異世界は鬼畜でした。〜クラス転移したが唯一スキルなしで見放された俺は最後の魔女と出会い最強に成り代わる〜

丸手音狐

文字の大きさ
60 / 91
一章

60.彼女は……

しおりを挟む
「……気持ちよかった」

「その表現の仕方はやめろ。でもまぁ、傷を治してくれたのはありがとう」

「うん」

 ハルトはシノとキスをした事でアッシュと戦った際に受けた傷が全て治った。完全回復したハルトはシノ達の支えに頼らず立ち上がる。そして辺りを見渡した。これまでそこには人々が楽しく過ごしていたはずの空間があったはずだがもう影すら残っていない。建物は崩れ落ち、地面はえぐれ、遠くでは火災も起こっている。それに関係のない命まで葬られてしまった。

 色々な感情を感じながらもハルトは沢山息を吸いそれを吐いた。何かに踏ん切りがついたハルトはシノとラムネに先を急ごうと言い再び王城に向けて歩き始めた。

 歩いていると奥に国民の姿が見えた。その先には兵が居るように見える。兵は国民を無理やり止めようとしているようで大衆に向かって槍を突きつけていた。中にはそれに恐れて進むことをやめるものもいたが大半が徐々に兵に迫っていっていた。

「これ以上王城に近づこうとするならば刺し殺すぞ」
「今すぐここを離れなさい」
「情報を鵜呑みにするな」

「そこをどけ!!! 俺達を通せ!!」
「神託官を出せ! 文句を言ってやる!」
「この詐欺師どもが! いい加減白状しろ!!」

 兵と国民はいがみ合っていた。しかしその時神託官を出せという言葉を聞いて出てきたのかはわからないがまたもやヴィーネが王城方面から歩いてきていた。それに気づいた国民はさらに罵声を浴びせる。兵も神託官であるヴィーネの安全を守るためこれ以上行ってはならないですと止めようとしたがヴィーネは止まることなくその兵を通り過ぎる。

 ヴィーネは胸の下で両手を組みどんどんと国民へと近づいていく。その度に国民の罵声は増していく。さらには物を投げるものもいたがそれらは簡単にヴィーネに弾かれてしまった。

「元気な人達がいっぱいね。みんな、安心して。もう何も問題ないわ。勝手に暴れていたアッシュも殺されたみたいだから」

「あの神託官が!?」
「アッシュってあの筋肉の人だよな?」
「殺したって一体誰があんな化け物を?」

「ふふ。いずれ、いいえ。もうすぐわかるわ」

「それはどういう事なんだ……?」
「ヴィーネ様、一体誰なのでしょう!」
「どうせハッタリだろ」

「わからないの? 感じないの? もう彼女はこの国に戻ってきてるのよ」

「彼女……」
「まさかあの……」
「……おい、に、逃げるぞ!!」

 何かを察したその場にいた国民は一斉にハルト達の方に走り出した。誰しもが先に逃げたがるせいで走りながら体がぶつかり合う。それはハルト達も同じで何がなんだかわからず立っているのだが何度も走ってくる者達の体が接触する。しかし数十秒もすればそこにはハルト達とヴィーネ、兵しかいなくなっていた。そしてヴィーネはハルトの目を見て話し始める。

「彼女がもう来るわ。ここからは貴方達の出番よ。ハルトくん、シノちゃん。それじゃあ頑張ってね?」

「え、私の存在をないことにしないでくださいよぉ!!」

 ヴィーネは後ろを向き王城の方へと歩いていく。兵達もヴィーネの後ろを遅れてついていった。一方ハルトはヴィーネの残した言葉がそこまで理解出来ずどういう意味なのかと考え悩んでいた。

「ヴィーネ……。あいつも神託官だから倒さないといけなかったんじゃね?」

「逃がしちゃった」

「なーにしてるんですか。ボーっと胸ばっか見てるからそうなるんですよ!」

「おい、変な事言うな。そしてシノ、俺を見るな」

「仕方ないですねぇ。それでどうするんですか。これから。なんだか王城に向かおうとしても道中で何かが出てきそうな雰囲気ですけど」

「確かにな。ヴィーネの言ってた彼女がもう来るも気になるし……どうするか」

 ハルト達はしばらくどうするかと悩んでいると王城の方から白いオーラの様なものが放たれているという事に気づく。ハルトが「あれはなんだ?」と聞いても他の二人が知るはずもなくただ見ていることしかできなかった。しかしずっと見ていてもそのオーラは何かを起こすわけでもなくずっとモヤモヤとしているだけだった。しょうもねぇオーラのだなとハルトが思っているとオーラが放たれているところから何やら氷の塊が周りに飛んで行き始めた。

「ちょっと行ってみるか」

「うん」

「いっきましょー!」

 その氷の塊が気になったハルト達は王城に向かって走り出す。その間にも王城に浮くオーラから複数の氷の塊が国中に落下していく。本当に何なんだとハルトが思っていると遠く離れたところで大きな爆発音が聞こえてくる。その次には別の遠い場所で爆発がさらに遠くの場所でも大きな爆発音と共に煙があがっていた。

 ハルトは一体何が起こっているんだと思っていると走るハルト達の方に向かって氷の塊が落ちてきていた。ハルト達はその氷の塊に当たらないようにするために後ろに方向転換し走り出す。そして次の瞬間後ろでとんでもない爆発が起こった。同時に衝撃波の様なものもあったがコートが激しく揺れるくらいで人が弾き飛ばされるという程の威力ではなかった。

 逃げていたハルト達は恐る恐る後ろを見るとそこは地面が深くえぐれさらには両脇に建っていた建物が半分ほど崩壊していた。王城に浮くあのオーラから放たれている氷の塊達は地面に落ちた瞬間爆発を起こしている。その様な現象を自然的に起こすことなど不可能である。つまりはあの氷の塊は誰かの能力スキルによって引き起こされている事だとハルトは考えた。

 ここでヴィーネの「彼女がもう来るわ」という言葉をハルトは思い出す。ヴィーネの言葉、あの大規模な桁外れの攻撃、それらから連想される人物はもう彼女しかいない。

「ハルトさん……! あれは!!」

「出たな。バケモン」

 王城にさらに近づくとそのオーラの中に姿が見えてくる。見た目は幼い少女で真っ白な髪の毛に綺麗な水色の瞳。色白な肌で真っ白で少し透明感のあるワンピースを着ていた。その少女は目を瞑ったまま両腕を大きく広げ国中に氷の塊を放っている

 その光景を見てハルト達は思わず立ち止まり見惚れていた。

「ハルト……」

「あぁ、あれは間違いなく第一神託官のメルリル・クリオーネだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

処理中です...