星降る夜のキス〜見えない私の恋物語〜

蒼獅

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桜花舞う、恋の始まり

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 春風そよぐ、桜舞う道。14歳の少女は慎重に一歩を踏み出す。彼女の手には白い杖が握られている。それは彼女の目となり、この広がる世界を導く唯一の道具だ。その少女の名前は凪。この物語の主人公である。凪は視覚障がいを持ち、彼女の世界は常に暗闇に包まれている。しかし、彼女はポジティブな性格と強い精神力の持ち、その姿勢は彼女の強さを示しています。そして、好奇心旺盛です。彼女の口癖は「目が見えないからといって死ぬわけではない」という言葉です。彼女の存在は家族や周囲の人々に勇気と力を与えてくれます。14歳と言えば、友達と可愛いもの探しを楽しむ年齢だ。見た目が可愛いものに興味を持ち、色彩や形を楽しんで話に花を咲かせる。しかし、凪は色彩を楽しむことができない。彼女の視覚障がいには、日常生活のさまざまな側面に影響を与えています。例えば、彼女は虹の美しい色彩や青空の澄んだ色を見ることができません。

そんな凪に幼い頃、母親がこう言いました。
「凪、色彩は心で感じるのよ」と。
 彼女はまだ幼く、母親の言葉の意味を理解するまでに少し時間がかかりました。

彼女の母親は、凪が色彩を感じることができないことを悲しむ代わりに、彼女が他の感覚を通じて世界を楽しむ方法を見つけるように助けました。それにより、凪は音や触覚、味覚などを活用して、周囲の美しさや豊かさを感じることができるようになりました。彼女の日常生活は、視覚に頼らない独自の視点から成り立っています。凪が困らないように、母親は凪が幼い頃から凪の視点に合わせて慎重に行動してきました。

彼女は、アイマスクを装着して家の中を歩くことで、凪の日常生活で感じる難しさや困難さを理解しようと努めました。凪が幼い頃は母親が膝をついた状態で歩き、凪の視点と同じ高さで周囲を見渡し、危険を取り除くことに心がけていました。

普通の人でもアイマスクをして慣れた家の中を歩くだけでも、わずか数分で不安定さや混乱を感じることがあります。しかし、母親は凪が安全に過ごせるように、彼女の視点に合わせて行動し、日常生活での困難を少しでも軽減することに努めました。その姿勢は、母親が凪を理解し、支えようとする愛情深い親子関係を示しています。

日常生活の中で、母親は凪が安全に過ごせるように配慮します。例えば、家の中には足元に何かが置かれていると、凪がつまずいたりしてしまう可能性があります。母親は、凪が移動する場所や通路を常に確認し、障がい物を取り除いています。

また、家の中の扉が半開きになっていると、凪がぶつかってしまう危険性があります。母親は、扉を完全に閉めるか開いていることを知らせるために目立つサインを設置することで、凪が安全に通ることができるように配慮しています。

これらの配慮によって、凪は日常生活での危険な状況を回避し、安全に過ごすことができます。母親の目配りと配慮が、凪の安全と健康を守る大きな役割を果たしています。

しかし、母親の意思に反して、会社内で事故が発生しました。母親の会社には凪が訪問教育を受けるための学習スペースがあり、彼女はほぼ毎日母親の会社にいます。そのため、会社内では凪が安心して歩けるよう、足元に物を置かないように保たれています。しかし、入社したばかりの社員が、足元に物を置かないようにという貼り紙を無視し、物を置いてしまいました。

荷物が置かれていることに気がつくはずもなく、安心して歩いていた凪のもとに、後ろから事務員の声が聞こえてきました。

「凪ちゃーん、危ない、止まって!」という叫び声でした。凪がその声に気づいた時、もう遅かったのです。「ガシャーン!」という音が鳴り、凪は声を出せず転倒してしまいました。

その後、事務員の悲鳴が響き、颯斗が凪のもとに駆け寄りました。凪が無事であるかを確認する颯斗でしたが、凪は何も返事をしませんでした。

颯斗は凪の部屋に保険証が入っているバッグを持ってきてほしいと母親に頼みましたが、母親は動けませんでした。そのため、近くの事務員に同じことを頼むことになりました。

救急車が到着し、凪は運び出されました。颯斗は保険証を持ってかかりつけの病院に行くことを伝え、凪の手を握りしめる颯斗の目から涙が溢れ出ました。その一滴一滴が、彼の心の内側から湧き上がる感情を物語っていました。凪の意識は戻らないまま、病院に到着した。

凪が処置を受けている間、颯斗はまず母親に連絡をした。次に父親にも連絡を取った。颯斗の連絡から何かがあったことをすぐに理解した父親は、颯斗の説明を聞き、「いつもの病院か?」と尋ねた後、「すぐに行く」と言い、電話を切った。颯斗は、父親が母親よりも早く病院に着くだろうと思い、待っていると、処置室から担当医が出てきて「凪ちゃんのご家族様ですか?」と聞いた。颯斗は頷き、先生が凪の状態と今後のことを話し、ここで待っていてくださいと言われ、処置室に戻っていった。

