上司が猫を脱いだなら。

yuzu

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メロい上司の秘密を知ってしまった瞬間

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(企画営業課から第5資料室……って言ってた)
 
 頭の中に、同僚たちの顔が浮かぶ。

 誉は口が悪い。でも気さくで面倒見がよく、営業成績も上位。
 澤部は入社三か月で提案した企画が商品化され、周囲からも期待されている。
 ほかの同僚だって、みんな仕事ができる人ばかりだ。

 企画営業部は花形部署で、優秀な人間しかいない。

 ――ただ一人、私を除いては。

 入社直後の社内コンペで入賞したのは、まぐれだという噂。
 本人である私の耳にも、ちゃんと届いている。
 
 「くまさんちのごちそう ホテルメイドのベアカレー」。

 材料コストの問題で正式な商品化には至らなかったけれど、上層部の一部から高評価を受け、賞だけはもらった。

 ……わかっている。
みんなが言うように、あれはまぐれだ。

 入社して三年。
 いまだに、胸を張って言える成果はない。
 営業成績だって、他社に負けてばかりで、新規契約も取れていない。

 私は――
 企画営業課には、いらない人間なのかもしれない。

 それでも……

「第五資料室に移動になるのは……私、ですか?」

 優しくて、人当たりがよくて――
 王子みたいな容姿の癒し系上司だと思っていた。

「そうだ。」

 私の“推し”。
 その人から聞かされた戦力外通告に、頭が真っ白になる。

「他に、聞きたいことは?」

  私に向けるその表情は、いつもの、穏やかに微笑む黒木係長のものではない。

 首をわずかに傾げ、こちらを見る目は――
 まるで、感情の温度を失ったように冷たくて、別人みたいだ。

 冷ややかな声音で投げつけられたその一言に、全身が強張った。
 
 言葉を失い、その場に立ち尽くしているうちに、黒木係長は何事もなかったかのように踵を返した。

 腕に抱えられた資料の一番上には、先ほどようやく仕上げたばかりの企画書。

 気づけば、私は反射的に彼を引き止めていた。

 「待ってください!」

 怪訝そうな表情で振り向いた黒木係長に、何度も推敲を重ねた企画書を差し出す。

 「お願いします。これ、見てください。私、言われた通り一生懸命推敲して――」
 「必要ない」

 最後まで言い切る前に、黒木係長の冷たい声がそれを遮った。
 短く切り捨てられた言葉は、はっきりとした拒絶。

 差し出した企画書を引っこめる事すらできずに、ただそこに立ち尽くした。
 
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