31 / 73
告白の答え
2
しおりを挟む
灯りを点ける気にもなれず、
手探りで靴を脱ぎ、壁に手をつきながらリビングに入った私は、街灯に照らし出された部屋の隅に視線を向けた。
中途半端に残された、日常の断片……
ダンボールの山。折りたたまれずに投げ出されたブランケット。車関係の雑誌。
「必要な物リスト送るから今週末までに郵送しろ。クソ女。」
メールの着信履歴は、亮介が警備員に締め出されたすぐ後の時間だった。
リストの中には家具も含まれていて、それらは私が購入した物なのに、いつの間にか亮介の物だと認識されていたようだ。
それで関係が終われるなら、もうそれで良い。そう思って亮介の提示した通りに始めた荷造りは、中途半端なままだ。
コンビニ袋に押し込まれた洗面道具。
擦り切れたスニーカー。段ボールに放り込まれたシャツやゲーム機。
過去の残骸はそこに留まり続けていて、
見ないふりをしても、存在は確かに、心に重たくのしかかってくる。
カーテンを閉じて街灯の灯りを断ち切り、顔を背けて重い足取りでベッドへと向かうと、マットレスが小さく軋む音を立ててしずんだ。
閉じたカーテンの隙間から差し込む街灯の光が、ぼんやりと室内を照らす。
枕に顔を押しつけた瞬間、
胸に押し込めていたものが、音もなく溢れ出した。
ぽたぽたと落ちる涙が枕に染みをつくる。
心の奥に浮かぶのは、一之瀬社長の姿ばかりだった。
会議室から遠ざかる気配。
はっきりと伝わった――拒絶。
私はそれを受け止めるしかなかった。
(この間、オフィスのエントランスであんなことがあったばかりなのに……気が多い女だと思われるよね……)
届くはずもない遠い存在なのに、届くと錯覚した自分が恥ずかしい。
息を吸うたびに、胸が軋む。
何度も、何度も、一之瀬社長の名前を心の中で呼んだ。
けれど、その声は、どこにも届かない。
そんな絶望の中で、ふと、八坂さんの顔が浮かんだ。
やさしくて……暖かかった。
あんな人が彼だったら、きっと幸せになれるんだろう……だけど……
だけど、脳裏に浮かぶのは一之瀬社長の顔だ。
好きなのは、一之瀬社長。
私はぎゅっとシーツを握って、もう一度枕に顔を押し付け、声を押し殺して泣いた。
アパートの薄い壁の向こうからは、車のエンジン音が微かに聞こえた。
世間は何事もなかったかのように動いている。なのに、私の時間だけは、この部屋の中に置き去りにされたままだった。
声にならない嗚咽を漏らし、ただ悲しみに暮れる時間を過ごした私は、その痛みを抱えたまま、落ちるように眠りについた。
手探りで靴を脱ぎ、壁に手をつきながらリビングに入った私は、街灯に照らし出された部屋の隅に視線を向けた。
中途半端に残された、日常の断片……
ダンボールの山。折りたたまれずに投げ出されたブランケット。車関係の雑誌。
「必要な物リスト送るから今週末までに郵送しろ。クソ女。」
メールの着信履歴は、亮介が警備員に締め出されたすぐ後の時間だった。
リストの中には家具も含まれていて、それらは私が購入した物なのに、いつの間にか亮介の物だと認識されていたようだ。
それで関係が終われるなら、もうそれで良い。そう思って亮介の提示した通りに始めた荷造りは、中途半端なままだ。
コンビニ袋に押し込まれた洗面道具。
擦り切れたスニーカー。段ボールに放り込まれたシャツやゲーム機。
過去の残骸はそこに留まり続けていて、
見ないふりをしても、存在は確かに、心に重たくのしかかってくる。
カーテンを閉じて街灯の灯りを断ち切り、顔を背けて重い足取りでベッドへと向かうと、マットレスが小さく軋む音を立ててしずんだ。
閉じたカーテンの隙間から差し込む街灯の光が、ぼんやりと室内を照らす。
枕に顔を押しつけた瞬間、
胸に押し込めていたものが、音もなく溢れ出した。
ぽたぽたと落ちる涙が枕に染みをつくる。
心の奥に浮かぶのは、一之瀬社長の姿ばかりだった。
会議室から遠ざかる気配。
はっきりと伝わった――拒絶。
私はそれを受け止めるしかなかった。
(この間、オフィスのエントランスであんなことがあったばかりなのに……気が多い女だと思われるよね……)
届くはずもない遠い存在なのに、届くと錯覚した自分が恥ずかしい。
息を吸うたびに、胸が軋む。
何度も、何度も、一之瀬社長の名前を心の中で呼んだ。
けれど、その声は、どこにも届かない。
そんな絶望の中で、ふと、八坂さんの顔が浮かんだ。
やさしくて……暖かかった。
あんな人が彼だったら、きっと幸せになれるんだろう……だけど……
だけど、脳裏に浮かぶのは一之瀬社長の顔だ。
好きなのは、一之瀬社長。
私はぎゅっとシーツを握って、もう一度枕に顔を押し付け、声を押し殺して泣いた。
アパートの薄い壁の向こうからは、車のエンジン音が微かに聞こえた。
世間は何事もなかったかのように動いている。なのに、私の時間だけは、この部屋の中に置き去りにされたままだった。
声にならない嗚咽を漏らし、ただ悲しみに暮れる時間を過ごした私は、その痛みを抱えたまま、落ちるように眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
私の大好きな彼氏はみんなに優しい
hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。
柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。
そして…
柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
私の夫は救えないクズ〜別れた先に幸福が待ってました〜
専業プウタ
恋愛
篠山久子はアラサー商社OL。十年付き合った恋人に振られ、コネ入社なのに実家の会社が傾き父親が亡くなり腫れ物扱い。そんな時に出会ったばかりの年下ドクター富永スバルからプロポーズされる。経済的苦労もない溺愛新婚生活を送って一年、何故か久子はスバルに絞殺された。タイムリープした久子はスバルの真実を知る。再びスバルに殺された久子は時を戻り、男に頼らず、今までと全く違う行動に出る。この物語は発想を逆転させた甘ちゃんお嬢様が、悪と闘い愛すべき人生を手に入れる仰天サクセスラブストーリーである。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる