133 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
127. 要らない期待
しおりを挟む「出来ましたよ、ヴィオラ様。本当にとってもお綺麗です!」
カリナが鏡越しに嬉しそうにヴィオラに声をかける。
「わあ……すごい。お化粧してこんなに着飾ったの初めてだから、なんか別人みたい……。皆、私だってちゃんと気づいてくれるかな?」
鏡の中の自分に感動しながらも、未だ弱気なヴィオラの後ろに、腰に手を当てたジャンヌが立ちはだかる。
「何言ってるんですか! ヴィオラ様は普段のナチュラルメイクでも、すっぴんでもまごうことなき美少女ですよ! そして今日のヴィオラ様は天使か妖精のように可憐で可愛らしいです!」
「ええ、そうですよ! ヴィオラ様は自己肯定感が低すぎます! うちのお嬢様はとっても可愛いんですよ!」
「え、えっと……あ、ありがとう?」
見慣れない自分の姿と、カリナとジャンヌの絶賛の声に照れてしまい、ヴィオラは頬を染めてモジモジしている。
そのぎこちない仕草がまた相手を悶えさせていることにヴィオラは気づいていない。
「今日のエスコートはクリスフォード様なんですよね?」
「ええ。お揃いの衣装だから並んで歩くのが楽しみだわ」
三人で雑談していると、扉を叩く音が聞こえた。入室許可と同時に現れたのは兄のクリスフォード。
「ヴィオラ、準備はできた?」
「はい、お兄様」
先日と同じように前髪を横に流し、美麗な顔があらわになった兄はいつもより大人っぽく、中性的な印象が薄れて男らしさが垣間見える。
男女問わず魅了する容姿と謳われたエイダンの血をしっかり引き継いでいて、今夜のデビュタントで令嬢たちの胸を射抜いてしまう様子が簡単に想像できた。
(お兄様、王子様みたい)
「ヴィオ可愛い。ドレスと同じ刺繍のリボンをつけたんだね」
「ええ。カリナが三つ編みに編み込んでくれたの」
今日のヴィオラの髪型は、両サイドの髪をリボンと共に編み込んで後頭部にシニヨンを作り、ハーフアップスタイルにまとめた。
プラチナブロンドの髪が動くたびに波打つウェーブがキラキラと煌めき、可憐さを引き立てている。
そして仕上げにシニヨン部分にクリスフォードのネクタイブローチと合わせたアメジストの髪飾りをつけ、双子コーデの完成である。
「さすがカリナ。君は本当に優秀だね。ヴィオラの良さをちゃんとわかってる」
「も、もったいないお言葉です!」
笑顔でクリスフォードに褒められたカリナは、顔を真っ赤に染めて恐縮する。
そんな二人の様子を眺めていると、ジャンヌと目が合った。そして自然にお互いニンマリと笑ってしまう。
ルカディオだけでなく、幼い頃からヴィオラの侍女見習いとして仕えてくれていたカリナもまた、共に育ってきた幼馴染といえる。
継母の虐待から、時には身を挺してヴィオラとクリスフォードを守ってくれた心強い味方。
だから、ずっと一緒にいたヴィオラにはわかってしまう。
誰にも悟らせないように抑えようとして、それでも追ってしまう視線の先にいる人物。その人に向ける瞳の奥に秘められた焦がれる熱。
カリナが密かに兄を慕っていることに、いつからかヴィオラは気づいていた。
その恋慕う兄が、王子様のような格好をして笑顔を向け、カリナの仕事を褒めてくれたのだ。
動揺して顔を真っ赤にしても仕方ない。
慌てて何とか表情を作り、平静を保とうとしているカリナがとても可愛い。
(もしも叶うなら、カリナの恋が実るといいな)
次期伯爵家当主と侍女という身分差があるとはいえ、カリナは子爵令嬢だ。家格として釣り合いが取れないわけでもない。
自分は失恋してしまったけれど、兄とカリナが幸せになってくれたら、それはヴィオラにとっても幸せなことだ。
そんな二人の未来を想像して笑みが溢れると、クリスフォードがヴィオラに手を差し出す。
「ご機嫌だね、ヴィオラ。デビュタント楽しみ? じゃあそろそろ行こうか。ノアと父上も下で待ってるよ」
「はい」
