35 / 73
怒りと悲しみ
1
しおりを挟む英介は無言で助手席のドアを開け、私を外に連れ出した。言葉を発することなく車を降り、背後でドアが閉まる音が響いた。
その瞬間、沈黙が広がった。
胸の中には、まだ先ほどの出来事が渦巻いていた。社長の顔、静かに告げられた言葉。少し痛々しいようなあの表情が浮かぶ。胸が締めつけられた。
英介の車に乗り込むと、彼は静かにエンジンをかけた。
「……真那」
運転席から、静かに呼ぶ声。その声は優しいのに、どこか不安定だった。
「ごめんなさい……」
目の前の景色を見つめる。
雨の滴が助手席の窓に当たり、流れ落ちる。視界がぼやけて、殆ど見えていないのに、静かにその様子を見つめた。
「四つ坂コーポレーションに居てん、今日。システム部と打ち合わせしてたら、社長と連絡取れないって優香さんに聞いて。まさか……って真那に連絡してみたんやけど電話もメールも既読にならんくて心配になった。
そしたら、優香さんが居場所わかるって言うから、彼女の車に同乗させてもらった。」
「優香さんが?」
思わず口を開いた。
「GPSタグやろ。まぁ知らんけど」
車内は再び気まずい沈黙に包まれた。英介も何も言わず、隣で運転を続けている。ふと視線を落とすと、少し震える手がシートの端を握りしめていた。
沈黙に苦しくなってきたその時、英介は車を路肩に停めて、運転席から体を少し寄せてきた。
「——キスしてくれへん?真那」
英介の言葉が、低く静かに響いた。
「真那」
優しい声が響く中、彼に向けて小さく首を振った。
「ここ、外だし……」
「ええよ、そんなん」
「誰かに見られるかも……」
「どうでもええ」
「2人もこっちに向かってるんでしょ?あ、ロードサービスとか、呼ばなきゃ……」
「……」
英介は少し乱暴に腕を掴んで引き寄せた。
「他の男に奪われっぱなしじゃ、許せへん。」
0
あなたにおすすめの小説
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
私の大好きな彼氏はみんなに優しい
hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。
柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。
そして…
柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
私の夫は救えないクズ〜別れた先に幸福が待ってました〜
専業プウタ
恋愛
篠山久子はアラサー商社OL。十年付き合った恋人に振られ、コネ入社なのに実家の会社が傾き父親が亡くなり腫れ物扱い。そんな時に出会ったばかりの年下ドクター富永スバルからプロポーズされる。経済的苦労もない溺愛新婚生活を送って一年、何故か久子はスバルに絞殺された。タイムリープした久子はスバルの真実を知る。再びスバルに殺された久子は時を戻り、男に頼らず、今までと全く違う行動に出る。この物語は発想を逆転させた甘ちゃんお嬢様が、悪と闘い愛すべき人生を手に入れる仰天サクセスラブストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる