私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

文字の大きさ
102 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

97. 偽聖女 side エイダン

しおりを挟む

王太子アイザックの執務室に呼ばれたエイダンは、部屋に入った瞬間に異様な緊張感を感じ取った。


何か、嫌な予感がする。


「エイダン……、偽聖女が現れた」


その言葉に、やはり──と昏い気持ちが込み上げる。
ついに来てしまった。事態が動き出す前触れ。  


「──消しますか」

「ははっ、エイダンは意外と過激な思考を持っているんだな。だがそれは得策ではない。既に光魔法を発現させているので教会に引き取られた。じきに国中に聖女誕生の噂が出回るだろう。──つまり、邪神が偽聖女に接触するということだ。今近づけばこちらまで目をつけられる」


詳しく話を聞けば、入学式で第二王子と知り合った偽聖女は、女生徒に追いかけ回されて逃げ回っていた第二王子を匿い、逃げる際に枝に引っ掛けて負傷した手を光魔法で癒したという。


「偽聖女は光属性の魔力が発現したばかりなのに、既に光魔法の使い方を知っているんですか?訓練もなしに?彼女の魂は邪神が召喚したものだと精霊に聞いたので、善人とは限りません。王子に近づいたのも偶然ではないかもしれません。邪神の傀儡の可能性もあります。第二王子には近づかぬよう注意した方が良いかと」


エイダンがそう進言すると、途端にアイザックの表情が歪み、こめかみを抑えている。


「何かありましたか?」

「もう手遅れだ。弟は偽聖女に心酔している。なんなら婚約者を偽聖女に変更してほしいとまで言い出した。尊い聖女の血を王家に迎え入れるべきだと熱弁してね。もう頭痛いし胃も痛いよね」

「…………鑑定しますか?」

「ああ、近いうちに頼む。邸に帰ったらノア殿下にも伝えてくれ。それからジルと連絡を取って状態異常を無効化できる魔道具がないか相談しないとな。──……はぁ。どいつもこいつも私欲の為に好き勝手やりやがって。いっそ私も好きに暴れてやりたいよ」


「王太子が公務を放棄したら一瞬で国が滅びますよ」

「ずいぶん私を買ってくれてるんだな」

「その狡猾さと腹黒さは国王向きですよ。貴方が王太子だからこそ腹黒マッケンリー公爵を抑えられているんですから」

「それ、ほとんどただの悪口だろ。……ったく、どうしてくれようかね、あの愚弟は。何かをやらかしそうな予感しかしない」


アイザックは執務机に肘をついて頭を抱えている。



「最悪の場合、切り捨てるしかないな」









◇◇◇◇



「──そうか。偽聖女が現れたか」


夕食後、エイダンはノアを執務室へと誘い、アイザックとの会話を聞かせた。

ノアの眉間に皺が寄る。


「しかも、俺たちと同じ学年か。学科は?」

「貴族科です。学園には光魔法を教えられる教師がいない為、魔法訓練は教会で行うそうです──ただ……」

「……なんだ?」

「教会と第二王子から話を聞いた陛下が、学園内では第二王子と側近達が偽聖女の護衛をするよう言い伝えたようです」

「わざわざ火の中に飛び込んで行くようなものだな。王太子の頭痛が酷くなるはずだ。かといってこちらは何もできない。目立って今邪神に目をつけられるとマズイからな……」


ノアも難しい顔をして悩んでいる。


「とりあえず王太子殿下はジルに状態異常無効化の魔道具がないか相談するとのことです」

「邪神の神力を使った術をかけられていたら、魔道具は役に立たないぞ?」

「はい。ですから今度、私が第二王子を鑑定します」


「そうか。とにかく今は何も起こってないから動きようがないな。明日から俺やヴィオラ達は偽聖女に関わらないようにするよ」

「ええ。お願いします」



王家と偽聖女が近づくのはあまり良くないが、もうどうしようもない。

陛下は聖女を手に入れて身の安全を強固にしようとしている。

水魔法の治癒と、光魔法の治癒はレベルが違う。


外傷を治す水魔法に対し、光魔法は病以外なら何でも治す。欠損した四肢や失明した目まで治せる。

だから陛下は聖女を取り込みたいのだ。


もし第二王子の婚約者を偽聖女に変えた場合、現婚約者であるアンブロシュ公爵令嬢の父親が黙っていないだろう。


偽聖女の存在が、今後の貴族のパワーバランスを脅かすかもしれない。


エイダンはこの予感が当たりそうな気がして頭が痛くなり、大きなため息をついた。





──────────────────────

新連載始めました。

『親友を抱いていたのは、私にプロポーズをした恋人でした』

R18作品です。

興味ある方は読んでいただけると嬉しいです。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです

珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。 ※全3話。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

処理中です...