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禅の回想
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しおりを挟む膳は消えるような小さな声でぽつりと言った。
「通報したのは、新聞に書いてあった通り通行人だ。俺は通報していない……というより、出来なかった。」
蒼介は膳の話に、もう何度目か分からない溜息を溢し、腕を組みなおすと、「で?」と冷たい声で聞いた。
◇◇◇
――トラックに駆け寄った俺は、割れたフロントドアガラスから運転席を覗き込んだ。
見えたのは……額から血を流して死んでいる姉の姿。
『おい……千紘……返事をしろ。千紘!!』
赤紫色に変色した額から流れる血で、前髪は額に張り付いていた。
まぶたの上にも血が流れて、現実とは思えない姿に俺は、混乱した。
「母さん!!来ないで!」
咄嗟に叫んだ。
母さんが何か叫んだ気がしたけれど、聞こえなかった。それぐらい、混乱していたんだ。
薄グレーの作業着だった筈なのに…胸から腹まで――全部、真っ赤だった。
それに……左腕が……変な方向に曲がっていた。
膝から力が抜けたよ。その場に崩れ落ちそうになった。
震える手を伸ばして……姉さんの首筋に触れた。
脈を探したんだ。首の横の……頸動脈に指を当てた……
鼓動が、なかった。心臓が止まってたんだ。
『嘘だ』って、何度も呟いた。もう一度、強く指を押し当てた。場所を変えて、何度も何度も触れた
でも――どこにも、脈はなかった。
トラックから降りた俺は、倒れている美奈子さんに駆け寄った。
彼女はかすり傷程度のように見えた。意識を失っていたけれど、呼吸は確認できた。
『母さん!救急車を……え?母さん!?』
振り返った瞬間、血の気が一機に引いた。
路上に、母さんが倒れていた。
血相を変えて今度は母さんに駆け寄った。
意識を失っていた。こんな山道だ。AEDが設置してある場所なんてあるわけがない。
死者一人……意識不明が二人。
急いで救急車を呼ぼうとした。ポケットを探り、震えながら携帯電話を探した。
けれど、ボタンを何度押しても携帯電話の画面は真っ黒のまま……電源が、切れていた。
母さんの携帯電話は画面が粉々だし、美奈子さんの携帯電話はロックを解除出来ない。
山を下って、助けを呼ぶしかない。そう思った。
◇◇◇
「……よくもそんなでまかせを思いつくものだな。」
蒼介は軽蔑の眼差しを膳に向け、紙袋から取り出したアルバムをテーブルに叩きつけるように置いた。
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