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第7話 その男、凶暴につき取り扱い注意!
しおりを挟む「父が貴方様に行った無礼の数々。平にご容赦ください!」
氷川……。ああ、氷川武の娘だったのか。
そう言えば、葵がそんなようなことを言っていたな。
似てないのは、性別の差によるものだろうか。
「ゆいな、何を言ってるんだ! そいつのせいで、会社と日本探索者協会は炎上してるんだぞ!」
ゆいなの登場で、危機を脱したと察したのか、氷川武が勢いを取り戻し、意味の分からないことを怒鳴り始めた。
周囲を見回してもダンジョンスターズの建物が燃えてる様子は見られない。
炎上? 建物が燃えてる様子はないが、あの男は妄想でも見えてるんだろうか?
「ゆいな、お前の父親は妄想を見ているらしい。建物など燃えてないぞ」
俺の発言に、3人の表情が固まる。
「サブローさん、炎上の意味分かってないっすよね?」
「だから! 建物など燃えていないだろ?」
「違うっす! 今みんなが言ってる炎上って、建物が燃えてるって意味の方じゃなくて、Tチューブの掲示板や公式チャンネルのコメント欄、SNSでダンジョンスターズ社がいろんな人から厳しい意見に曝されてるって意味っす!」
それだと、燃えてなどいなくて、非難されているという意味でいいのではないか。
翻訳の魔法が誤作動してるのか?
常時発動させてる翻訳の魔法の状況を確認するが、精霊たちに異常は出ていない。
「葵が言った意味であれば、炎上ではなく、非難されているという言葉を使うべきだと思うが?」
「サブローさんの言いたいことは分かるっすけど、残念ながら炎上っす。炎上」
「意味が分からん」
燃えてないのに炎上という言葉は使えないはずだ。
なのになぜ炎上などという表現になる?
ゆいなも父親の武もこちらを見て、怪訝そうな顔を見せた。
「もしかして、この男。頭が弱いのか? この今の状況を理解できてないというのか?」
本当に失礼な男だ。
女であるゆいなが間に立ってなかったら、すでに拳でぶっ飛ばしているところだぞ。
「父さん、失礼ですよ。三郎様は混乱されているだけではありませんか?」
「いや、たぶんサブローさんは、たぶん今の自分が置かれてる状況を理解してないっす。サブローさん自身が言ってた通り、自分に向けられた殺気に反応しちゃった感じっす」
「殺気に反応して、話も聞かずにあの大立ち回りをしたと!? こいつは野生動物か何かか?」
「社長さんには、悪いっすけど、野生動物に失礼っす。サブローさんは、野生動物以上に獰猛な生物っすから」
葵がまた俺の悪口を言っているが、女を殴る拳は持ち合わせていないので、深呼吸と冷蔵庫にしまってきた唐揚げを思い出し、怒りを発散させる。
そう言えば、昼飯を食ってなかった。
腹が空いていたのが、いけなかったのかもしれない。
気が立っているこちらに、無遠慮に殺気をけしかけてくるやつと、まともに話をするつもりもないし、帰るとするか。
「あんたをぶん殴るのは、娘に免じてやめておいてやる。腹が減ったのでアパートに帰るが、問題はないな?」
「問題ありだ! 大ありだ!」
「なしだ。ない。お前らが言いたいことは、葵に言っておけ。俺は帰る」
「へ? あたしが聞いておくんっすか!?」
「別途連絡先に指定した人というのは、そういう役目だろ? 俺は腹が減っているので唐揚げが食べたくなったから帰る。あとは別途連絡先に指定した火村葵にすべて委任する。じゃあな」
葵を人質にしようと飛びかかった武の部下が、不可視の壁に阻まれた。
「あー、言い忘れたが俺が葵に掛けてる防護魔法は、ここに居る連中じゃ誰も絶対に破れないからな。そこのひよっこでも破れない。葵が交渉を終え、2時間以内にアパートに帰宅しなかったら、この建物ごとを魔法で爆破する」
「あ、あたし、巻き込まれるっすか!?」
「葵はその防護魔法が掛かってる限り、俺の魔法で周囲が灰燼に帰しても生き残れるから安心しろ」
「ふー、じゃあ安心っす」
「冗談は休み休み言え! どこまでふざけた野郎だ――」
俺は武の言葉を無視して、ツカツカと窓に歩み寄り、拳でガラスを割ると魔法の詠唱を始める。
「炎精たちよ。我が呼び声に応え、燃えさかる炎の輝きを放て。極炎爆破」
指先に宿った眩しく光る小さな炎を、割れたガラス窓の向こうに広がる誰もいない荒れ地に弾き飛ばした。
眩しく光る小さな炎が地面に触れると爆発音が響き、建物に激しい振動と爆風によって吹き上がった土煙が割れた窓から入ってくる。
「とりあえず、あれの上位魔法がこの建物に向けて発動すると思っておけ」
「あ、荒れ地に巨大なクレーターができたっす……。サブローさんの魔法ヤベーっすよ。あと、なんてことしてるんすか! Tチューブに連動したSNSが荒ぶってるっすよ!」
葵がスマホを俺に突き付ける。
葵が怒っている意味がよく分からんが、さっきの爆発を映した映像が次々に『すまほ』の画面に流れていった。
「知らん。とりあえず、後は任せた。唐揚げは残しておいてやるから、早めに交渉を終えて帰ってこい。じゃあな」
俺は葵の肩を軽く叩くと、固まったままのゆいなに声をかける。
「ひよっこも死にたくなかったら、父親の暴挙を止めるのを頑張れ。戦士の片鱗を見せるお前には、それくらいの力はあるだろ?」
呆けていたゆいなが、こちらの声に正気を取り戻した。
「え!? あ、はい! 三郎様の件、わたくしが必ずや上手く事を収めてみせます! お任せください!」
「葵とともに何とかしてくれ。じゃあな、ひよっこ」
「は、はい!」
葵と同じようにゆいなの肩を軽く叩くと、俺は社長室を出て、アパートに帰ることにした。
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