【完結】影を使って婚約者の秘密を暴いたら、とんでもないことになりました。

ハナミズキ

文字の大きさ
42 / 63

本当の別れ

しおりを挟む


デイジーが、あの女の生まれ変わり……?


「何でそんな事がわかるの?デイジーと会ったの?」

「いや、学園を退学してから会ってないよ。そもそも俺の居場所すら知らないと思うし」

「じゃあ何で?」


私の疑問にイアンが気まずそうな表情を浮かべ、口を開けたり閉じたりしながらソワソワとしている。

そのままずっと見続けていると、観念したかのように口を開いた。


「────亮介の記憶を取り戻して、今までの事を思い返してたら……同じだったから……」

「何が?」

「……セックス依存症で誰とでも寝る所とか、閨での乱れ方とか……、人を陥れる手口とか、あの女にそっくりなんだよ」

「…………」



──今、サラッと最低発言が混じってた気がするんだけど、気のせいかしら?


「閨での乱れ方が同じとか、ホント最低だなお前」

「聞き流せよそこは!」


「──大丈夫よ、イアン。他には何か気になった事はある?」

「────……これはなんの根拠もないんだけど、アイツは男と金への執着が異常なんだよ。本命は多分コンラッド第一王子だ。だからキャサリン様を潰しにかかるんじゃないかと思ってる」

「──彼女が何か企んだ所で大した事ないと思うけど…、言い方悪いけど、彼女頭悪いし……」


直情型だし大根役者だし、前世でも法的に確実に彼女が罰せられる立場なのに、堂々と正妻の私の所に乗り込んで来て、不貞の証拠まで見せてきたものね。


「でもバロー男爵は狡猾な男だよ。デイジーの淫乱な体質を見込んで養女にし、学園に放り込んだんだから。見事思い通りに事が運び、王子と懇意になってるしね。それに……少し引っかかる事があって……」

「引っかかること……?」

「アイツが男を連れ込む宿は、バロー男爵が経営してる連れ込み宿だ。そこにこないだまでネブロス帝国の第二皇子がお忍びでいたんだんだよ。コンラッド王子と親しげに話してたのを見た」


「ネブロス帝国の第二皇子って、確か帝国騎士団の団長よね……?」


エゼルを見上げて問うと頷いた。
なぜ帝国の第二皇子が、お忍びで場末の連れ込み宿に……?


「あの時は単に女を買いに来たのだろうと思ってたけど、よく考えたら大帝国の皇子が、下位貴族のバロー男爵の宿にピンポイントで来るっておかしくないか?普通は高級娼館に行くだろ」

「つまり、コンラッド第一王子が目的だと?」


「いや、そこまではわからないけど、とにかくあの女と関わるとロクな事ないんだよ……だからキャサリン様達と一緒に、ブリジットも気を付けてくれ」

「わかったわイアン。教えてくれてありがとう」

「……ああ」


イアンが帝国皇子を見たならウチの影も見てるはず。
帰ったらお母様達に聞いてみよう。


「じゃあもう行くわね。……しっかり体を治して、今度こそ貴方の夢を叶えてね。亮介なら、きっと出来るわ」


出会った頃の、キラキラと瞳を輝かせながら夢を語った亮介を思い出す。私が恋をしたあの希望に満ちた笑顔を、いつかまた見せて欲しい。


「大丈夫よ。亮介の記憶がある貴方なら、きっと成功できるわ。私だって前世の知識を使ってカーライル商会で大儲けしてるんだから。チート知識は思う存分使わなきゃね」


腰に手を当て、自慢げに私の開発商品の種を明かすと、気落ち気味のイアンは吹き出した。


「クックックッ、チートか、確かにそうだな」

「そうよ。大学行ってまで経済学を学んだんだもの。その知識をこの世界に還元しないでどこで使うのよ。私はまだまだやりたい事がいっぱいなんだから」


拳を握りしめて新たな商品の構想を思い描いていると、イアンは少し寂しそうに目を細めた。


「──香澄は俺の前では甘えただったけど、ブリジットが俺に甘えてくれることは最後までなかったな……。本当に、もう香澄とは違うんだな」

「──そうよ。私はブリジットなの」


香澄のように、亮介だけに依存して生きてきた弱い人間じゃない。大事な人や、大好きな仕事や、敬愛すべき主もいる。

そして、愛する人も──。




「今度こそ、本当のお別れだ。香澄」

「──うん」

「それから、今よりももっと……。香澄の分も幸せになれ。ブリジット」

「うん」



私は満面の笑みを浮かべてイアンに手を差し出す。
その意図に気づいて、イアンも握手に応じてくれた。



「次は夢を叶えた経営者として、仕事の話が出来ることを願っているわ」

「ああ、すぐに叶えてやるさ」
















◇◇◇◇


「──エゼル?」

「なんだ?」

「この体勢は何かしら?」

「…………」



私は今、三人掛けソファの上でエゼルに押し倒されている。

イアンの入院先から帰る途中、何故かエゼルはずっと無言で、こっちを見ようともしなかった。

そして私の執務室に入るなり、この状態。


怒っているわけではなさそう。

どちらかというと不貞腐れてるというか、拗ねてる?



「さっきから何をムスっとしているの?言いたい事があるならさっさと言ってよ」


そして早く私の上から退いてほしい。

私を押し倒した後の、詰め襟のボタンを緩める仕草が色っぽくて、現在私の心臓が大変な事になっている。

襟の隙間から、鎖骨や意外に厚い胸板がチラリと見えていて、どこに視線を置けばいいのかわからない。



「──アイツ、ブリジットの前世の夫だったんだよな?」

「そうよ。びっくりよね」

「夫婦ってことは、契りを交わしたんだよな?」

「は?」

「あの男は、お前を抱いた事があるんだよな?」

「…………」



それはまあ……前世では恋人だったし、夫婦だったから、そういうことは普通にあったけども……、

──なんだろう。今の私は潔白なのに、浮気を詰められているような気になるのは何故だろう?


「気に入らない」

「え?」

「お前の乱れた姿を、俺は知らないのに、アイツは知ってるんだろ?」

「いや、香澄の時の話よ!?ブリジットの私は純潔だから!イアンとは口付けすらした事ないから!」

「でも亮介はお前の乱れた姿を全部覚えてるはずだ。それだけでも記憶を抹消してやりたいほど気に入らない。──……だから、俺にも見せて」


情欲に濡れた金の瞳が、捕食者のように鋭く光る。


「──何…を?」

「俺の手で乱れる姿」



そう言ってエゼルは、噛み付くように私に口付けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...