恋が下手な私が新社長に恋をした

yuzu

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パーティの後で

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 エレベーターの扉が開くと、一之瀬社長は何も言わずに先に降りた。

 私はその背を追って、静かに足を踏み出す。  白を基調とした社長室前のホールには誰の気配もなく、空調の微かな音だけが耳に届いた。

 社長はそのままドアの前で立ち止まり、背中を向けたまま動かない。

 私は、一歩踏み出し、問いかけた。

 「あのっ……仕事って……?」

 返事はなかった。  けれど、次の瞬間——彼はゆっくりと振り返り、そのまま私を見つめた。

 深い眼差し。逸らさない、逃げない、その瞳が、まっすぐに私を射抜いてくる。

「さっき、八坂さんとはどうして……」

一之瀬社長は言いかけて視線を逸らし、私に背中を向けた。

 「……何でもない。」

 低く、けれどはっきりとした声でそう言った。

 「小鳥遊の判断も必要な場面も、最初から存在しない」

 言葉の一つ一つが、空気を切り裂くように響く。

 「……じゃあ、どうして」

 社長が近づいてきたその足音すら心臓に響く。

「誰にも小鳥遊を渡したく無かった……。」

 その言葉に、胸がざわめいた。

 「今の俺はどんな立場かなんて、分かってる。でも、せめて——」

 彼は言葉を切ると、真っ直ぐに私の前に立った。

「あの……?」

 その瞬間、腕を掴まれ
ーー強く引き寄せられた。

 すぐそこに、彼の胸元がある。体温が伝わる距離で、何もかもが崩れていきそうだった。

 抱きしめられる——そう思った、その時。

 「春馬?」

 通路の向こうから、澄んだ声が響いた。

 私たちのほうへ歩いてくるのは——優香さんだった。

 パーティドレス姿のまま、まるで時間を巻き戻したかのように、完璧な笑顔を湛えて。

「遅くまでお仕事?」

 柔らかく問いかけるその声に、空気が変わる。

 私は、社長の腕の中からすっと身を引いた。

 彼も、表情を引き締め、すぐにいつもの理知的な顔に戻っていた。

 「……ああ。少しだけ、確認しておきたいことがあって」

 その言葉は、もうさっきの熱とは別の温度だった。

 私は静かに頭を下げた。

「あの……私、これで失礼しますね」

 優香さんの目が、一瞬だけ私の動きを追った気がした。

 けれど彼女は、何も言わず、ただ微笑んでいた。

 私は、静かに社長室前のホールをあとにした。

 足音が響く。  でも、その鼓動の音の方が、ずっと大きく感じていた。

 



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