京香ちゃんが大きな反応を示した。
「あそこに何かあります」
少し離れたところに走ると、旋風魔法で周囲の砂を吹き飛ばした。
そこから現れたのは、あのガラスの棺だった。
どう見ても無傷だ。
中の青年も眠ったままだ。
「超イケメンば~い♡」
京香は上の頭と下の頭では好みがまるっきり違うらしい。
目がハートマークになっていた。
「それが、魔王よ」
「え? 魔王?」
みーはんの言葉に京香ちゃんは青ざめた。
「どうやら寝ぼけて暴れ回ったというおっさんの仮説が正しかったみたいね。さっきまでのような攻撃的な空気が全然感じられないわ」
そのままみーはんは前に躍り出て、ガラスの棺にパンチを食らわせた。
「くぅ~」
痛そうに手を押さえたのはみーはんのほうだった。
「なんて硬いの? 寝てる間に殺してやろうと思ったのに」
「殺すんですか?」
「当たり前でしょ? 魔王なのよ!」
「そんな……こんな無垢な顔をしとられるのに」
「顔は関係ないでしょ」
「でも、きっといい人です!!」
京香ちゃんは魔王をかばった。
……結構いるよね、イケメンは絶対に悪いことをしないと信じてる子って。あるいは、イケメンならどんなにひどいことをしても許しちゃう子。
だけど、私も魔王がどんなに悪い奴なのか、本当のところは知らない。
「まあ、仕方ないわ。どっちにしても殺すことはできそうもないから」
「魔王様……」
ファラナークは複雑な面持ちで魔王の棺の前に立った。
彼女は私の味方であると確信しつつも、魔王に対する忠誠心が消えてしまったわけではなさそうだ。
簡単に人を裏切れる人ではないからこそファラナークは信頼に値する。
ただ、それはよくわかるのだが、私の腕をぎゅっと抱きしめてくるのはいかがなものか。
腕がおっぱいに挟まれてとっても気持ちいい。
こうしていないと私の味方でいることに対する罪悪感が消せないのだろうが、いづなの顔がすごいことになっている。
「だけど、魔王様のステータスはあそこまで大きくなかったのは間違いないわ。眠ったままの状態でどうやって……?」
「あ、もしかしてこれかしら?」
みーはんが勝手に魔王のステータスウインドウを開いた。
「これ見て。≪寝る子は育つ≫ってスキルがあるわ」
「これはスキルではないわ。誰かが魔王様にかけた効果よ」
「もしかして、寝ている間に勝手に経験値がたまっていくということでしょうか?」
「私が、食べたのが経験値になるのと同じ感じ?」
「そうよ。だけど、これは自分自身にはかけることのできない効果よ。それに完全に眠ってしまえばかけることもできないわ」
「ということは、魔王がおっさんを分裂させた直後、眠りに入る前にかけた味方がいたということね」
「だけど、四将軍の中にこのようなスキルをもつ者はいなかったわ。もちろん、これは妾がアジ・ダハーカになる前の話だから、誰かがそれを身につけたかもしれないし、妾の知らない味方が新たに加わったのかもしれない」
「しかし、魔王が長い眠りにつくという前提であれば、これほど合理的な効果はありますまい。なかなかに戦略的です」
「こうしとる間にも、魔王さんは強うなりよるばい」
その恐るべき事実に誰もが黙りこくるしかなかった。
「よいしょっと。これでOKね」
みーはんが何かしてくれたらしい。
「≪編集≫のスキルで≪寝る子は育つ≫を消しといたわ」
「…………」
とんでもない問題だったのに、あっさりと解決させちゃったなぁ。
「じゃあ、『さらに百万年眠る』って追加しときましょう」
みーはんは大切な個人情報に、何をためらうことなく書き込んだ。
なるほど、あと百万年眠ってくれるなら何も悩むことはない。
まあ、問題の先送りでしかないけど。
ぶぶー。
『数値が大きすぎます』
「ええー、何よそれ」
なんでもありじゃないとは言ってたけど、さすがに三万年寝てた人を追加で百万年寝かせるのは無理があると思う。
「じゃあ、一万年は?」
ぶぶー。
「じゃあ、千年」
ぶぶー。
「じゃあ、百年」
ぶぶー。
うわ、意外と寝させてくれないものだな。
