身長三センチの妻

ゆいレギナ

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五日目

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 翌日。

「係長……大丈夫っすか?」
「え……?」

 後輩の声に、俺はハッと目を開く。どうやら仕事中に船を漕いでしまったらしい。

 どうして、居眠りしてしまうほど眠いのか――それはもちろん、妻のせいだった。


 ◆ ◆ ◆


「ねぇ、アナタ! 今日の仕事ぶりは何なの?」

 妻は、俺の先輩だった。
 年齢は同じだが、俺が一浪して大学に入ったため、必然的に早く社会人になった妻。

 俺が入社してから出会い、特に俺の教育係というわけではなかったものの、同じ部署同士。それなりに仕事を教えてもらったり、協力してこなしたことは数知れず。

 プライベートでの、良く言えば可愛らしさ、悪く言えば自分勝手を知ったのは、もちろん付き合ってからのこと。

 職場での彼女は、ご覧のとおりだ。

「いつもわたし言ってたよね? メリハリを付けるようにって。真面目なことはいいことよ。勤務態度、仕事に取り込む姿勢。それはアナタの長所だわ――でも、それってある意味、当たり前のことなの! お金をもらっている以上、ちゃんとやるのは当たり前。仕事を期限までにきっちり終わらせるのも当たり前! でもねぇ、だからと言って残業するのを前提でスケジュール組むって、どういうこと? そんなことしてたら、身体がいくつあっても保たないでしょう⁉」

 そこまで一気に捲し立てる肺活量が、三センチの身体のどこにあるのか皆目検討もつかないが、

「どーして、わたしとイチャイチャするために、精度あげちゃうぞ♡ て姿勢を見せないのよおおおおおおおおお!」

 最初は小さな計算ミスの注意から始まり、いつしか残業量についての説教になってしまった今。両手を腰に当てる妻の遥か頭上にかかる時計の針は、すでに深夜二時を回っていた。

 終電で帰宅してから、ずっとこの調子。
 俺の体調を心配しているようで、単にわがままをぶつけているだけの説教はそこから二時間以上続いたのだった――――


 ◆ ◆ ◆


 ――と、そんなことをやっぱり後輩に愚痴れるわけもない俺は、

「すまん。珈琲でも飲もうかな……」

 と席を立つ。ヨレヨレと歩きながらも、人気のない給湯室で、「どうして起こしてくれないんだよ」と胸ポケットで丸くなっていた妻に、小さく文句を言った。

 まぁ、文句を言ったところで、またピーピー言い返されるだけだと思っていたのだが。

「だって……」

 妻は気まずそうな顔をするだけで、特に言い返してこない。
 それに、俺は珈琲を注ぎながら、顔をしかめる。

「何だよ、どーした? 具合でも悪いか?」
「それは――――」

 その時だった。急に目の前が反転して、膝の力が抜けてしまう。

「――アナタ⁉」

 妻の俺を呼ぶ声がする。
 大丈夫だよ――そう答えることも出来ずに、俺の意識はあっさりと途絶えてしまった。



 そして、俺は夢を見る。

 妻と過ごした、騒がしくも楽しい毎日。

 たくさん喧嘩をして、たくさん笑って――それは、妻の身長が百五十センチ以上あろうが、三センチしかなかろうが、何も変わらない。

 妻と結婚したから得た、当たり前の日常。ずっとずっと、お互いがヨボヨボになるまで続くと思っていた日常。


『具合が悪いのは、アナタの方じゃない……』

 
 だけど、その当然の歯車は、どこで食い違ったんだ?



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