131 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
125. ブラックリスト③ side ノア
しおりを挟む通常、夜会のエスコート役は親族か婚約者が務めることになっている。だがこの先、ルカディオにヴィオラのエスコートをさせるつもりはない。
それはノアだけでなく、クリスフォードやエイダンも同じ見解だった。
「当然でしょ。ヴィオが精神的に落ち着いたら婚約解消する予定だから、アイツがヴィオをエスコートする日なんか一生こないよ。現にフォルスター 侯爵家からドレスも届いてないし、エスコートに関する手紙すらないしね」
婚約者にドレスを贈るのも付き合いのうちだ。
あの男だって嫡男なのだから、いくら両親が身近にいないとはいえ、それなりの教育を受けているはず。
それにも関わらずヴィオラを無視しているということは、あの男の意思なのだろう。ヴィオラを傷つけるためにやっているのだ。
ヴィオラはルカディオを避けるようになってから一切あの男の話をしないが、表面上は穏やかに見えても内心は傷ついているはず。
「なんでこんなことになってしまったんだろうな……」
エイダンが複雑そうに顔を歪めて呟いた。
彼はこれまでルカディオのサポートをしていた一人でもある。だからこそ、この結果が残念で仕方ないのだろう。
普通の貴族なら、道連れになるのを恐れて失脚した侯爵家とは縁を切る。大多数の貴族はその道を選ぶはずだ。
だがエイダンは婚約を継続して子供のルカディオを裏から支えていた。それも全てはヴィオラのためだったに違いない。
一途に想い続ける娘の恋を、父親として応援してやりたかったのだろう。だがその親心が今、無駄に終わろうとしている。
「今のアイツの頭の中は偽聖女のことでいっぱいだから、気にしても仕方ないんじゃない? アイツのヴィオへの想いは結局その程度だったってことだよ。むしろ結婚前に知れて良かったよ」
「──ダミアン殿はショックを受けるだろうな」
「まだエイダン殿の研究所にいるのか?」
「ええ。ようやく禁断症状から脱してカウンセリングとリハビリに励んでいますよ。ただ、何かしらの後遺症は残るでしょうね。脳にどれだけのダメージを受けたかはリハビリの成果を見ないとわかりません」
「そうか……」
魔草の薬物中毒に陥っていたルカディオの父──ダミアンは秘密裏にエイダンの研究所で治療を行っていた。
彼の血液は魔草の薬物治療の研究材料として帝国にいるジルにも送られ、両国で魔草の解明に力を注いでいる。
幻覚草や魅了効果のある新種薬物の成分鑑定ができれば、理論上では解毒薬を作ることができる。
だがこれらは邪神教によって作られた薬物のため、神力が付与されている可能性が高く、どこまで解明できるかは未知数だ。
「ダミアン殿とルカディオの身に起きたことは同情する余地はあるが、それとヴィオラのことは別問題だ。彼らの問題にヴィオラが犠牲になることはない。だから俺も婚約解消には賛成だよ」
「ええ。私もそのつもりです。ヴィオラが望めばすぐに手続きをします」
(あとはヴィオラの気持ち次第だな──)
侍従に入れてももらったお茶を飲んで一息ついていると、扉を叩く音が聞こえ、聞き慣れた声の主の入室を許可する。
「どうした、マルク」
「王太子殿下のお使いですよ。今度の舞踏会の出席者リストが出来たとのことで──レイモンド・マッケンリーが出席するらしいです」
「……公爵が。そういえば、最近外遊から戻ったと聞きました」
エイダンが眉間に皺を寄せて低く唸る。
「ついにお祖父様のお出ましですか。僕とヴィオラは一度も会ったことないんですけど、どういう人なんですか?」
「──愛人と子を作り、お前たちの母であるマリーベルを冷遇していた男だ。権力欲が強くて自分以外の人間は駒としか思っていないだろう」
「つまり、クソじじいってことで正解?」
「正解だ」
「ブラックリストの要注意人物が勢揃いだな」
「あ、ノア様。そのブラックリストにもう一人追加したほうが良いかと」
「誰だ?」
「デンゼル・フォン・バレンシア」
その名を聞いてエイダンとノアは目を見張る。
「王弟だな。なんで要注意人物なんだ?」
彼はバレンシアの王弟であり、魔法省の大臣でもある。
ノアは面識はないが、皇帝と団長のレオンハルトとは付き合いがあるはずだ。彼らの話では穏やかな性格で話術に長け、大臣としても魔法士としても優秀だと聞いていた。
「王太子殿下が注意しろと──マッケンリー公爵と繋がりがあるそうです」
「!?」
デンゼルとマッケンリー公爵の名を聞き、エイダンが思い出したように呟く。
「……そういえば昔、王弟殿下が第二王子だった頃にイザベラとの婚約話が持ち上がっていました。結局白紙に戻ったらしいですが……」
「父上に惚れてその縁談を蹴ったんでしょ。あの人、父上に狂ってたからね」
「マッケンリー公爵とはその時からの付き合いか──」
そして、アイザックの危惧する考えに辿り着く。
以前、光と闇の精霊たちと邪神の目的について話した時に、恐らく邪神復活のために戦争を起こすことが目的だと言っていた。
そのために邪神教とマッケンリー公爵が手を組んでいると──
先程まではマッケンリー公爵が戦争による軍事政策で金儲けを狙っているか、クーデターを企んでいるのだろうと踏んでいたが、アイザックはデンゼルこそが黒幕だと思っているということか──?
「──王位簒奪か」
「あくまで可能性の話で、王太子殿下の勘が働いたとのことです」
マルクの話に考えこんでいると、エイダンが重そうに口を開いた。
「──ありえるかもしれません」
「なぜだ?」
「実は……他言無用でお願いしたいのですが、今、王太后殿下が床に伏しています」
「国王の実母……だったよな?」
「はい。王弟殿下の母君は側妃様で、彼女は殿下が幼い時に病で亡くなったとされています」
「……されているということは、それは表向きな理由で、事実は違うということか?」
「──ええ。実際は…………おそらく毒殺です」
153
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~
岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。
「これからは自由に生きます」
そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、
「勝手にしろ」
と突き放した。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる