禁じられたアリス

右藤秕 ウトウシイナ

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Ep03 赤黒の月2

Ep03_06 開戦02

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◆開戦2
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 月のはるか上空。金星機動艦隊が会敵予想ポイントに到達した。旗艦「プロセルピナ」のブリッジにCIC(戦闘情報センター)からの状況報告が次々と伝えられてくる。

「方位006、002。距離0.3光秒。マガツカミの『ウキフネ』集団視認!」
「母艦クラス:1、戦艦クラス:4、巡洋艦クラス:22、駆逐艦クラス:22、計49。球状陣形をとって接近中」

 マガツカミのウキフネ艦隊がその不気味な陣容を枢機軍の前に現した。船体は半透明で薄く発光しており、それが常世ならざる世界の素材で構成されていることを示していた。
 ウキフネの分類方法は地球独自の評価によるものだ。それが本当に母艦なのか、戦艦なのか、地球人には判断しようがなかった。

「ついに来たか」

 金星艦隊司令ダウゼンベルヒ中将は、前方を見据えたまま微動だにせずに独り言ちた。いかめしい顔をした実直そのものといった風情の、40台半ばの男である。彼がこの艦隊の指揮を執っていた。

「おいおい、あのバケモノが49匹もいるのかよ」
「冗談じゃねーぜ。米軍がかなわなかったのに、俺たちにどうにかできるのかよ?」

 兵達の間に不安が広がる。敵に関して、未知の部分が多すぎるのだ。未知は不安を呼ぶ。

「でも、俺たちには対霊子兵装がある」
「そんなのアテになるのか?」
「さあな。あと5分もすれば分かるさ」

 マガツカミのウキフネと、対霊子兵装を装備した地球艦隊との戦闘はこれが史上初である。兵士たちの期待と不安が艦隊のいたるところに渦巻いていた。

「相対速度合わせ。全艦、対霊子システム起動! シールド展開、対霊体艦隊戦用意!!」
「全艦減速まで190秒」
「結界シールド展開」
「霊子イオン砲、データ入力!」

 マガツカミはなおも前進を続けている。ダウゼンベルヒは敵が射程距離内に十分達してから命令した。

「撃て」

 敵集団めがけて、300本のイオンビームが伸びてゆく。このエネルギーの束の中には特殊な方法により霊子干渉イオンが混入されていて、理論上、霊体にダメージを与えることが可能となるはずだ。
 金星艦隊の攻撃が命中する。無数の火球が敵集団のあちこちで確認された。

「撃沈1、大破3!!」

 ブリッジに歓声が起こった。

「攻撃が効いたぞ!!」
「いける、これなら勝てる!!」
「提督!!」

 副官が希望に満ちた目で上官を振り返った。

「喜ぶのはまだ早い」

 険しい顔のダウゼンベルヒが言うと同時だった。

「敵攻撃、来ます!!」

 米艦隊を一撃のもとに蒸発させた、マガツカミのレーザー兵器が金星艦隊に浴びせかけられた。直撃を受けた数隻の艦がシールドの効果もむなしく爆散し、浮かれていたブリッジクルーの表情が一気に青ざめる。
 轟音が鳴り響いた。旗艦「プロセルピナ」にも敵レーザーの一条が接触する。実際に敵のレーザーとシールドが接触した音は聞こえはしない。環境音システムが、宇宙空間での状況を把握しやすくするために、爆発音を合成しているのだ。ボリュームは控えめになってはいるが。
 ブリッジ内の一部が恐慌状態になった。若い兵を中心に、取り乱して喚き散らしている。プロの兵士としてあるまじきことだが、無理もない。彼らは早すぎる死を覚悟せざるを得なかった。

「うろたえるな!!」

 ダウゼンベルヒの怒声がブリッジを圧した。誰もがあきらめかけたが、しかし、プロセルピナの結界シールドは敵の攻撃を辛くもはじき返していた。
 結界シールドとは、従来の高電磁シールドシステムに霊子干渉イオン発生装置を組み込み、霊的防御を高めたものだ。基本的な仕組みは陰陽師などが使う結界と同じとのことだが、その原理を理解しているものは極少数だった。
 また、この結界シールドには初歩的な呪術の影響を無効化する機能もあった。地上での戦いでアーマチュア隊をおそった幻覚やケガレによる汚染もある程度退けることが出来た。