って、百年でも人間の一生よりも長いくらいなんだから安心しててもよさそうなものだけど、人間界に行けば一ヶ月ほどでしかないからおちおちしていられない。
でも書き込みそのものがキャンセルされているわけじゃないから、どこかの数字なら大丈夫なのだろう。
「じゃあ、九十九年」
ぶぶー。
「じゃあ、九十八年」
ぶぶー。
「じゃあ、九十七年」
ぶぶー。
…………
「じゃあ、六十四年」
このとき初めて「ぶぶー」というエラーの音がしなかった。
「また寝ぼけて暴れられても困るから、『快眠体質』とも書き込んでおきましょう」
ぐっすり眠れれば寝ぼけることもないか。
つまり、あと六十四年は目覚めることがないってことか。
人間界に戻れば二十日がいいところだな。
ただ、いつごろ魔王が目覚めるのかがわかったというのは良くも悪くも、目標が定まったということだ。
「眼鏡ちゃん。この魔王にもエッチな夢を見せてあげなよ」
「ええー?」
「面白そうじゃない」
「ダメです、ダメです、ダメです!! こんなむしゃんよか人にエッチな女の子だと思われるのは、絶対にダメですばい!」
私ならいいのか……
遠回しに私はかっこよくないと言われてしまった。
とか何とか言いながら、京香ちゃんは棺から離れると、目をつむって何か祈り始めた。
「あ、魔王の顔が赤くなった」
その変化を改めて覗き込むと、京香ちゃんは「ぐへへへへ……」と笑った。
「ダーリン、これからどうしましょうか?」
「やはり、最後のかけらを探すしかないだろう。人間界に戻ろう」
最後のかけらがいないから≪剣技≫のかけらの必殺の技も失敗した。
魔王を倒すには絶対に必要であることがわかった。
「はい!」
いづなの凛とした返事がむしろ心に突き刺さった。
そうだ。
これまでのんべんだらりと最後のかけらを探しに行かなかったのは、それが原因だった。
最後のかけらを手に入れると、私はもう不死身ではなくなる――。
私の場合、かけらに分かたれてしまったからこそ、どれか一つでもかけらが生き残っていれば蘇ることができたのだが、完全体になれば私の死はそのまま人生の終焉を示す。
これまでは現実感がなかったからこそいろんな無茶もできたし、実際普通なら死んでいるような出来事にも何度も出くわした。
もう、それは許されない。
それによって私がいちいち躊躇していたら、勇気ある行動などできるのだろうか?
それに、妻もいるし、大切な仲間もできた。
彼女らを置いて死んでしまうことはできない。
悠希くんが改めて勇者として立ち上がることを待つのも無責任というものだ。
「それから、以前破壊された勇者の鎧も修復しなければならないのではないでしょうか?」
あ……
やはり装備も完璧にせねばならないだろう。
だけど、また誰かに産んでもらわないといけないのだろうか?
それは気が引けるなぁ。
それに、自分の子供にも等しい鎧を破壊されて、秋穂さんは何て思うかなぁ。
まあ人妻だし、彼女の幸せを壊さないためにも会わない方がいいんだろうけど。
元気でやっているといいな。
時間はもうない。
「人間界に戻れば、残された時間は二十日ほどしかない。その間に最後のかけらを取り戻し、勇者の鎧を復活させよう」
「そうしましょう」
「妥当なところでしょうね」
「がまだしましょう!」
みんなが賛同してくれた。
そうだ、私は魔王を倒すために選ばれた勇者なのだ。
きりっと覚悟を決めたところで、なぜかみんなが私に抱き付いてきた。
ちょっと、ちょっと。みんな何をしてるんだよ。でへへへへー。
てれれれってって~♪
「ん?」
『おめでとうございます! あなたは勇者として8人以上のハーレムを築き上げました。あなたは≪ハーレムの主≫の称号を獲得しました』
『BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が299になりました』
「あれ?」
「なによこれ?」
「アスラン、いつの間に大きなハーレムを?」
「ダーリン、これはいったいどういうことでしょうか?」
「う?」
いづなの顔から表情が消えてる!!
