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王家脱退計画を終了します。

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「王族として恥ずかしくないのか、リヴァン!」
「ですが父上!」
「ですがも何もない!」
 国王陛下の叱咤を受けた青年―――リヴァン第一王子は、怯んだように一歩後ずさる。
 親子だろうが国王陛下という肩書きがあるからには容赦などしない。それが分かっているのか、リヴァンは悔しそうに自らの父親であるルジアンを睨み付けた。
「リヴァンさまぁ……?」
 刺々しい空気が謁見の場を支配する中、一人の少女は甘えたようにリヴァンにしなだれかかった。
 場の空気が冷たいものになっていく。
 周りの使用人や貴族達の冷たい目線が二人へと注がれた。ただ一つ、ルジアンの前に膝を立てている青年達は少女に惚れている為、嫉妬という激情を王子に注いだ。それに構わず、リヴァンはその少女に笑いかける。意味が分かっていない少女もまた笑い返した。
「そこまでにしろ」
 甘い空気になった二人を国王陛下が睨み付けると、不満そうに王子と少女は顔を反らす。
「エンシェリー公爵令嬢を公の場で、根拠もない悪事を働いたとの暴言の数々、令嬢への暴力行為。王族としてこれを許すわけにはいかん」
「父上!」
「よって、リヴァン・アース・ストレーゼを廃嫡とする。エンシェリー公爵令嬢との婚約も撤回しよう。今日よりストレーゼの名を棄て、平民として我国へと尽力せよ。他の者達も同様の処罰とする」
 サァッとリヴァンだけでなく、少女に惚れ、エンシェリー公爵令嬢を詰った貴族の子息達が顔を青くする。ただ一人、少女は現状を理解していないのか未だに元王子へとしなだれかかっている。少女の長い茶髪が肩から落ちるも、リヴァンは衝撃でそれに気づけなかった。
 その様子を見たルジアンは眉を潜め溜め息をついた。
「―――これより謁見は終了だ。この平民達に適当な荷物を与えた後、城の外へと追い出せ」
「ハッ!」
 力の抜けた元子息達は、兵士につれられふらふらと歩きだす。中には「無礼者!」と詰る者もいたが、もう彼等は貴族ではない。兵士が言うことを聞く訳がなかった。
 次々と連れられていく元子息達。兵士に連れられ喚く少女の後、最後に連れられるのはリヴァンだった。
「―――リヴァン様」
 正気を取り戻したのか反抗している元王子に声をかけたのはエンシェリー公爵令嬢だった。
 緩やかな金髪を後ろに流し、姿勢を正した冷静な公爵令嬢をリヴァンは睨む。
「ずっと貴方が好きではなかった。貴方の婚約者であるのが辛かった」
 冷徹な声に眉を潜め、兵士に連れられ歩きながらも公爵令嬢を振り替える。
「あの馬鹿な女性と、末永くお幸せに」
 ―――ガタリ。
 皮肉気な笑顔を最後に、扉が音をたてて閉じていった。
 呆気にとられる暇もなく、兵士達は元王子を乱暴に門へと引き摺る。
 少しの着替えと少しの食料、10000Gという最低一月は生きられる金を渡されリヴァンが城を出ると、門前には子息達が集まっていた。
「たったこれっぽっちで、どうやって生活しろっていうんだ!」
「おい! 入れろ! 俺は伯爵家次期当主だぞ!!」
 現実を知り項垂れるか、現実を信じられず喚きたてるか。世間を知らない貴族子息達は、そのどちらかに別れていた。
 ―――皆が惚れた少女は、どこにもいなかった。
「あの娘は、幽閉されているそうですよ」
 眼鏡をかけた青年は、呆然としたリヴァンを睨み付けた。
「―――あなたのせいだ。あなたのせいで、僕達は!!」
 掴み掛かってくるそれをひらりと交わし、リヴァンは王都へと走り出した。
「待て‼」
 数秒して、眼鏡の青年がリヴァンを追いかける。一瞬遅れて、他の子息達も駆け出した。
 いきなり変わった生活に動揺する青年達は、必死に元王子を追い掛ける。身分を取り上げられ、家族から離され、今まで蔑んだ平民へと取り下げられ、愛する人にはもう会えない。何かに当たらなければやっていられなかった。誰かのせいにしなければ壊れそうな脆い心だった。
 生まれもった恵まれたモノは、彼等の自尊心ばかりを作り上げ、彼等自身の成長を妨げた。
 未来という脅威への怯えを怒りに変え、彼等はリヴァンを追い掛ける。
 例え、目の前にその姿が見えなくても。
 自分を守る為、自信を正当化する為。元王子を探し続けた。


*


 可哀想な奴等だと、初めて会った時に彼は思っていた。
 どれだけ頑張っても、想いは変わらず、結果は最悪な方向へと変わる。
 忠告はしたし、足掻いてもみた。
 それで結果はこれだ。
 自分の非力さに何度も唇を噛んだが、エスカレートしていくその行動は既に自業自得と言えた。
 だから、放置した。
 そして最後の手段を行使し、巻き込ませた。
 あれらは貴族として最悪の部類だと言えた。あれらがいれば将来的にこの国は駄目になる。せめて庶民の上に立つ者として最後の仕事をしようと思い、長年の計画に巻き込むことに決めた。
(まあ、でも可哀想なことしたな)
 これは愛に飢えていた彼等への最悪の仕打ちだろう。とはいえ、自分でどうにか出来たくせに、アドバイスを無視して何もしなかった彼等には同情しかできない。
 可哀想。それで終了。
(まあ、いっか。俺、あいつ等のこと好きじゃないし)
  寧ろ嫌いな部類、と心で呟く。
 彼は薄く笑った。
(まずはへそくりだして、王都を出ないとな)
 貴族の身を追われた青年達への同情はもう消えていた。あるのはこの先への期待だけ。
「自由になれる準備はもうしてある」
 青年―――リヴァンは周りをキョロキョロと見ると、王都を囲む壁をよじ登り出した。
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