【完結】影を使って婚約者の秘密を暴いたら、とんでもないことになりました。

ハナミズキ

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あの愛は本物だった

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どういうこと?

何で亮介がイアンとして生まれ変わってるの?



「……は?コイツも前世の記憶持ちか?しかも亮介って……確か」

「──私の前世で夫だった人」

「コイツが……!?前世でも今世でも散々やらかしたくせに、性懲りもなくまたブリジットに縋りついてんのか!」


ブワッと病室にエゼルの殺気が放たれる。


「……!?」

「エゼル!やめて!イアンは病人なのよ!」

「このクズ野郎が……」

「やめてったら!落ち着いて!これじゃ話し合いにならないでしょ!?」


エゼルの両腕を掴んでジッと彼を見つめる。


「お願いエゼル。話をさせて」

「…………」


数秒見つめ合った後、エゼルは大きなため息をついた。


「惚れた弱みだな」


そう言って魔力の放出を抑えた。

明らかに不満顔だが、病室の壁際にある椅子にドカっと座り、手と足を組んでそのまま私達を監視するように見つめる。

どうやら病室を出るつもりはないらしい。





「────イアン、……いえ、亮介…は、いつから記憶があったの?」

「思い出したのはつい最近だよ。薬の離脱症状が重くて1週間くらい意識不明だった頃に、亮介だった頃の記憶を見せられた」


最後の方は声が震え、イアンの瞳からまた涙が溢れた。


「香澄……ごめんな。最期にあんなに傷つけて……そのまま死なせてしまった。幸せにするって誓ったのに……俺は前世でも、イアンとしても選択を間違えた。またお前を傷つけた」


力なく項垂れて、掛け布に涙の染みが広がっていく。
イアンの言葉に、何も返せない。

病死だから亮介のせいではないけれど、生きる気力を奪ったのは間違いなく彼なのだから。


こうして改めてイアンと亮介を見比べると、肝心な所で選択を間違え、事態が悪化して結局隠しきれなくなる所なんかは、とても似ている気がした。

仕事は優秀なのに、プライベートで粗が目立つ。
それで足元掬われたのはイアンも同じだ。


「──そうだったのね。私は生まれた時から香澄としての記憶があったわ。幼い頃はこの記憶に随分と苦しめられた。悲しい夢を見たくなくて眠れなくなったこともある」

「……ごめん」


眠れない時は、母が私を優しく抱きしめて、一緒に寝てくれた。


前世の両親に添い寝してもらった記憶はない。

前世の母は子供にあまり興味のない人だったし、父も仕事優先で家族を顧みる人ではなかった。

ただ私は会社を発展させる駒として教育を受け、管理されていただけ。


でも今世の両親は、私に惜しみない愛情を与えてくれた。
沢山抱きしめて、沢山言葉で愛情を示してくれた。


だから私は、香澄ではなく今のブリジットになれたのだ。


今、イアンの愛を信じきれなかった理由がわかった気がする。私は彼の中に亮介の欠片を感じ取っていたのかもしれない。

だから過去の記憶に囚われて、恋なんてしないと頑なになってしまった。

親愛の関係でいいと、イアンの気持ちをかわして自分が一番傷つかない、安心出来る関係性を求めた。


その結果が、今だ。



やっぱり、どうしたって私と亮介は、結ばれない運命なのだろう。



「……なんで、私達はまた……出会ったのかしら」

「……それは、俺が死ぬ前に神様に願ったからかもしれない」

「死ぬ前……?」


私が尋ねると、イアンはまた困ったように微笑み、再び口を開く。


「香澄が病死した後、俺はもう、生きる気力を失くしてしまったんだ。……だから、香澄と暮らしたあの家で、俺は命を絶った」

「……っ!?」

「死ぬ時に、生まれ変わってまた香澄に会いたいって願った。次こそは、香澄を幸せにしたいって。──でも結局このザマだ。神様は残酷だな。思い出すのが何もかも失った後だなんて……。願いを叶えたのは、死んで苦しみから逃げた俺に、罰を与える為だったのかもな」


自嘲するイアンに以前の面影はなくて、口調も仕草も、声のトーンも、何もかもが亮介だった。


「何で自殺なんか……」

「言っただろ?俺が愛してるのは香澄だけだって!香澄のいない世界で、俺が生きていけるわけないだろ……っ。そんな地獄を生き抜けるほど、俺は強くないんだよ」


イアンが悲痛な声を上げて涙を流す。


あまりに悲しい真実に、胸が締め付けられた。

亮介の愛は、本物だったのか。


ニセモノだと思っていた結婚生活は、

亮介の愛情に包まれて幸せだった日々は、


全部、本物だった──?




全ては、私を失うことを恐れての行動だった?



嗚咽を溢して泣くイアンに手が伸びてしまった時、反対側の手を強く握られた。

驚いて振り向くと、捨てられた子犬のような顔をしたエゼルがいた。


「……エゼル」

「お前は香澄じゃない。ブリジットだ」



エゼルの声が不安に揺れる。
そちら側に行くなと、目で訴えている。
 



────そうだ。


私は香澄じゃない。

彼女は死んだ。



私は彼女の記憶を見ているだけにすぎない。

ブリジットという別の人間なのだから。


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