婚約破棄された元公爵令嬢は、辺境で聖女としてしたたかに生きることにした。

シンギョウ ガク

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 荷馬車が神殿に到着すると、コーデリアの手枷はヨークによって解かれ、引き渡し先の責任者であるアルテシオン大神殿の神官長ヴァリエとの面会となった。
 雨漏りしそうな隙間を見せる神殿長の部屋に連れてこられたコーデリアの前には、銀色の髪を束ね上げ神官帽に纏め入れ、知性を感じさせるアイスブルーの瞳で自分を値踏みする老齢の女性が椅子に腰をかけていた。

「神官長ヴァリエ殿には先触れの使者が詳細をお伝えしていると思いますが、アルガン王国で叛乱を企んだレイフォード公爵家令嬢コーデリアを連れて参りました。すでに貴族籍を失い国外追放処分を受けた平民ではありますが、このアルテシオン大神殿での終身奉仕刑を宣告されておりますので、身柄の引き取りをお願い申し上げます」

 一緒に旅をしてきたヨークが、コーデリアを神殿側に引き渡すための書類を差し出していく。
 事前に使者が出されていたようで、書類を受け取った神官長ヴァリエが間違いがないかを一ページずつ確認をしていた。
 アルガン王国では犯罪者を国外追放することは稀で、大半は国内の鉱山や港で力仕事などの単純労働を申し渡されるのが常であるのだ
 しかし、ただ一つの犯罪だけ例外であり、それが政治犯と呼ばれる体制を崩壊させようとした犯罪者だ。
 政治犯は例外なく国外追放処分を受け、他国に流され幽閉されることがお決まりになっている。
 コーデリアが受けたアルテシオン大神殿への国外追放処分はその中でも一番の重罪者が送られる場所となっていた。

「書類は正規のもののようですね。レイフォード公爵家といえば大貴族。先代のエドガー様には我が神殿も色々と便宜を図ってもらった恩もあります。その令嬢が、平民として送り込まれてくるとは……。あちら側は相当に荒れておられるようで……」

「わしにそう言われましてもなぁ。一介の兵士に過ぎませんので……。コーデリア嬢は無事にお届けしました。後はよろしくお願いします」

 神官長ヴァリエがコーデリアの身柄を受け取ったという印章を書類に押す。
 その書類を受け取ったヨークはコーデリアの前に片膝を突くと拝礼して頭を垂れた。

「コーデリア嬢、この地での新生活に幸あらんことをお祈り申し上げます。共に旅をできたことは終生の喜びとし、わしが先に逝ったらお父上にキチンと報告いたしますのでご安心くだされ。瘴癘な地ゆえ、くれぐれも健康にだけはお気をつけくださいませ」
「頭をお上げくださいませ。こちらこそ、二〇日間の旅路で色々と教えていただいたり、またお世話にもなり、わたくしとしては感謝しきれぬほどです。帰りの旅もありますでしょうし、ヨーク殿もお気をつけてお帰りくださいませ。わたくしはこの地でしぶとく立派に生き抜いてみせますおでご安心を」

 コーデリアがヨークを立ち上がらせると、二人は固い握手を交わしていく。
 少しだけ父に似た雰囲気を持ったヨークとの旅路は辛さを感じず、むしろ新たに色々な経験をたくさんすることができた非常に有意義な日々であったことに感謝しかなかった。
 仮に移送係が彼ではなく、自分に対して敵愾心を持つ者であれば、旅の辛さに打ちのめされ早々に自らの命を絶ったいたかと思うと、新たな人生の出発を前にしたコーデリアにとって幸先のよさ感じられた。

 コーデリアとの別れを終えた移送任務を終えたヨークは神官長ヴァリエが印章を押した書類を手にすると、明日からの旅の支度をするために部屋から出ていった。
 一人残されたコーデリアには、未だ言葉を交わしていない神官長ヴァリエの値踏みをするような視線に晒されている。
 視線に居心地の悪さを感じたコーデリアは、前日の夜にヨークに教えられた人付き合いの知恵を実践することにした。
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