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番外編1 〜ライナスAfter story〜
6. 手を差し伸べる者
しおりを挟む「お久しぶりですね、ライナス様。今日は私も是非貴方にお伺いしたい事があるのよ。さあ、こちらにどうぞ。ケイト、お茶をお願いね」
「かしこまりました」
社交用の笑みを携え、バーンズ女公爵とジュリアンが迎え入れてくれた。
だが女公爵から漂うオーラは明らかに俺に向けて怒気を放っている。今までの自分を省みるとそれも仕方ない事だと自覚はしているが・・・、
今日は彼女に頼みがあって公爵家に訪れた。
アシュリーの件で俺の心象は最悪だから面会は断られると思ったが、領地の事業の件で相談があると手紙に書いたのが良かったのか、あっさり了承の返事が来た。
だがこの様子だと、多分俺が辺境に行った時の話を問いただす為に面会を了承したのだろう。
最初から不穏な空気に気が滅入りそうになる。
「私、とても信じられない話を聞いたの。離縁してから2年経っているのに、今更謝罪だ何だと抜かしてアシュリーに会いにのこのこ辺境に来た男がいるって。その話は本当なのかしら?」
「・・・・・・・・・本当です・・・」
「信じられないわ!どの面下げてアシュリーに会いにいけるのよ。貴方って本当に恥知らずね」
「セイラ、落ち着いて。社交の顔が崩れてるよ」
「ごめんなさい・・・せっかくアシュリーが前向きになってきたのに、このバカ男が台無しにしようとするから」
バカ男・・・。
まあ、そう言われても仕方ない。
今となってはアレは自分の身勝手な気持ちを押し付けようとしていただけに過ぎないことは分かっている。
あそこで心をへし折られてなければ今でもアシュリーに会いに行こうと画策していたかもしれない。
あれだけカイゼル・オーウェン────、いや、先日辺境騎士団の団長に就任したからカイゼル・シュタイナーか。
あの男にあれだけ格の違いを見せつけられたら、俺にはもうどうしようもない。
アシュリーはあの男に完全に気を許していた。そして見た事もない綺麗な笑顔をあの男に向けていた。
あの男がアシュリーを愛しているように、きっとアシュリーもあの男を特別な目で見ている。
その事実が痛くてたまらない。
「その様子だと、カイゼルと叔母様に締め上げられてようやく懲りたのかしら?」
「・・・ええ。辺境騎士の恐ろしさを身を持って味わってきましたよ。アシュリーは国内一の最強騎士が守るから、お前の出る幕はないと言われました」
「───復縁でも望んでいたの?」
「・・・・・・全く望んでなかったと言えば嘘になりますけど、──ただ恋しくて仕方なくて、我慢出来ずに会いに行ってしまいました」
「───本当にバカね」
「──────俺もそう思います」
復縁・・・そんなもの、どんなに願っても無理だ。
そんな事とっくにわかっていたのに、へし折られるまで現実を認めようとしなかった。認めたくなかった。自分の都合の良い方に考えた。
そのせいで、きっとまたアシュリーを傷つけるところだったんだな。だからあの男の逆鱗に触れたのだ。
──今後はあの男がアシュリーを愛し、守っていく。
そして俺はもうアシュリーにとって何の関係もない人間になったのだ。二度と目の前に姿を現してはいけない。
鼻の奥がツンとして涙が出そうになるのを必死に堪える。
その様子を見て呆れたのか、はあ・・・と大きくため息をついた女公爵は、出されたお茶を飲んで一息つくと、また俺に向き直った。
「じゃあ貴方の相談とやらを聞きましょうか」
「ありがとうございます。実は───」
今日俺がここへ来たのは、バーンズ公爵家お抱えの弁護士に意見をもらうためだ。
厚顔無恥なのは百も承知だが、これしか方法が思いつかなかった。
俺は、領民を守る為ならいくらでも頭を下げるし、泥を被ると決めたのだ。もう責務からは逃げたりしない。
俺はあれからすぐに騎士を辞めた。
そしてすぐに商会の現状を把握するのに駆け回り、経費として圧迫している人件費については領地運営で黒字で出た余剰金を回す事にした。
父は母にそれだけは絶対許さないと言われていたから難色を示したが、領地運営の実権を握っているのは今は俺なので押し通した。
これで父が無理をする理由がなくなる。父にはまだ死んでもらっては困るのだ。経営初心者の俺の補佐をしてもらわなければならない。
そして領地運営の税収を増やすために、今後は商会を絡めて利益を生み出す施策を一緒に考えてもらう事にした。
今まで完全分業でやっていたのは両親の代からで、祖父母達は夫婦二人三脚で経営と領地運営を担っていたと家令にもらった資料で知ったからだ。
お互い内情を把握していないと問題発生した時にすぐ対応できない為、元の形態に戻す事にした。
そして前の商会で退職に追い込まれた従業員達に再度話を聞き、これは労働法に反するのでは。と考えた。被害に遭った従業員達に当時の事を細かく紙に書くように指示して父にも話をした。
父も最初はそれを疑って調査し、商会を買い取った貴族に契約違反だと話をしに行ったが全く相手にされず、弁護士に相談しようとするも、社交界で評判の悪いウチは関わるだけでこちらにも被害が及ぶと取り合ってもらえなかったらしい。
それでも泣き寝入りしたくない。
あの貴族達は退職に追い込まれた従業員達にも家族がいる事を全く考慮していなかった。中には気を病んで働くのが無理になった者もいる。
その被害者達の為にも、何とか慰謝料を勝ち取る方法がないか相談したいのだ。
俺は、バーンズ女公爵とジュリアンに資料を渡して公爵家の弁護士に意見をもらいたい旨を話した。
「なるほど。確かに被害状況を見る限り、労働法に反してる所が見受けられるな」
「やっぱり・・・っ」
「でもこれじゃまだ裏付けが弱いわ。被害者よりの証言ばかりで、相手が故意に追い詰めたかどうかの立証ができていない。仕事の能力が低かったから閑職に回したとか、被害妄想だとかいくらでも言い逃れ出来るもの」
「それは俺も危惧している所です・・・。中には20年以上勤めてくれている従業員達もいるんですよ。能力では申し分ないはずだ」
「それでも第三者から見て明らかに相手が悪だとわかる確固たるものがないと、裁判しても勝てるか微妙なところね」
「そんな・・・っ、じゃあ泣き寝入りするしかないのか・・・」
がっくりと項垂れると、バーンズ女公爵が小さく笑った。
「まさか貴方と領民について建設的な話ができるとは思わなかったわ。アシュリーの件では思考回路が意味不明で、貴方は結婚してから頭が壊れたのだと思ってたから」
「・・・・・・・・・・・・・・・それはお手数おかけしました」
この辛辣な物言い・・・流石元辺境伯夫人と血縁者なだけあるな。
「貴方今失礼な事考えたわね」
「えっ!?いや・・・何も」
「まあいいわ。ジュリー、ケビンはお父様の所かしら?」
「ああ、さっき義父上の執務室にいたよ」
「わかった。じゃあちょっと勝算あるか聞いてくるわね」
そう言うと、バーンズ女侯爵は部屋を出て行った。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ジュリアン、お前自分の妻が時々怖くなったりしないのか?」
「いや?セイラは俺にとっては誰よりも可愛い女だよ。それをお前が知る必要は全くないから勝手にビビってろ。セイラの可愛さは俺だけが知っていればいい」
「お前相変わらずだな…」
お茶を飲みながらすました顔で惚気るジュリアンに胸焼けがしそうだった。
俺もこんな風に妻としてアシュリーを愛せていたら、今も俺の隣にいてくれたんだろうか…。
しばらくすると、バーンズ女公爵が不敵な笑みを浮かべて戻ってきた。
そして腰に手を当て、もう片方の手で丸めた資料を前に突き出し、俺を指しながら宣言した。
「いいでしょう。我が公爵家が手助けしてあげるわ。従業員達への慰謝料をもぎ取ってやりましょう」
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