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マライア・ブランケンハイム①
しおりを挟む「やあ、ブリジット。よく来てくれた」
「ご機嫌よう、マライア様」
私が待つ王太女宮の執務室に、最高位の女性騎士服を身に纏ったマライア様が颯爽と入ってきた。
「面を上げて。この部屋は遮音魔法をかけてあるから楽にしていいよ」
許しを得て顔を上げると、国内外で『王国の花』と賞賛される美貌が目に飛び込んできた。
この国の王太女、マライア・ブランケンハイム。
元近衞騎士である王配コルネリウス様の光輝く金髪とサファイアブルーの瞳を受け継いだ、文武両道の麗人。
王女でありながら騎士である父に倣い、その身体能力の高さで頭角を表し始め、最終的に女人禁制の騎士団に女性騎士の地位を確立させた方だ。
日頃から彼女は騎士服を好んで身につけ、男性に引けを取らない見事な剣技と王子のような振る舞いから、多くの令嬢に慕われて非公式のファンクラブまであるほどの人気ぶりだ。
彼女を慕って女性騎士志望者が年々増えているらしい。
騎士見習いのアデライド様もマライア様を慕う一人だ。
そんな男顔負けのスペックを持つ王女だが、令息達のプライドを刺激して反感を買うかと思いきや、彼女がいつも好んで着ている騎士服は、訓練で鍛え上げられた美しい体を強調させて男達を魅了している。
露出のないパンツスタイルの騎士服は、普段ドレスの下に隠された女性の曲線美を露わにしてしまう為、体型が人の目に触れてしまうのだ。
訓練で鍛えたしなやかな筋肉質の体型は、豊かな丸みを押し上げ、引き締まった腰とスラリと細く長い手足が相まって、素晴らしい曲線美を作り出している。
まあ簡単に言うと、男の欲を刺激するエロい体をしているので、男性に妬まれることなく人気を得ているのだ。
ジャイアントベビーのような一部例外もいるが。
何が怖いって、それが全てマライア様の計算で作り上げて得た支持だということ。
人の心理を心得ている。
そのカリスマ性で次期女王の即位は憂いなく行われるであろうと言われた矢先のコレだ。
「さあ、我が愚弟達の愚行を見せてもらおうか」
今から変態達の痴態プレイ上映会が始まる。
私も事前情報を得て覚悟はしていたものの、彼らの痴態を見るのは中々の苦痛だった。
知り合いが出演するAVを見させられる事は、エゼルと同じく豚料理を見たくない程には衝撃だった。
それが血を分けた弟となると、どれほどの衝撃か───、
「おえええええっ、気持ち悪ぅ───っっ」
だよね。
そうなるよね。
食事前という事で吐いてはいなかったけど、要所要所でマライア様は吐き気を催してドン引きしていた。
だがその他の側近達の映像はお母様と同じく爆笑しており、なかなかの担力を見せた。
そしてイアンの資料に関しては眉を顰める。
「この男だけ毛色が違うな。ハネス伯爵夫人の実家はランドル伯爵家だったか。まさかランドル前伯爵が病死ではなく毒殺だったとはな。流行病で死者多数だった混乱事を利用した犯罪か」
「はい。理由はかつてから不倫関係にあった血の繋がらない兄との痴情のもつれ。過去見の魔道具の記録映像では学生時代から体の関係を結んでいたようです」
「結婚時に非処女だとバレなかったのか?」
「事前にハネス伯爵を酔わせて事に及び、寝てしまった後に動物の血で偽装したみたいです。そちらの映像も証拠で残っています」
「はあ・・・、ハネス伯爵夫人は夜会で何度か挨拶を交わした事があるが、大人しくて男の後ろに控える様な女性だった。そんな人がこんな大それた事をするとはなぁ」
「私も同じ認識でしたよ。だからこそ狂ってると思いました。動機は兄の心が他の女に向いた事が許せなかったのでしょう。だから他の女と結婚する前に殺したのだと思います。その後彼女は精神が崩壊したのかイアンに執着し、息子を兄に見立てて体の関係を強要しました」
そしてイアンは壊れた。
全てに蓋をして穏やかに笑っているのは一種の防衛本能だろう。ハネス伯爵の実子ではない自分が穏便に暮らす為の処世術だった。
「ハネス伯爵家は王都の事業に深く関わっている。彼らに何かあれば国の流通に大打撃を与えかねない。公表はできないが、非公式でハネス伯爵夫人は捕らえねばならないな。人を三人も殺している。コレは重罪だ。知ってしまった以上見逃す事はできない」
そう、ハネス伯爵夫人が殺したのは兄だけではない。
死んだ兄の婚約者と、彼女のお腹に宿る子供も、嫉妬のあまり手をかけてしまっていた。
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