「……い、生きてる……のか?」

 ある兵士が艦内を見回した。
 オペレータが状況を確認する。

「艦首パッシブレーダー溶解! ……ですが、他は問題ありません」

 他にも多くの艦が敵の砲撃を凌ぎきった。敵戦艦クラスの主砲が直撃すればどうしようもなかったが、直撃でなければ、あるいは、それより下のクラスの砲撃ならば結界シールドは最低限の役割を果たせるようだ。

「(……何とかもちこたえたか)」

 渋い顔で、ダウゼンベルヒは頷いた。落ち着いているように見えて、内心はそう穏やかではない。なにしろこの戦場で、彼らは新兵器の実験台になっているようなものなのだから。

「轟沈9、戦闘不能4、大破、小破多数!!」

 オペレータが味方の損害を報告する。

「米艦隊は今の一撃で戦力の60%を失った。我々はたったの5%以下だ。対霊子兵装は着実に機能している!!」

 指揮官の冷静な言葉で、兵たちが落ち着きを取り戻す。

「我らの使命は時間稼ぎだ。『切り札』が到着するまで持ちこたえれば、それでいい!!」

 希望が兵たちの心に明かりをともした。一気に士気が上がる。

「これならなんとかなるんじゃないか?」
「ああ!!」

 それとは対照的に、ダウゼンベルヒは冷静に状況を分析していた。

「(なんとかイクサらしくなったな。しかしまだ、我々の力は彼らには到底及ばない。対霊子兵装がないよりはマシだが、敵味方艦艇単体での戦闘能力の差はほぼ1対6。敵主力艦一体に対し、味方艦6隻でやっとつりあう。 ――所詮、焼け石に水……)」

 もちろん、そんな分析結果を顔に出すことはない。それに、彼はまだあきらめたわけでもなかった。

「距離をとりつつ、敵を引きずりまわせ! 決して正面から当たるな!!」

 戦いは消耗戦の様相を呈してきた。


**********


 医務室のベッドの上で穏やかな寝息をたてているのは、シイナの幼なじみでクラスメイトの綾村倫子アヤムラリンコだった。
 ネクロポリスで2週間迷子になっていた彼女だが、秕に発見され、火星機動艦隊旗艦ルゥケイロルの医務室に運び込まれたのだ。
 シャワーを浴びて検査と点滴を受け、たっぷり食事をとったことでやっと落ち着いたのだろう。ベッドに横になるとすぐに彼女は眠りに落ちてしまった。幸せそうな寝顔だ。
 倫子を連れてきた秕と菜乃ナノも、胸をなでおろし一息つく。

 だが、安心したのもつかの間、秕に呼び出しがかかった。

「――分かりました。すぐ行きます」
「ひょっとして、敵?」
「……うん。ルゥケイロルも出港するって」

 倫子を見ながら、秕は答えた。
 この船はもうじき戦場へ向けて出港する。その船に倫子を乗せたままにしておくのは忍びなかったのだが、タイミングが悪すぎた。

「りんこちゃん、起きて。起きてよ!!」
「むにゃ。もう食べられないよう」

 このベタな寝言も、一周回ってなにか新しく感じられた。
 秕は、困ったように出口と倫子を交互に見比べる。

「あとはわしにまかせて、行きなされ」

 秕の困惑を察したのか、担当の老医師が促した。
 倫子のことも心配だったが、秕にはやらねばならないことがある。

「すみません、お願いします!!」

 秕はブリーフィングルーム目指してかけ出した。


―――――――――――――――――――
◆増援
―――――――――――――――――――


 月面都市ネクロポリス。国連軍統括本部。

「ベルアルビ、わかっておるだろうな。この戦い、絶対に敗北は許されぬ」
「は」

 国連防衛委員会防衛委員長は、戦闘中であるにもかかわらず宇宙艦隊司令長官モーガン=ベルアルビを自身の執務室に呼びつけていた。そのシワだらけの顔には生気はなく、博物館のろう人形のようだった。

「わしは所用で地球にまで行かねばならぬ。護衛艦隊を用意せよ」
「は」

 所用などと言ってはいるが、本当の理由は明白だった。防衛委員長はマガツカミを恐れて地球へ逃げ出す気なのだ。

「ならば、月機動艦隊から護衛部隊を割きましょう」

 月機動艦隊に対霊子兵装はまだ装備されていないが、それを教える義務はベルアルビにはなかった。
 そもそも対霊子兵装の開発に強硬に反対したのは防衛委員長だった。キライなものを無理に使ってもらうこともないだろう。
 もっとも、これは嫌がらせなどではもちろんない。対霊子兵装を装備した艦を余計なことに使う余裕は、今の枢機軍には一隻たりともないためだ。

「防衛委員長閣下。シャトルの準備が整いました」

 委員長の取り巻きの1人が報告した。

「うむ。期待しておるぞ、ベルアルビ」

 防衛委員長は部下を引き連れて、せわしなく部屋を出て行った。

「…………は」

 ベルアルビは無表情に敬礼した。


**********


 開戦から約10時間が経過していた。

「踏ん張れ。あともう少しだ!!」
「提督、わが艦隊の損耗率50%を超えました」

 副官が報告する。
 兵たちの顔にも疲労の色が濃く出ている。

「フム。戦闘開始から約10時間で5割か。悪くない」
「悪いですよ」
「敵の数は?」
「今のところ12体をしとめました」
「1/4か。上出来だ」

 ダウゼンベルヒが今一度声を張り上げる。

「このままのペースを維持しろ!! あと半日もすれば、何とか……」

 その時、彼の声をさえぎるようにオペレータが叫んだ。

「敵の増援です!!」
「何!!?」

 豪胆なダウゼンベルヒの顔が一瞬ゆがむ。望遠映像がメインスクリーンに映し出される。ウキフネの大群がこの戦場に向けて押し寄せてきていた。

「さ、三個艦隊……いえ、三個集団。数はそれぞれ48、計144体!! こ、これではもちません!!」
「…………」

 彼はすでに冷静さを取り戻している。頭の中はフル回転でこの戦いの行く末を計算していた。

「ふん。その程度の数ならまだ何とかなる」

 兵に向かってはそういったが、心の中にはまた別の思いもあった。

「(――ただし。もう、娘には会えんだろうが……)」

 彼の脳裏に愛娘の姿がよぎった。ダウゼンベルヒは覚悟を決めた。少しうつむいて、それから気合のこもった顔を上げる。

「全艦、特攻をかける!! 一体でも多くのマガツカミを道連れにするのだ!! とつげ――」

 その言葉はしかし、再びオペレータによってさえぎられた。

「まってください!! 天頂方向より何か来ます!!!!」
「何!!?」

 天頂方向を写したモニタの中心に小さな光が見えた。その光は少しずつ大きくなりながら敵集団に向かって一直線に下降し、迷わずその中に突入した。
 閃光と衝撃波があたりを圧倒する。閃光は一度に100の太陽が出現したかのように。衝撃波は一度に1000のイカズチがとどろいたかのように。

「…………!!?」

 司令官をはじめ、金星艦隊の兵たちがあっけにとられてその光景を見つめた。

「…………て、敵ウキフネ……、6体……、しょ、消滅……!!」
「一撃で!!?」
「な、何だ一体?」
「おい、あれを見ろ!!」

 金星艦隊の眼前に、白く光輝く機体が浮かんでいた。
 鋭角的なデザインの頭部にある4つの目が辺りを睥睨し、むき出しの牙がマガツカミどもを威圧する。三日月の形をした赤い翼を広げ、鋭い爪が宇宙空間を引き裂く。その、破壊神の如き存在感は、敵のみならず味方をも震え上がらせるほどの圧倒的な神威に満ちていた。

「あ、あれは……?」
「そうか、あれが……」
「スサノオ!!」

 ダウゼンベルヒが枢機軍の切り札の名前を呼んだ。
 艦内の全ての空気が震えるような大歓声がそこらじゅうで沸き起こった。兵たちがそこここで言葉にならない喜びの声を上げている。
 飛び上がってはしゃぐ者。抱き合って笑いあう者。まるで戦闘に勝利したかのような騒ぎだ。スサノオに対する、いささか過剰とも思える期待が、よりいっそうの狂乱を呼んでいた。

 金星艦隊旗艦「プロセルピナ」に通信が入る。

「ダウゼンベルヒ提督、遅くなって申し訳ありません」

 にこやかに火星艦隊司令が挨拶する。

「ヨシュウ。助かった。――だが……」

「ええ。戦況はサイアクですね」

「今日はいい天気ですね」と同じトーンで笑いながら話す。

「笑い事か」

 ダウゼンベルヒも一応ツッコミを入れてみるが、浅からぬ付き合いなのでヨシュウに悪気がないことは承知している。

「あとは私に任せて、提督は補給と休養を」
「うむ」

 ダウゼンベルヒは何の躊躇も無く、全てをヨシュウに託した。それだけ彼を信頼しているということだ。
 こうしてこの戦いは金星艦隊から火星艦隊へと引き継がれたのだった。

 火星艦隊の旗艦「ルゥケイロル」のブリッジには新車のようなニオイが漂っていた。改修工事に伴ってブリッジ内の設備が一新されたためだ。

「よし」

 その新鮮な、機械とオイルの香りを吸い込んで、ヨシュウは言った。

「全艦、戦闘準備。さっさと敵をおっぱらいましょう!!」


―――――――――――――――――――
◆クロウとヒノミヤ
―――――――――――――――――――

 枢機軍トレーニング施設、3年前。

「どうした、クロウ!! もっとよく俺の動きを見ろ!!」
「ちくしょー!!」

 2機のPMプレイトメイルが戦っている。枢機軍のトレーニング施設にある教習用の機体だ。
 幼いクロウの相手をしているのは、当時の枢機軍エースパイロットであり、アリスの父でもある日宮静馬ヒノミヤ シズマだった。

「なにやってるんですヒノミヤ大佐は?」

 偶然通りかかったヨシュウが、戦いを見物している杉藤に聞いた。

「近所の子供の特訓だってさ」
「へえ、物好きですね。仮にも、枢機軍最強と呼ばれるひとが」
「でも、みてみろよ、あの小学生」
「ん?」

 まだまだ幼い雄叫びとともに、一瞬の隙をついたクロウのPMがヒノミヤ機の懐に飛び込んだ。

「何っ!!?」

 ギリギリでクロウの攻撃をかわすと、反射的にヒノミヤは蹴りを繰り出していた。耳を覆わんばかりの金属音が施設内に響く。
 悲鳴とともにクロウ機は弾き飛ばされた。

「しまった、つい……」

 クロウ機はそのまま倒れこんだ。ヒノミヤ機があわてて駆け寄り、助け起こす。

「おい、クロウ、無事か!!?」
「へへ、とーぜん!」

 こぶを作りながらも、強がってクロウは言った。二人の観客から歓声が上がる。

「やはりね。子供がヒノミヤさんに勝てるわけないですよ」
「いや。あの子供、たいしたものだ。ヒノミヤ大佐を一瞬本気にさせるとは」
「ヘエ。そうなんですか?」

 そのことで一番驚いていたのはヒノミヤだった。

「(クロウ……。こいつはとんでもない逸材だな。あと10年、いや、5年もすれば、俺より強くなるかもしれない)」

 クロウがコクピットから顔を出した。

「あーくそっまた負けたっ!」

 機体に拳を打ち付けて悔しがる。

「なあ、タイサ、もっかい勝負だ!!」
「勘弁してくれ。今日はもう疲れた」

 ヒノミヤはPMから降りると、帰り支度を始めた。

「えー!! なんだよ、たのむよー。オレ、強くなりてぇんだ。タイサみたいにさァ!!」
「俺は強くなんかないよ」
「でも、枢機軍の中で最強だって」
「……どうしてそんなに強くなりたいんだ?」
「……それは」

 ちょっとばつが悪そうに、少し目をそむけたクロウだったが、すぐに覚悟を決めたように言った。

「オレは強くなってアリスを嫁にするんだ!!」
「そうかそうか。アリスを嫁に……――って、なにいぃ!!!!」

 百万の敵を前にしてさえ動じることのない最強と呼ばれる男が、古典的なノリツッコミをやってしまうほど動揺して叫んだ。

「アリスは……娘は誰にもやらん!! ずっと俺のものだ!!」
「はあ?」
「あいつは俺の生きがいなんだ!! 断じて嫁にはやらんぞ!!」

 娘の父親とは、程度の差こそあれたいがいこんなものだ。

「って、一生ケッコンさせない気かよ?」
「う。そういうわけではないが……」

 一転して弱気な顔で、ヒノミヤはクロウに向き直った。今にも泣きそうな雰囲気だ。

「なあ、クロウ聞いてくれ。最近アイツ、一緒に風呂に入ってくれないんだよ。ひょっとして俺、嫌われてんのかなあ!!?」
「グチかよ。そんな話、どうでもいいからさ。もっかい勝負してくれよ。オレはどうしても強くなりてぇんだ!! 最強になってオレがアリスを守るんだ!!」

