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#3 昨夜のつづき
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しおりを挟む夢の続きを追いかけるように、まぶたを震わせた次の瞬間、ばさりと布団を跳ねのけた。
頭の奥で鼓動が跳ねるように鳴っている。
「最悪……呑みすぎた」
口から漏れた言葉も頼りない。
ゆっくりと体を起こし、ベッドの端に手をついた。
パジャマのズボンは裾がずり上がっていて、冷えた空気が太ももに触れる。昨夜はスーツも脱がずに寝てしまったのかと思ったけど、どうやら帰宅してちゃんと着替えていたことに安堵した。
けれど、次の瞬間、胸にざわりと不安が走った。
夢の中の記憶が、妙に生々しく蘇る。酔った自分。彼の顔。あの腕の中。あの距離。
そして、耳元で囁かれた——
「……してもいいのに」
びくっと肩が跳ねる。
「夢だよね……」
部屋をぐるりと見回し、誰もいないのを確認して、ようやく息を吐いた。
夢にしては、細部まで鮮明すぎた。
彼の体温、手の重さ、テーブルの冷たさまで——ぜんぶ、覚えている。だからこそ怖い。もしこれが現実だったらどうしよう、と心の奥がざわめく。
「……は、早く、顔洗ってこよ……」
慌てて立ち上がり、洗面所へ向かう。鏡に映った自分の顔は、ひどく赤い。寝ぐせで跳ねた髪も、カサついた肌も、どうでもよくなるくらいには動揺していた。
水を勢いよく出して顔を洗うと、冷たい水が頬の火照りを少しだけ和らげた気がした。
タオルで顔を拭きながら、リビングのテーブルに置いてきたスマホのことが気になる。
——まさかね。
恐る恐る戻り、画面をつけた瞬間、通知が目に飛び込んできた。
【田上】
1件のメッセージ
「田上さん……?」
心臓がひときわ大きく跳ねた。何かとんでもない事実がメールに書かれている気がして息が詰まる。
でも……意を決して、通知を開いた。
《昨日はありがとう、楽しかった。》
そこで一度、呼吸を吐いた。
続けて、すぐにもう一通。
《ちゃんとベッドで寝れた?無理させちゃってごめん。》
《朝まで一緒にいればよかったな。》
「……はっ?」
読み返した瞬間、手元がぐらりと揺れて、スマホを取り落としそうになる。慌てて両手でキャッチし、胸に押し当てる。
「何かあった……?」
思わず声が漏れる。
昨日の記憶を必死で辿る。飲みすぎて記憶が飛んでいるせいか、何を言ったか覚えていない。けど——もしかして、何かあった?
いや、そんなはず——いや、でも彼のメール、あれはどう考えても普通じゃない。
全身が熱を持つ。背中に汗がじわりと滲む。
焦る指先で返信画面を開くが、何を打てばいいのかわからない。
《昨日はすみません、酔ってたみたいで……》
打ちかけて、すぐに消した。どうしたって重く受け取られそうな空気がある。
少し考えて面倒になり、スマホをテーブルの上にそっと置いた。
コーヒーでも淹れようかと立ち上がったけれど、それもすぐにやめた。落ち着かない。
「……今日、仕事休みたい……」
鏡の前に立つ。赤く染まった顔、ゆがんだ前髪、焦りと不安が混ざったような瞳。
あのメールの一文が、現実と夢の境界を、容赦なく溶かしていった。
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