兄のエスコートで部屋を出る双子の後ろから、帝国魔法士の正装である白のローブと制服を身に纏ったジャンヌが付き従う。
玄関のエントランスへ続く階段を降りると、笑顔でヴィオラたちを見つめるノアとエイダンの姿があった。
エイダンは落ち着いたダークバイオレットのフロックコートに黒のベスト、白のシャツに黒のネクタイを締め、アメジストのネクタイピンをつけている。
フロックコートの襟は黒の刺繍で縁取られており、シックで豪華な雰囲気が大人の男の色気を演出している。
そしてノアは、ジャンヌと同じく帝国魔法士の正装である制服と、ロイヤルブルーのローブを羽織っている。
スラリとした長身に着込んだローブの紋様が美しく映えていて、佇まいが高貴なオーラを放っていた。
(男性陣が眩しい……なんか隣に並ぶと落ち込みそう……)
長年虐げられてきて自己肯定感の低いヴィオラは、自分も負けず劣らずの美少女である自覚がない。
「ヴィオラ、本当に綺麗だ」
「あ、ありがとうございます」
ノアの言葉を聞いて、先日指に口付けを落とされたことを思いだして顔が熱を持つ。
あの後、男性が跪いて女性に何かを乞うのは、女性を敬う紳士としての対応であり、主にダンスを申し込んだり、忠誠や敬意、求婚の時によく見られるものだとジャンヌたちに教えられた。
手の甲や指は敬意を表し、手のひらは親密になりたい想いを表し、ドレスの裾に口付けるのは忠誠の証だと教えられた。
この間のそれは、ノアの敬意だとわかっていても、ルカディオ以外に口付けを落とされたのは初めてだったのでヴィオラは動揺してしまう。
「今夜はヴィオラに変な虫がつかないようにしっかり守るから安心してくれ」
「変な虫……?」
「今日のヴィオラは可愛いから、いろんな男が狙ってくるって意味だよ。そんな男共からヴィオラを守るのが今日の俺の仕事だ」
「!?」
またサラッと可愛いと言われてヴィオラの頬が染まる。そして胸の中に小さな期待が生まれてしまった。
もし皆が褒めてくれるのがお世辞じゃないなら、ルカディオも今日のヴィオラを見て同じように思ってくれるだろうか。
そうしたら、自分のところに戻ってきてくれるだろうか。
この期に及んでそんなことがあるわけないと違う自分が否定しても、湧いてしまった期待はそのまま消えてはくれなかった。
ルカディオとの接触を絶ってから、本当はずっと、ヴィオラはルカディオのことを待っていた。
関わることをやめたヴィオラに気づいて、彼が自分を気にかけてくれるのではないかと──
初めてのデビュタント。本来ならルカディオのエスコートで会場入りするのが普通だ。
もしヴィオラを気にかけてくれたら、舞踏会のことで何かしら接触があるかもしれないと、密かに期待をしてしまった。
結果、そんな期待は見事に砕け散った──
結局ルカディオからドレスも舞踏会についての手紙すら贈られることはなかった。
そしてトドメに、父からルカディオのエスコートはないと言われた。第二王子たちと一緒にリリティアの護衛として六人で入場するらしい。
それを聞いて、ヴィオラはただ頷いた。
あの時にもう希望は捨てようと思ったのに。
もう諦めると決めているのに。
心はまだしつこく、彼を求めている。
一縷の望みにかけてしまう。
(解放されたいのは、私も同じかもしれない──)
王宮に向かう馬車の中で、窓ガラスに映る着飾った自分の姿を見つめながら、要らぬ期待をする心を必死に抑えつけた。
166
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~
岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。
「これからは自由に生きます」
そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、
「勝手にしろ」
と突き放した。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる