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浮気野郎撲滅の会発足③
しおりを挟む「皆様もこれから私達が行動を起こすことにより、社交界にどれだけの影響を及ぼすかご想像がつくかと思います。なんせ王族や高位貴族を含む令息達と一斉に婚約破棄しようとしているのですから」
全員の表情が引き締まり、頷く。
「ですから、皆で協力して事を進めるにあたり、お互い絶対に裏切らないという保証が欲しいのです」
「保証とは───魔法契約でも結ぼうと言うのですか?」
「キャサリン様はやはり察しがいいですね」
「ワタクシ達はお互いを知っていても挨拶を交わす程度でそれほど濃い付き合いはしていません。逆に何の保証もなく婚約破棄の手伝いをすると言われる方が怖いですわ」
「その通りです。私達がいくら学生とはいえ、婚約破棄となると家の醜聞になります。それをこちらは軽傷に済ませ、相手方を有責として破棄を了承させなくてはならない。つまり私達の標的は彼らの父親です。当主がこちらの言い分を飲むしかない完璧な証拠を用意するしか私達が勝つ方法はありません」
「何だか血が騒ぐな」
アデライド様がワクワクしたような顔で話に耳を傾ける。
それに続きアリアも口を開く。
「つまり、互いの婚約者の情報を集め、交換するということね?私達の家が手を組む為に」
「そういうこと。もうこれは私達子供だけで解決できる問題ではないの。彼らは学園で堂々と振る舞い過ぎた。私達の付き合いは学園の間だけではなく、卒業後も社交界で続いていくんです。察しの良い子息子女達は既に彼らと距離を取り始めています。あんな下半身ゆるゆるな無能な男達が権力を持ったまま卒業して社会に出たらどうなります?」
「ろくな事にならないですね・・・。お父様の貿易会社は信用第一なんです。いくら財力を持っているからといって貴族なのに貴族マナーや振る舞いが出来ない上に、結婚前から愛人を囲う準備をしている男なんて信頼に値しません。やはり私は何が何でも婚約破棄しようと思います」
「私も。外交は夫婦二人三脚で諸外国を回らなきゃいけないの。私の両親みたいにお互いの間に信頼関係がないと絶対に務められないわ。それに加えて数カ国の言語を使いこなし、相手の文化を知り、我が国に利となる交渉をしなければならないのよ。最近クラス落ちして外交官の教育もサボりがちなジョルジュ様に、国を背負う仕事など任せられないわ」
「私もリックと婚約破棄するぞ。昔からアイツは女である私が騎士を目指す事を貶め、王宮勤務の近衞騎士団に対して実力ではなく家のコネだけで寄せ集まった軟弱集団だとバカにしてきた。真の騎士は王都を守る王立騎士団だとな。私は兄や父をバカにするリックを許せない。対立する騎士団の友好の為に結ばれた婚約だったが、ここまでコケにされて、私も我慢の限界だ」
「───ワタクシは・・・、ワタクシ達の婚約は女王が決めたものです。それに逆らってコンラッド様を有責にして婚約破棄を申し出たとして、ワタクシは・・・、お父様は許されるでしょうか・・・」
「それは大丈夫だと思いますよ。キャサリン様」
私は彼女を安心させるように微笑みかけた。
女王もキャサリン様の能力や努力を評価している。マライア様の右腕となり得る人材だと。それに何より血の繋がった姪だ。当然情もある。
だからキャサリン様が自ら行動を起こし、それを望むならコンラッド様と婚約破棄しても構わないと言質を取っている。
既に女王に見限られそうな第一王子も、マライア様の提案で側近達の父親同様にしばらく泳がせてマライア様の治世に必要かどうかふるいにかけられる事となった。
反省すればそれで良し。更なる愚行を積み重ねる様なら厳罰に処する事になっている。マライア様の弟への最後の温情だ。
その温情を生かすか殺すかで、コンラッド様の行く末が決まる。それを見守るのは私達・・・影だ。
「キャサリン様。どうするか決めるのは貴女です。どんな決断にせよ、我がカーライル侯爵家は貴女の力になりますわ。それは同じ学園に通う者として、貴女の努力と耐え忍ぶ姿をずっと見てきたからです。学園で貴女を慕う子女達は多いのですよ?非公式のファンクラブなどがあるくらいなのですから」
逆にコンラッド様はデイジーの件で女生徒達を敵に回してますけどね。
「キャサリン、私とバルテ侯爵家もキャサリンの味方だ」
「ブリジット様・・・、アデライド・・・」
「私も援護させてもらいますわ」
「私もです!」
「アリア様・・・、モニカ様・・・、───皆様、ありがとうございます」
その笑顔は、泣きそうな、でもどこか安心したような、年頃の少女のような笑顔だった。
私も立ち上がり、彼女達の顔を見据える。
「これからは家と家同士の戦いになりますわ。各家の評判に関わりますからお互いの持つ情報も他言無用の機密扱いになります。まず私達が最初にやる事は自分達の親の説得です。相手が婚約不履行に値する行動を取っている証拠を見せ、婚約続行が家の不利益になると説得するのです。
既に私の方で不貞の証拠は持っていますが、まだ裏付けが弱くて、若さゆえの過ちだとスルーされかねない。だから相手の人間性が家にとって疫病神でしかない事を証明する必要があります」
私の問いかけに、全員が頷きを返した。
「そこで、我がカーライル侯爵家が、絶対に言い逃れの出来ない証拠を揃えてみせます。皆様には相手との交流を全て記録に残して欲しいのです。そして辛くて悲しい気持ちも思いのままに書き記して下さい。それが相手が加害者であると第三者に印象づける事が出来ます」
「分かった。何なら今までの覚えている限りの仕打ちを全部書き記してアイツがどんなに騎士道に反した男か証明してやる!」
アデライド様が俄然やる気を出して立ち上がり、胸の前で拳を握りしめた。
「私もこの際全部バラしてやるわ!私が今までどれだけ蔑ろにされて傷ついたか、お父様とお母様に知ってもらう」
「私も今までのエルナンド様の所業を書き記して、あの男はウチの会社にとって地雷でしかない事をお父様に証明してみせますわ!」
アデライド様に続いてモニカ様やアリアも気合いを入れて宣言した。
そして───、
「ワタクシも・・・、ワタクシも、もうコンラッド様から解放されたい。ワタクシはマライア様を尊敬し、慕っています。いずれあの方が統治するこの国の為に働きたい気持ちは変わりません。ワタクシが支えたいのはマライア様とこの国の民です。もうワタクシの人生にコンラッド様は必要ないわ」
全員が立ち上がり、意志を固める。
「では、魔法契約を───」
魔法詠唱と共に、全員が目の前に手をかざすと、空間に契約書が浮かび上がり、それぞれの名前が記される。
「これで契約が相成りました。今日から私達は同志です。共に助け合い、相手有責の婚約破棄を必ずや成し遂げましょう!あ、ちなみにウチは王家の影をやらせていただいてますの。最新魔道具を使ってぐうの音も出ない程の不貞の証拠を揃えて見せますのでご期待くださいませ。あの浮気野郎共の伸び切った鼻をへし折ってやりましょう!」
契約通り他言無用でお願いしますね。とサラッと告白すると、全員が驚愕に目を見開き、口をパクパクさせていた。
今日この日、浮気野郎撲滅の会が発足された。
敵を完膚なきまでに叩き潰すつもりでお互い闘志を燃やしていたけれど、この後暴かれる彼らの秘密に私達は戦慄する。
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