恋が温まるまで

yuzu

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#12 過去の傷を癒すには

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 田上さんは画面を一瞥しただけで、何も言わずに着信を切った。

 指先の動きには、まるで迷いがない。

 静かすぎる部屋に、胸の鼓動だけがひどく浮いて感じられた。

 「……いいんですか?出なくて」

 抑えたつもりだったのに、声にわずかな棘が混じっていた。

 自分でも、それに気づいたけど、もう言ってしまったあとだった。

 田上さんは、ふっと穏やかに目を細めた。

 「うん、大丈夫。急ぎじゃないでしょ。っていうか……」

 そう言いながら、彼は再び私のほうへ身体を向けた。

 私を囲むように両手を調理台につくとと、囁くような声で言った。

 「……美亜との時間が、優先だから」

 低く、静かに届いたその声は、どこか胸の奥に染みるように響いた。

 何か言わなければと思うのに、喉がうまく動かない。

 胸の奥に、かすかに痛むような過去の気配がよぎる。

 誰かに期待して、裏切られて、それでも平気なふりをして。
 大丈夫だって、自分に言い聞かせていた時間は、私が一歩前に進むのを躊躇させる。

 田上さんは、緊張の糸を緩めるように微笑んだ。

 優しいような切ないような目で、私を見つめたまま囁く。

「好きだよ」

 ふっと、ため息のように言った彼の声があまりに自然で、また胸を締めつけた。

 私は目をそらし、田上さんの腕の中から逃れるように身を捩った。

 「あっ……あー、そうだ。アヒージョ!早く作らないと。」

 逃げるように菜箸でフライパンの中のエビを突く。
 
 背中にはまだ、彼の視線が残っていた。

 
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