 子供らしく、目を輝かせて言う。どこまでも真っ直ぐで、一度決めるとテコでもいうことを聞かない。それがクロウの長所であり短所であった。
 ヒノミヤが穏やかな顔になる。

「いいかクロウ。真の最強ってのはな、自分を律することのできる者のことだ」
「『自分に負けるな』ってんだろ?それぐらいわかってるよ」
「いや、わかってないな。『本当の意味』でそれがわかったとき、真の最強への道が開けるだろうよ」
「…………? なんだよ、それ? どういう意味だよ? 教えてくれよ!」
「いつかお前にも分かる時が来る」
「けちけちすんなよー」

 ヒノミヤは右手を上げて、クロウに背を向けた。

「オレはもう少し一人で練習してくよ。また今度特訓につきあってくれよ、タイサ!!」

 そう言うとクロウはひとり、練習に没頭した。

「……ほどほどにな」

 ヒノミヤは呆れ顔でつぶやくと、その場を後にした。 その後もクロウは日が暮れるまで操縦桿を放さなかった。あくまでも楽しそうに、まるで遊んでいるようにコクピットに座り続けた。

「見てろよ。いつかオレが最強になってやる!!」

 彼の目には希望が満ち溢れ、自分に出来ないことはないと本気で信じていた。


**********


 戦場の片隅、ウキフネ「イワクス」の中でクロウは目覚めた。

「何だ、今の夢は!!」

 不機嫌に舌打ちする。その瞳には、かつての輝きはなく、かわりに深淵の業火にも似た悪意だけが揺らめいていた。


―――――――――――――――――――
◆戦場の秕
―――――――――――――――――――

 月のはるか上空。迫り来るマガツカミの大群の中に、スサノオはいた。

「こ、これが……戦場!!?」

 兵たちに大歓声で迎えられたスサノオだったが、そのコクピットにいる人物は英雄とは程遠い少年だった。

「あ、あんなに敵がいっぱい……!!」

 スサノオの周りの宇宙空間には360°敵がひしめいていた。金星艦隊を救うため無理やり突出したため、敵中に単機で孤立することになってしまったのだ。

 近くにいたマガツカミの小型霊体兵器「ヨルガミ」が様子見とばかりに攻撃を仕掛けてくる。

「うわっ!!」

 初めての本格的な戦場で、多数の敵に囲まれて動揺した秕は、修行の成果もむなしく、ヨルガミの集中砲火のマトになってしまっていた。

「く、来るな!!!」

 それでも、無我夢中で反撃する。突進しスサノオが軽く振るった左手に、数体のヨルガミが引っ掛けられて消し飛んだ。

「え……!!?」

 近くのヨルガミがわずかに動いた。スサノオがその方向に反射的に振り向く。その個体はとっさに身を引いた。

「……!!?」

 別の敵に向き直り、威嚇してみせる。ヨルガミたちが一斉に距離をとった。

「あいつら……おびえてる? このスサノオに……!!?」

 改めてスサノオの強さを思い知らされる。先ほどのヨルガミの集中砲火にも、ほとんどダメージを受けていなかった。

「や、やっぱりスサノオはすごいや。これなら……!!」

 秕は落ち着きを取り戻した。
 いくら秕が英雄の対極にいる臆病者だとしても、スサノオのこれほどの力に守られているのだ。多少の勇気がわいてきてもおかしくは無い。
 更に言うと、最近の修業によって自信を持てるようになった事も大きい。たとえそれが、特訓のおかげで、一時的にその気になっているだけだとしても。成功と失敗を繰り返して、人は成長して行くものなのだから。
 スサノオの力は秕の精神状態に大きく依存する。元々神話クラスの力を有するスサノオは、普通に操るだけで圧倒的に強いのだ。秕が恐怖でパニックにならなければ、それだけで十分だった。……今のところは。


 【続く】

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