悪役令嬢は主人公に告白されました?!

たいやき さとかず

文字の大きさ
5 / 10

お話させていただきます?!

しおりを挟む
 方や麗しの公爵令嬢、方や真面目な伯爵家嫡子。中庭の端とはいえ、この組み合わせは密かに生徒達の注目を集めた。
 しかし周りの仄かな期待とは裏原に向き合う二人は動くことはない。
 二人の間に流れた沈黙を終わらせたのは、伯爵家の嫡子だった。
「……リリィーアル様」ディアゴは一度目線を外に外してから、リリィーアルを見下ろした。「訊きたいこととは、なんでしょうか」
「……ルリーシャさんのことですわ」
 ディアゴが息を呑むのを見て、リリィーアルは踵を返した。
「場所を変えましょう。此処は人が多くて、話も出来そうにありませんわ」
「……はい」
 リリィーアルが先に進むとその後をディアゴは少し間を空けて着いてくる。
 視線にさらされながらも、学園の奥ーー公爵令嬢たるリリィーアルにだけ赦された茶室に入った。
 鋭い視線でディアゴを見据える。
「どうぞ、お座りくださいまし」
 ディアゴがソファに腰かけるのを見て、待機していた給仕を呼ぶ。
「ディアゴ様にお茶を」
 既に準備されていたらしい紅茶がテーブルに置かれるのを座って見ながら、リリィーアルは近づいた給仕に小声で話しかけた。
「部屋の前で待機を」
「了解致しました。何かあればお呼びください」
 ディアゴには見えないようにやり取りをして、給仕が部屋を後にする。
 ドアが閉じてからたっぷり数秒間を置いて、リリィーアルは口を開いた。
「ルリーシャさんとは、仲良くなされていますか?」
「あ……え、ええ」
 一瞬の動揺の後、ディアゴが頷く。
 どうやらルリーシャとは仲良く出来ていないようだ。ディアゴが腹芸を不得意としていることは聞いていたが、身をもって知ることになるとは思わなかった。
「……最近ルリーシャさんは元気がありませんの。なにかご存じなくて?」
「そのようには、見えませんが……」
「見えない? 本気で言ってらっしゃるの?」
 冷たい瞳で目の前の男を見るリリィーアル。ディアゴは本当に分からないらしい、不思議そうな顔をしている。
 リリィーアルは小さくため息をついた。
「……まあ、いいですわ。それよりも、ルリーシャさんとの婚約を破談したというのは本当ですの?」
「な、何故それを……!」
「本当ですのね?」
 畳みかけるようにそう言うとディアゴは口を開閉した。
「い、いえ……それはまだ、です……」
「それは『これからする予定』と受け取っていいのかしら」
「……はい」
 少し項垂れた様子のディアゴ。
(この様子は……)
 ディアゴの思わぬ姿に眉を寄せるリリィーアル。彼の真意を問おうとしたその時、コンコンというノックの音が言葉を遮った。
「お話し中、失礼いたします」
先程の給士が一礼をしてリリィーアルの横に片膝をついた。
「リリィーアル様に今すぐ謁見をしたいという方がいます」
「わたくしに? どなたですの」
「エリノア・アストロッテ伯爵令嬢にございます」
 ディアゴががたりと音を立てた。
「エリノアが……?」
「そういえば、ディアゴ様には妹君がいらっしゃりましたわね。折角ですし、お呼びしても?」
「え、ええ……」
 ディアゴが困惑気味に頷くのを見た給士が部屋を出る。数秒後、今日二度目のノック音がした。
「失礼いたします」
 一礼した令嬢が顔を上げる。整った顔が真っ直ぐとリリィーアルを見た。
「突然のお願いを聞いていただきありがとうございます」
「いえ、こちらも訊きたいことがありまして」
 リリィーアルはエリノアに一人掛けのソファを進める。
 腰掛けたエリノアはディアゴを一度だけ見ると、またリリィーアルへと目線を移した。
「私に訊きたいことというのは、兄ディアゴのことでしょうか」
「ええ。最近のディアゴ様のご様子をお聞きしたくて」
「……マキア様に結婚の申し込みをしたことではなく、でしょうか」
 リリィーアルは目を見張ってエリノアを見た。どこか暗い顔の彼女と目が合う。
 エリノアはそっと目を外すと、小さく俯いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

処理中です...