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しおりを挟む「毒入りの酒杯……。定番ですね」
「少し苦しむらしいですけど、すぐにあの世へ旅立てるはずですわ。お薦めはこちらだと思いますわよ」
バーバラは妖しい笑みを張り付けたまま、酒杯に視線を向けた。
自分の持ち合わせなかった家柄と知性を併せ持つコーデリアに対し、嫉妬の感情を剥き出しにしているのが見て取れた。
彼女としては家柄や知性よりも女性としての魅力でコーデリアに勝ったことが嬉しくてたまらないらしいようだ。
「できれば、もう一つの選択肢を聞いてからにしてみます」
「あら、残念ですわ。でしたら、もう一つの方をお伝えします。叛乱首謀者として貴族籍を剥奪、平民として国外追放に加え、アルテシオン大神殿での終身奉仕処分とのことですが。瘴癘の土地にある寂れた神殿で食料にも事欠きながら、一生を独身の女性神官として神に仕え老いさらばえる方がよろしくて?」
バーバラが取り出したもう一枚の書類に書かれた内容も死に準ずるような酷い内容のものであった。
言われなき叛乱首謀者として、アルガン王国における貴族の地位を失った上、国外追放処分。
その上、大陸で一番の未開地と言われ、病気が蔓延し、魔族が周囲に徘徊する場所にあるアルテシオン大神殿での幽閉に等しい終身奉仕となれば、真綿で首を締めるように地獄のような苦しみの中で緩慢な死が待ち望んでいるだけであろうと思えた。
「どちらもありがたいほどのご厚情で……」
「で、コーデリア様はどちらを選ばれますか? この後、グスタフ様との夕食会の予定が詰まっておりますので、お早めに選んで頂けるとありがたいのですが……」
コーデリアはどちらを選んでも死や死に準ずる生き地獄が待っていると理解してしまった。
グスタフ王太子と異母兄フェルディナンドの勘気触れたことで、コーデリアは自らに死が訪れることは覚悟をしていたものの、実際に目の前に突き付けられたことで動揺を隠せないでいる。
「このような重大事、急には決められませぬ……。それにわたくしが王太子暗殺未遂犯もしくは叛乱首謀者とされれば、兄上にご迷惑をおかけすることになるので、お伺いを立てなければ……」
「そのご懸念はありませんわ。すでに貴方の兄上はこの件に関し同意されております。『コーデリアは我が家とは一切関係のない者』と切り捨てられましたわ」
進退窮まる。
バーバラから告げられた異母兄の冷たい言葉にコーデリアは目の前が眩む。
異母兄が自分を嫌っていたことは知っていたし、彼の出世を閉ざしかねない失態を犯したことも分かっていた。
わずかな可能性で異母兄が身内の恥を隠す方に腐心してくれるかもと願っていたコーデリアであったが、結果としてトカゲの尻尾切り。
自己保身に走られてしまった。
「さぁ、酒杯を仰いで今ここで果てられるか、未開の地で地獄の生活を味わいながら緩慢な死を待つのか、お選びになりませ」
次期権力者たちの凄惨な暗黒面を突き付けられたコーデリアの心中に、いっそ国を去り、苦しく辛いであろう遠い辺境での神殿暮らしをした方がマシに思えてきていた。
こんな自分勝手な者たちのため、大人しくあらぬ罪を被って自分の命を散らすのは無駄死にではないか。
どんな状況であれ、生きてこそ、自分が為せることもあるはず。
父エドガーならそう言って自分を辺境の大神殿に送り出したはずだ。
そんな思いがコーデリアの脳裏をよぎると、自分が選ぶべき道が見えてきた。
王太子妃でもなく、公爵令嬢でもなく、貴族ですらなく、一介の平民、ただのコーデリアとなって新たな人生を歩み出す。
そう決意をしたのであった。
自らの処遇に決断を下したコーデリアは、バーバラから差し出された二枚の書類の内、貴族籍剥奪の上、国外追放処分を含むアルテシオン大神殿行きを選び取る。
「わたくしはこれよりただのコーデリアとなって人生を生きることにしました。グスタフ様にはそのようにお伝えくださいませ」
「おや、そちらを選ばれましたか。公爵令嬢たるコーデリア様ならこの場での死を選ばれると賭けていましたのに残念ですわ。賭けは外れたようです。精々、瘴癘の地で長く生を全うされることを陰ながらお祈りしておきますわ。もちろん、グスタフ様には今宵の夕食会での酒肴としてコーデリア様の末路をお話しいたしますわよ」
バーバラが残ったもう一枚の書類を丸めて床に投げ捨てると、背後に控えていた兵士へ手で合図を送った。
合図を受けた兵士たちがコーデリアの両腕を掴むと、エスコートするように離れの外に待たされていた荷馬車へつれていく。
こうして、コーデリア・レンフォード公爵令嬢は叛乱首謀者とされ、アルガン王国での貴族籍を失い平民として国外追放処分とされることになったという報が王都内を駆け巡り、コーデリアこそ王太子妃に相応しいと思っていた街の住民たちは一斉に喧騒に包まれることとなった。
一方、息子グスタフからコーデリアの国外追放処分を聞いた王は心労から病が篤くなり、数日後には没すると、王妃もその失意からか後を追うように亡くなってしまった。
かくしてアルガン王国はグスタフ王太子が新たな王に冊立され、次なる時代へと入っていくことになったのだが、国外追放処分を受けたコーデリアはそのことを知る由もないまま、未開の地にあるアルテシオン大神殿への旅路を続けることとなった。
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