恋が温まるまで

yuzu

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#11 田上さんが家に来る

#5

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「ここ……でしたか」

 地下へのエスカレーターを降りた途端、お洒落なジャズのBGMと甘い焼き菓子の香りが混ざり合い、まるでどこか別の街に迷い込んだようなワクワク感に包まれる。

 到着したのは最寄りのスーパーではなく、あの日以来足が遠のいていたデパ地下の食品売り場だった。

 ほどよく混み合い、買い物客たちの足取りにはどこか余裕がある。

 「たまにはいいよね。ワクワクしない?こうゆうとこって。」

 確かに、ここならバゲットも本格的なチーズも、ワインに合う食材もすぐに見つかる。

 「……高っ」

 鮮魚コーナーで手に取った車海老の値札を見て小声で呟いた。

 けれど、田上さんは隣で気にも留めない様子で、「これならプリプリしてておいしいだろうね」と言ってカゴに放り込んだ。

 その仕草があまりに自然すぎて、突っ込みも躊躇してしまう。

 続けてオリーブオイル、ガーリックペースト、バゲットに白ワイン、さらに「こっちのチーズの方がクセがなくて食べやすい」と言って、フランス産の聞いたこともない名前のチーズまで次々とカゴに放り込む。

 さりげなく手に取ったクラッカーは某有名ホテル監修、有名パティシエのチョコレート、ワインに合いそうなドライフルーツミックスとデザートにティラミスまで加わったころには、カゴはすっかり“二人で夜更かししそうな夜”の様相を呈していた。

 「まずいな……ちょっと買いすぎたかも」

 レシートを見ながら思わずつぶやく田上さんを見て、つい笑ってしまった。

 「豪勢ですね。でも……たまにはいいかも。作るの楽しみですね。他にも色々作れそう。」

 目を輝かせて振り返れば、田上さんは前髪を掻き上げて、一緒に笑いあった。

 買い物袋を車のトランクに積むと、夏の風が、ビルの隙間を縫うように頬を撫でていった。

 「冷蔵庫、入るかな……」

 「入らなかったら、全部食べればいいよ」

 こんなに楽しい時間を過ごすのは久しぶりで、幸せを感じた。
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