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旅行に行こう⑧
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その偉大なる名前をつぶやくと同時に、私の目から涙が溢れた。
アリーシャおばあちゃん。世界に知れ渡る偉大なる魔女。魔法薬の知識はもちろん、攻撃魔法にまで精通し、若かりし頃は戦場でも活躍していたという。だけど老年になり引退後は、森の奥に引きこもり、二度と表舞台に顔を出すことはなかった。
その裏は違う……引退の理由は、魔女は家名を捨てさせられたひとりの少女を育てるためだった。
自身の孫ながら、まったく魔法の才能がなかった少女だ。できることといえば、せいぜい薬に魔力を付与して効果を高めることくらい。その能無しは家族からも疎まれ、見捨てられた。それを哀れんだ魔女は、その能無しを引き取り育ててくれたのだ。
少女の両親や兄弟は、そんな少女のことなんか忘れ、今も他国で魔女一家として名を馳せているらしい。
「あぁ。それこそ……ブロンソが好きだった相手が魔女アリーシャだ。ブロンソの伝手で、俺の治療を頼めたらしい。ひとのつながりって大事だよね。俺はブロンソのおかげで生きているようなもんだ」
そんな大好きなおばあちゃんが、殿下の治療をしていたんだという。
五年前に亡くなってしまったおばあちゃん。私は、もう一人きりだと思っていたのに。
叱る時はとっても怖くて。だけど誰よりも優しい。誰よりも強かで、ちょっとだけずる賢くて。
何故かボードゲームが弱いおばあちゃん。だけど私が勝ちそうになると、いつも盤面をひっくり返したりズルをするの。
それを責めた時は、いつも決まって言っていた。
『だって、アタシは魔女だからね』
殿下は話を続けていた。
「子供の目から見ても、本当にブロンソは魔女に惚れ込んでいたな。また魔女もずるくてさ。『十回もアタシと夜を共にしたらアンタも飽きるよ』なんて言いながら指一本でもブロンソが触れると怒ってて……当時は言っている意味がわからなかったんだけどね。今思えば、本当にあのひとは魔性の女ってやつだったと思う。俺にとってきみも――」
そんな本当のおばあちゃんを知っている人がいた。おばあちゃんの思い出が、私と殿下を繋げてくれた。
「……スカーレット?」
だけど、殿下の声が、私を現実へと引き戻す。
今の私はスカーレット。
魔女のことは、噂や史実でしか知らないであろう令嬢。
今ここに『アリス』なんて女はいない。
「ごめんなさい。目にゴミが入ってしまいました」
そう言って涙を拭おうとする手を、殿下が押さえた。代わりに殿下が腰を上げて――私の涙を舐め取る。そしてそのまま、唇に軽く口付けした。
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その裏は違う……引退の理由は、魔女は家名を捨てさせられたひとりの少女を育てるためだった。
自身の孫ながら、まったく魔法の才能がなかった少女だ。できることといえば、せいぜい薬に魔力を付与して効果を高めることくらい。その能無しは家族からも疎まれ、見捨てられた。それを哀れんだ魔女は、その能無しを引き取り育ててくれたのだ。
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「あぁ。それこそ……ブロンソが好きだった相手が魔女アリーシャだ。ブロンソの伝手で、俺の治療を頼めたらしい。ひとのつながりって大事だよね。俺はブロンソのおかげで生きているようなもんだ」
そんな大好きなおばあちゃんが、殿下の治療をしていたんだという。
五年前に亡くなってしまったおばあちゃん。私は、もう一人きりだと思っていたのに。
叱る時はとっても怖くて。だけど誰よりも優しい。誰よりも強かで、ちょっとだけずる賢くて。
何故かボードゲームが弱いおばあちゃん。だけど私が勝ちそうになると、いつも盤面をひっくり返したりズルをするの。
それを責めた時は、いつも決まって言っていた。
『だって、アタシは魔女だからね』
殿下は話を続けていた。
「子供の目から見ても、本当にブロンソは魔女に惚れ込んでいたな。また魔女もずるくてさ。『十回もアタシと夜を共にしたらアンタも飽きるよ』なんて言いながら指一本でもブロンソが触れると怒ってて……当時は言っている意味がわからなかったんだけどね。今思えば、本当にあのひとは魔性の女ってやつだったと思う。俺にとってきみも――」
そんな本当のおばあちゃんを知っている人がいた。おばあちゃんの思い出が、私と殿下を繋げてくれた。
「……スカーレット?」
だけど、殿下の声が、私を現実へと引き戻す。
今の私はスカーレット。
魔女のことは、噂や史実でしか知らないであろう令嬢。
今ここに『アリス』なんて女はいない。
「ごめんなさい。目にゴミが入ってしまいました」
そう言って涙を拭おうとする手を、殿下が押さえた。代わりに殿下が腰を上げて――私の涙を舐め取る。そしてそのまま、唇に軽く口付けした。
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