恋が下手な私が新社長に恋をした

yuzu

文字の大きさ
69 / 73
再会

春馬side

しおりを挟む
 リハビリテーション病棟の廊下に立ち、ガラス越しに看護師と笑い合う真那を見つめていた。

 そこに恋愛感情なんて無いことぐらい……ちゃんと頭ではわかっているのに、看護師カレがふらつく真那の肩を支え、手に触れる度、苛立ちが湧いてしまう自分に自己嫌悪する。

 午後の光がやわらかく差し込み、病棟全体を薄く照らしている。
 彼女はその光の中で、痛そうに顔を歪めながらも、ゆっくりと歩を進めていた。

 「やぁ。来ていたんだね。」

 ふいに背中から声がして……俺はすぐに振り返って会釈をした。

 「ご無沙汰しています。」

 真那の父親……背筋の伸びた立ち姿は、あの日と変わらない。
 けれどその顔には、以前よりもどこか柔らかな優しさが宿っていた。

 彼の視線も、俺と同じようにリハビリ室の中――真那へと向かっている。

 「……あの日以来だね。」

 俺は、わずかにうなずいて答える。

 「……はい」

 短い返事のあと、真那の父親はぱつりと話し出した。

 「……頑張ってるみたいだね。」

 リハビリ病棟の談話室には、午後の陽が差し込んでいた。

 窓際に置かれた観葉植物が、風に揺れて小さな影を床に落としている。

 自販機で購入した缶コーヒーが、冷えた掌をじわっと温める。

 真那は看護師に付き添われて、車椅子のまま治療説明を受けていた。

 その背中を見つめながら、隣に立つ小鳥遊さんに口を開く。

 「……お陰様で。まだまだですが、落ち着いたら、真那を連れて行くつもりです」

 小鳥遊さんは、すぐには何も言わなかった。

 しばらく視線を真那に向けたまま、ゆっくりと息を吸い、それからようやく一言だけ呟いた。

 「……そうか。やっぱり向こうへ行くのか」

 小鳥遊さんは、静かに事実を受け止めたよううな表情で小さく頷いた。。。

 「はい。まだ本人には伝えていませんが……」

 真那が俺たちに気づき、恥ずかしそうに小さく手を振る。

 小鳥遊さんは真那に手を振りかえした後、少し寂しそうな表情で笑った。

 「決めるのは僕じゃ無くて真那だ。そのときは娘を頼むよ。」

 少しの沈黙のあと……俺は小鳥遊さんをまっすぐ見つめ、無言で頷いた。

「小鳥遊さん。あの日、僕を叱責してくださった事、感謝しています。」

「覚えてないな。今の君は、君の努力が作り上げたんだから。」

 小鳥遊さんは目尻に皺を寄せて目を合わせた。

 言いかけた言葉を飲み込み、何も言わずにただ深々と頭を下げた俺の肩を優しく叩くと、小鳥遊さんは椅子から立ち上がって「真那の事、頼んだぞ。」と小さく言った。



 

 

 

 


 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

私の夫は救えないクズ〜別れた先に幸福が待ってました〜

専業プウタ
恋愛
篠山久子はアラサー商社OL。十年付き合った恋人に振られ、コネ入社なのに実家の会社が傾き父親が亡くなり腫れ物扱い。そんな時に出会ったばかりの年下ドクター富永スバルからプロポーズされる。経済的苦労もない溺愛新婚生活を送って一年、何故か久子はスバルに絞殺された。タイムリープした久子はスバルの真実を知る。再びスバルに殺された久子は時を戻り、男に頼らず、今までと全く違う行動に出る。この物語は発想を逆転させた甘ちゃんお嬢様が、悪と闘い愛すべき人生を手に入れる仰天サクセスラブストーリーである。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

処理中です...