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旅行に行こう⑨
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「で、殿下……⁉」
「名前で呼べって言っただろ?」
優しく指摘してくる殿下……ルーファス様は、「お仕置き」ともう一度口を合わせてきて。私の顔を両手で押さえて、言った。
「大丈夫だよ。もう、きみには俺がいるんだから。一人になりたくても、絶対にさせてやらない。だから諦めて?」
……意味がわからない。
どうして、今「大丈夫」だと言うの? 「ひとりにしない」と、私が欲しい言葉をくれるの? そんなの、心が見透かされない限り、わかりっこないはずなのに……。
私はその真摯な青い目から、熱い顔を逸らすことしかできないのに。
「もうっ、私は何も言ってないですよ?」
「わかるさ。ずっときみだけを見ていたんだから」
――嘘つき。
だって、私は本当のスカーレット様じゃないもの。あなたは本当の私を知らない。偉大なるアリーシャの代わりの、しょぼいはぐれ森の魔女のことなんか、知らないでしょ?
それでも。それなのに――その無自覚な嘘を、とても嬉しく思ってしまうから。
だから、私は少しだけ意地悪をする。あなたが悪いの。見抜けないあなたが悪い。
だから――一瞬でいい。私をあなたの最愛にして。
「それじゃあ、岸に戻ろう――」
再び腰を落ち着かせて、オールを代えそうとする殿下の頬に、私は口づけする。だけどやっぱり恥ずかしいから、すぐに腰を戻して視線を逸らすけれど。
……ルーファス様から何も文句が返ってこない。
ちらりと覗き見れば、ルーファス様は片手で顔を押さえて「はあ」と深い溜め息を吐いた。
「ひどいな。夜までお預けかよ」
「な、なにがひどいのですか⁉ わ、私はやられたお返しをしただけですよ⁉」
「ふーん……じゃあ少しだけ」
そう言った殿下が、再び腰を上げてくる。当然、私はその唇を受け入れた。
何度も、何度も交わされる深い口付けに、私は祈る。
どうか。どうか。
この一瞬だけ勇気を出した『私』を、あなたが覚えていてくれますように。
その叶えようのない夢は、暁にそまる水面のきらめきのように夜へ溶けていく。
「名前で呼べって言っただろ?」
優しく指摘してくる殿下……ルーファス様は、「お仕置き」ともう一度口を合わせてきて。私の顔を両手で押さえて、言った。
「大丈夫だよ。もう、きみには俺がいるんだから。一人になりたくても、絶対にさせてやらない。だから諦めて?」
……意味がわからない。
どうして、今「大丈夫」だと言うの? 「ひとりにしない」と、私が欲しい言葉をくれるの? そんなの、心が見透かされない限り、わかりっこないはずなのに……。
私はその真摯な青い目から、熱い顔を逸らすことしかできないのに。
「もうっ、私は何も言ってないですよ?」
「わかるさ。ずっときみだけを見ていたんだから」
――嘘つき。
だって、私は本当のスカーレット様じゃないもの。あなたは本当の私を知らない。偉大なるアリーシャの代わりの、しょぼいはぐれ森の魔女のことなんか、知らないでしょ?
それでも。それなのに――その無自覚な嘘を、とても嬉しく思ってしまうから。
だから、私は少しだけ意地悪をする。あなたが悪いの。見抜けないあなたが悪い。
だから――一瞬でいい。私をあなたの最愛にして。
「それじゃあ、岸に戻ろう――」
再び腰を落ち着かせて、オールを代えそうとする殿下の頬に、私は口づけする。だけどやっぱり恥ずかしいから、すぐに腰を戻して視線を逸らすけれど。
……ルーファス様から何も文句が返ってこない。
ちらりと覗き見れば、ルーファス様は片手で顔を押さえて「はあ」と深い溜め息を吐いた。
「ひどいな。夜までお預けかよ」
「な、なにがひどいのですか⁉ わ、私はやられたお返しをしただけですよ⁉」
「ふーん……じゃあ少しだけ」
そう言った殿下が、再び腰を上げてくる。当然、私はその唇を受け入れた。
何度も、何度も交わされる深い口付けに、私は祈る。
どうか。どうか。
この一瞬だけ勇気を出した『私』を、あなたが覚えていてくれますように。
その叶えようのない夢は、暁にそまる水面のきらめきのように夜へ溶けていく。
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