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Side:火村葵 交渉①
しおりを挟む※火村葵視点
ヤベーっす。サブローさんのキレ方が半端ねぇっす。
たぶん、お腹空いてるからだろうけど、半年間一緒に居て一番キレ散らかしたかも。
荒れ地に強力な範囲魔法ぶっ放して、トレンド入りとか勘弁してほしいっす。
それにあと2時間で帰らないと、マジでこのダンジョンスターズ社の社屋を吹き飛ばしかねないっすよ。
あの眼は、きっとやる気だし。
「あ、あの。サブローさんが失礼なことをした件は、謝罪するっす。でも、あたしが早めに帰らないと、マジでこの一帯が灰燼に帰す可能性は否定できないから、お話を進めてもらっていいっすかね」
「こんな状況でよくもぬけぬけとそんなことが言える――」
怖い顔で詰め寄ってきたダンジョンスターズ社の社長さんが、サブローさんが魔法で作った障壁にぶつかって吹っ飛んだ。
これは、これで便利な魔法っすね。
変な男や怖い人が、物理的に寄ってこないようにできるのはありがたいっす。
あ、睨まれた。違うんっすよ。
これはサブローさんがやったことで、あたしがやったわけじゃないっす。
「いまいましい壁だ!」
「葵様、そちらの席へお座りください。手早く話合いを済ませましょう。三郎様がお待ちになっているでしょうし。父さん、時間がありません。会社ごと吹き飛ばされたくなければ、葵様と例の話を進めるしかありません
吹っ飛んだ父親を完全に無視して、ゆいな嬢があたしに応接用のソファーに腰をかけるよう促してきた。
さすがゆいな嬢っすね。
サブローさんのあの大暴れっぷりを前にして、呆けてたけど、今はしっかりと自分の冷静にやるべきことを進めようとしてるっす。
日本の宝とまで言われてる『氷帝』の二つ名は伊達じゃないっす。
勧められたソファーにあたしが腰を下ろすと、社長さんも渋々ながら自分の執務用の椅子に座った。
「それで、サブローさんが呼び出された理由って――炎上してる件っすね」
「ご理解が早くて助かります。現在、わが社と日本探索者協会は、エンシェントドラゴン討伐に関し虚偽の報告を行ったのではないかとの追及を各所から受けております」
倒したのはサブローさんなのは、配信を見ていたので知っている。
でも、公式討伐達成者はゆいな嬢にされた。
「実はあたし、あの時、サブローさんの生配信見てたっす。エンシェントドラゴンをやったのはサブローさんでしたよね?」
執務用の椅子に座ってこちらを見ていた社長さんの顔が、不機嫌そうになり、視線を逸らした。
ははーん。サブローさんがエンシェントドラゴンを討伐したという事実を隠蔽したのはあのおっさんっすね。
炎上してヤッベって思って、口裏合わせしようと呼び出されたとこっすねー。
まぁ、大炎上中っすしね。
早急に手を打ちたいってところっすか。
でも、サブローさんはそんな事情無視で大暴れしてたから、社長さんもキレてたって感じかな。
「葵様のおっしゃる通り、わたくしは三郎様の功績を横取りしております」
「ゆいな! 日本探索者協会が公式に認定したのだ! そのような発言はするな!」
椅子から立ち上がった社長さんから、怒声が飛ぶ。
社員や協会員みんなから嫌われてるって噂の人だけど、納得できる典型的なパワハラ社長っすね。
ゆいな嬢もこんな父親をもって大変そうっす。
「申し訳ありませんが、わたくしはこれ以上、偽りの『氷帝』を演じることはできません。わたくしの実力ではあのエンシェントドラゴンを討伐することはできませんでした。通りがかった佐藤三郎様に助けて頂いたというのが、事実です」
「事実はあたしも知ってたんで了解っす。で、どうするつもりっすか? エンシェントドラゴンを討伐したのはサブローさんって訂正発表するんすか?」
話を聞いている社長さんの顔が青ざめた。
公式発表が虚偽報告だと認めれば、日本政府からの補助金削減、Tチューブに広告出してるスポンサー企業からの損害賠償金、視聴者からのバッシングでダンジョンスターズ社も日本探索者協会も破滅街道まっしぐらってとこっすね。
ダンジョンスターズ社は、絶体絶命のピンチ。
それを回避できるかの権限を持ってるのが、サブローさんが交渉役に選んだあたしって感じっすね。
これはとんでもなく、面倒で責任重大な役を押し付けられたかも。
「その件に関し、非常に厚かましいお願いなのですが――」
表情の変化の乏しいゆいな嬢は、蒼い顔をしている父親の方をいっさい見ず、交渉相手のあたしを凝視する。
「共同討伐者として三郎様の名を出させてもらえませんでしょうか? もちろん、虚偽の報告によって三郎様が被った損害は賠償させてもらいますし、先ほどのことは我が社が責任を持って内々に処理します」
サブローさん、さっき高威力の範囲魔法ぶっ放してるから、ここが特別管理地域じゃなかったら、即刻射殺されてもおかしくない事案っすからね。
射殺ができるかどうかは謎だけど。
でも、今回の事案が日本政府によって危険視されたら、特別管理地域内でも生きていくことは厳しい――くないかも。
野生化したサブローさんが、その辺から食糧を勝手に調達して、生き残る未来がチラッと見えたっすね。
まぁ、野生化させると害獣を一般社会に解き放つ気がするので、なんとか手綱を付けておきたいっす。
それに推しの配信が見れなくなるのは寂しい限り。
ダンジョンスターズ社としても、いろいろと譲歩してくれてるのは感じ取れるので、あとはサブローさんの喜ぶ物を付けてもらって交渉成立でいいかもしれないっすね。
「ゆいなさんの条件は承知したっす。でも、こちらからも条件をつほど付けさせて欲しいっす」
「3つですか?」
それまで表情の変化が乏しかったゆいな嬢の眉がピクリと動いた。
無理難題を押し付けられると思ってる感じっすね。
そう、たいした条件を付ける気はないんすけど……。
咳ばらいをして、喉の調子を整えると、ゆいな嬢と社長さんに3つの条件を告げる。
「1つ目、佐藤三郎名義の探索者免許とチャンネル運営免許を存続すること。2つ目、エンシェントドラゴンを討伐褒賞金の半額を登録口座に振り込むこと。3つ目、チョコバー12個入を3ダースほど今すぐ用意すること。以上、3つの条件が満たされれば、あたしが何としてもゆいなさんの言われた条件でサブローさんを納得させます」
こちらの条件を聞いた2人の表情が固まる。
そんなに過大な要求をした覚えはないけどなぁ。
もしかして受け入れられないとか言い出す感じっすか?
「か、確認ですが、最後3つ目のチョコバー12本入りを3ダースは、何に使われるのでしょうか?」
「あ、それはサブロ―さんへのお土産です。それがあれば、たぶん今日のことは許してもらえるっすよ。ああ見えて、意外と義理堅い人なんで、食い物をもらった人には攻撃しませんから」
「そ、そうだったんですね。チョコバーは三郎様のお気に入りなのですか?」
「そうっすよ。自分でダンジョンに持ち込むための保存食だって買っても、すぐに家で食べちゃうんです」
「こ、子供みたいですね。三郎様、可愛い」
ゆいな嬢の表情が緩んだっすね。
笑わず無表情で淡々と戦う『氷帝』様もやっぱり普通の人っすねー。
意外と可愛いっすよ。ツンもいいけど、デレはご褒美っすわー。
『氷帝』様の意外な一面を垣間見えたことで、急に親近感が湧いた。
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