神出鬼没の変態共

たいやき さとかず

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新住居の悲劇

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 新入生達は、ざわつきながら新しい教室へと向かっていく。
 クラス編成の仕組みはいたって簡単だった。A組からD組は"お金持ち"の御曹司達。E組とF組は御曹司の従者や一般層、外部の生徒。特待生だろうとそれは変わらない。待遇は上に行くほど良くなり下に行くほど悪いという、媚が透けて見えるものだった。
 特に不満もなく生徒達はそれぞれの教室へと入っていく。生徒の姿が見えない廊下は静かになった。入学初日ともあり、緊張からかどの教室もしーんとしている。

 1年F組を除いて。

「っつーことで、オメー等の担任の明智光彦あけちみつひこオメー等も俺も、学園からはなんっにも期待されてねーし気軽にやっぞ」
「じゃ、みっちんで!」
「「賛成!」」
「「みっちん!!」」
「おいこら、勝堂!」
 F組担任明智光彦。満場一致で、只今より渾名は"みっちん"。命名は生徒である勝堂一樹しょうどうかずき。態度や仕事は適当だが、"実はやればできる子"だ。
 本人の言った通り、このF組全体には学園は何の期待もしていない。例え、数人の特待生がいようとも、だ。学園は表向き"皆を平等"とはしているが、実際は家柄主義。校長や理事からの説明や挨拶は一般生徒を歓迎しているが、内心蔑んでいる。あくまで学園の評判を良くする為に入学させてやっただけである。それはクラス編成からも分かることで、"不安を取り除く"などという意味の分からない理由をつけて取り繕っている。つまりは「金を落とさない人間なんてどうでもいい」が本心だった。
 最初にその説明を聞いて、生徒達は成程と納得した。そして、金についての影響力が全くない生徒達が待遇の悪いF組に集められたと明智からはっきり知らされた時、彼等の団結力が一気に強くなった。
 そして冒頭に戻る。
「「みっちーん!」」
「どーしてくれんだ勝堂!」
 明智は頭を抱えた。
 そしてすぐに立ち直り、ぐるりと教室を見渡す。
 まずは自己紹介だ、と明智が一番前の窓際の生徒を指差した。生徒は立ち上がり、くるりと斜め後ろを見る。
安達秀あだちしゅうです。何か分かんないけど頑張りたいです」
「安達の渾名は……井上! なんかあるか」
 安達の後ろの席、明智に指名された少年は手を上げた。
「はい。アダチンです」
「微妙だな。安達、座れ。渾名は後ろの奴がつけてやれよ。はい、井上」
井上和也いのうえかずやです! 腹減った!!」
 所々笑い声をあげながらも、F組の自己紹介は進んでいく。24名の自己紹介が終り、自己紹介は残り2人となった。
渡流青史わたるせいしです」
「……なら、セッシーで」
 青史の後ろ席の少年が手を挙げて言う。
「よし、じゃあ最後」
 促されて少年は立ち上がった。
渉水樹わたるみずきです」
「水ちゃんですね」
 安達の言葉に水樹は苦笑いし、席につく。
「―――これからこのクラスで、まあ、適当にやってければいいと思う。よし、お前等。次は寮に行く。寮では二人一部屋。同室者はE組からランダムで決めてあるらしいが……詳しくは寮の管理人にでも聞け。じゃ、今から鍵を配る」
 明智は鍵を配りだした。
「みっちん!」
「なんだ張田」
 廊下側3列目、前からも後ろからも4つ目の席である張田玲音はりたれおは声を張り上げた。
「寮の場所わかんねえ!」
「あー……ちょっと待て」
 鍵を配り終えると、明智は窓を指差す。
「あっち側には門があんだろ、あそこを、こう、ぐーっと右にいけば寮があるからな。木に囲まれてて分かりにくいが」
 「「へーい」」
「ほんとに分かってんのかよ」
 苦笑いし、明智は手をパンッと叩いた。
「以上、解散! 明日はクラス委員とか決めっからな」


・゜・☆・゜・


(どうして、こうなった……)
 1年E組、佐々部玄賀ささべげんがは、頭を抱えそうになるのを必死で抑えた。

 佐々部は元々、一般の中学に通っていた。勿論、高校や大学も一般のそこそこな所に行くのだと思っていた。
 けれど、父親は政治家、母親は教師。当時から"不良"と呼ばれる人間だった息子の素行の悪さを危惧し、金にものを言わせて彼をこの閉鎖された白峰学園に閉じ込めることにした。
 いきなり閉じ込められた佐々部は入学式前から不機嫌だった。クラスの気味の悪さから機嫌を更に悪くし、行きたくもない寮の部屋へと入った。
 そして、絶句した。
(ボロッボロじゃねえか)
 壁にはヒビが入り、埃だらけ。ゴミもそのままだ。異臭もするうえ、所々に散らばるが見てとれた。
 まるで、というより絶対に曰く付きの部屋。
 そういえば、ここは三階で階段からもエレベーターからも遠い一番端の部屋。鬱々とした高い木が大量に横にあるため日当たりも悪い場所だ、と管理人から同情的な目で見られていた。
 (まさかあの野郎……このこと知ってやがったのか)
 つまり、部屋の立地条件も悪ければ中も酷い。最悪の外れクジというわけだ。
 殺意が芽生えた。
「取り敢えず、掃除か……」
 でなければ荷物も置けない。
 絶対に今日中に終わらないであろう部屋に溜め息をつくと、廊下へと戻る。
「あ?」
 部屋の扉を閉めると、先程までいなかった一人の少年が立っていた。
 誰だお前、という言葉を飲み込む。あんまりな部屋の現状で忘れていたが、部屋は二人で一部屋。同室者がいるはずだ。
「あ、もしかして同室の人?」
 首をかしげる少年に同情しながらもこくりと頷く。
「俺はE組の佐々部玄賀だ」
「俺はF組の渉水樹。よろしく」
 差し出された手を握ると微笑まれる。
 ほんの少し長めの黒髪に、これまたほんの少し標準より大きめな茶色の瞳。中性的とは言えないが、美術品のようなどこか綺麗な印象を受けた。
(優男、か)
 王子様だとか、この特殊な閉鎖空間で騒がれるのだろうか。しかも、あの部屋に住む。部屋に関しては自分も同じだが、この小綺麗な印象から同情するなという方が無理な話だった。
「あの、さ」
「なんだ」
 同情的な気持ちを深めていると、言いにくそうにしている同室者に話を促す。
「部屋、見た……?」
 ひきつった笑いに、確信する。
(こいつ、俺が来る前に見たんだな)
「ああ」
「は、ははは…………掃除、しなきゃね…………」
「ああ…………」
 どちらとともなく溜め息をつく。
「あ、荷物さ、一階の管理人室の隣にコインロッカーあったからそこに置いてきたら」
「へえ、ここにもあるんだな」
「うん。そうみたい。…………ついていっても、いい?」
「……なんでだ?」
 恐らく、今戻ってきたばかりだろう。態々、遠いエレベーターまで行って一階に行くなんて面倒だろうに。
 そんな佐々部の気持ちが伝わったのだろう。水樹は頬を掻くと、にっこりといかにも作った顔で口を開いた。
「管理人に文句言い忘れてたから」
「俺も全力で言うわ」
 シンパシーを感じた。

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