てれれれってって~♪
『おめでとうございます! あなたは勇者として64人以上のハーレムを築き上げました。あなたは≪ハーレム・マスター≫の称号を獲得しました』
『BONUS! あなたは限界突破しました! レベル上限が399になりました』
「ど、どど……どういうことでしょうか、これは……」
いづなの顔が怖い!!
「いづな先生、それだけ仙崎先生は甲斐性があるってことですばい」
「は! おほほほほほ。さすが私のダーリンは世界一の男です。どんな女も放っておくわけがありませんわ!!」
急に態度変わって、他の者を押しのけて抱き付いてきた。
だが、その表情は恐ろしいままだった。
「ちょっと待って。アスランはとてもいい子だけど、さすがに64人以上を種付けできるような時間もチャンスもなかったと思うわ。なにか変よ」
みーはんがじっくりと分析するような目で私を見てくる。
「まず間違いないわね。これはバグよ!!」
「バグ?」
「どういう仕組みかわからないけど、社会貢献したかどうかの判定装置みたいなのがあって、それがバグを起こしたからこんなことになったのよ」
「またラッキー?」
なぜかいづなが京香ちゃんをにらんだ。
「かもしれないけど、ラッキーで起こるようなバグかしら。機械がバグを起こすとしたら、むしろカウントを間違えてしまうような膨大な情報量があったとかじゃないかしら」
「おほほほほほ! 私の愛が強すぎて64人以上と機械が判断してしまったようです。いいえ、私のダーリンへの愛は最低でも百人分以上ですが」
急に機嫌がよくなったいづなは私の腕に抱きついたまま、ほかの女性たちから引き離すように後ずさった。
『じゃあ、妾は千人分ね』
『私は、一万回は仙崎先生とセックスしたかばい』
『ちっ、私が一番長くおっさんと一緒にいるようなものなのに……!』
それぞれが声には出さないが、思うところはあったようだ。
みーはんの見立ては正しく、仙崎復活のために捧げた愛が四人から数百人分となって放出されたのである。それによってバグが起こったのだった。
『ふっふっふっふっふ……バグさえ起こさせるとはなかなか大したものではないか』
私の内部から声が聞こえた。
これは≪剣技≫のかけらか?
『認めようではないか。貴様はハーレム王の素質があると!』
いやいやいいや、そんなのにはなる気はないって。
『ふふふふ……まあ、そう言っているがよい。我は確信した。貴様は間違いなくハーレム王になるとな!!』
はあ?
『これまで我が思い描き続けてきたハーレム王とはとても似つかぬから貴様は失格だと思っておった。だが、間違っていたのは我のほうだったのだ。貴様のような男こそハーレム王となるのだ』
絶対に嫌なんですが。
『反発するならばすればよい。しかし、人々の幸せのために行動しようとする貴様は、必ずやハーレムを築くことこそがあらゆる者共の幸せにつながることを知るだろう!!』
ちょっと……意味がわからん。
『我も貴様に戻るとしよう。そして、魔王を倒した後のハーレム生活を楽しむことにしよう』
マジでこいつ何言ってんだ?
まあいいや、戻ってきてくれるなら。
最後のかけらと同化したとき、私はもう死ぬような真似はできなくなる。
その時にどうやって戦えばいいかわからない。
だが、きっとこの仲間たちが私に足りないところを補ってくれるはずだ。
私を守ってくれるはずだ。
だから……私も命を懸けて彼女たちを守ろう。
「行こう、人間界へ!!」
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