少し経った頃、父親が急いで救急外来の入り口から入ってきた。息が荒く、顔色も悪かった。
「颯斗!!」と叫ぶ父親の声に、颯斗が振り向き、父親の顔を見るなり泣き崩れた。颯斗を抱きしめる父親。「よく頑張ったな」と声をかけた。

普段は忙しい父親だが、家族を大切にしていることはよく知られている。颯斗が落ち着いた頃、母親が入院の準備をして入り口から歩いてきた。父親は優しく話しかけた。父親が母親の隣に座ると、母親は椅子に座った瞬間、泣き崩れた。そんな母親を見て、父親は彼女をそっと抱きしめた。「君が一番頑張っているから・・・・」と優しい声が母親の耳に届いた。

家族みんなが理解しているように、母親は強いが、凪のことになるといつもよりも弱くなる。父親はそんな母親を支えるために、彼女の手を握りしめた。

凪の処置が終わり、担当医の先生から話があるようだ。
「こちで説明しますね」と救急外来の診察室に案内された。凪の状況や検査結果などが詳細に説明され、ICUではなくて大丈夫そうなので、いつもの個室で入院することになった。

病院は疲れるエネルギーだと凪は感じるため、母親は入院する際は大好きな音楽が聞けるように機材を持ってくる。これは担当医と病院との暗黙の了解みたいなものだ。凪は一人部屋の個室が準備され、先に家族だけが案内されました。母親は持ってきた袋から凪の大好物のプリンやイチゴケーキ、飲み物を冷蔵庫に入れ、いちごミルクの味の飴をベッドの近くに置きました。颯斗は母親が準備した音楽機器を設置しました。

凪が病室に移されたとき、点滴と心拍計が装着されていた。医師と看護師が説明する中、父親が凪の意識が戻っていないことを心配した。医師は薬で眠っているだけであり、1時間程で目が覚めるから安心してくださいと答えた。重い空気が一変した瞬間だった。医師は「目覚めた時に近くにいてあげてください」と言い部屋を出て行きました。

安堵の空気に包まれた瞬間だった。

父親は颯斗にソファーで休むように勧めた。凪が目覚めとき起こすからと颯斗に伝え、それを聞いて安心したのか颯斗はすぐに眠りについた。母親は温かい飲み物を買いに外に出ました。戻ってきた母親の手にはスターバックスの紙袋が2つ。ホットコーヒーを父親に渡した。そしてもう一つの袋からドーナッツを取り出し、「これ、好きでしょ?」と甘く優しい声で父親に言いました。
父親と母親の声で凪が少し目を覚ましました。

「・・・パパ?・・・ママ?」小さく消えそうな声だった。

凪が目覚めたことを颯斗に伝えた。颯斗はソファーから飛び起きて、凪のそばに行った。

「凪!!」

颯斗の呼びかけに凪は少し驚いた。そして「ここ・・・どこ?」と聞いた。颯斗は事情を説明した。

そして、「ママ、大丈夫?」と母親を心配した。母親が誰もいないところで泣いていることを凪は知っている。自分が怪我したことで家族が悲しむことが嫌なのだ。母親は凪に安心させるように明るく大丈夫だよと答え、医師を呼びに行った。

凪は父親に「ママを叱らないでね」と言い、神様が慣れた場所でも気をつけないといけないと教えてくれたのだと言いました。凪のその言葉で家族は安心した。

母親が医師と一緒に戻ってきました。医師は凪に痛みや違和感はないか確認しました。凪は痛みが少し残っていることを伝え、点滴がいつ外れるのか尋ねました。
医師が検査結果を見て点滴を外すことを説明しました。目が見えない凪にとって、個室内のトイレに行く際、点滴のキャスターが少し邪魔に感じられるのです。

視覚障がい者の場合、環境の変化は大きな負担になります。看護師の中には目が見えない患者に慣れていない人もいます。「ここにおきますね」と言う看護師。「ここってどこ?」と思うのは当然の事です。凪は面倒なので「はーい」と答えておきます。置いた音がした方向へと足を運び、手探りで確認します。病院は毎日誰かが入院し、入れ替わりが激しい。

凪の隣の個室にも誰かが入院するらしく、準備をしている。一人部屋の個室なので何も気にせずにいられるから、気分が楽な方だ。明日の朝、検温の際に隣の個室にどんな人が入院したのか教えてくれる。怒鳴るおじさんだったら嫌だなと凪は思っていた。この時、凪は隣の個室に運命を変える相手が入院することを知る由もなく、ただ怒鳴るおじさんでないことだけを願っていた。

季節は桜が舞う時期だった。颯斗は凪に、「調子が良い時は病院の中庭に桜の木があるから、車椅子で行こうね」と提案した。車椅子だと見えないことを言われることがないし、白い杖を握らなくても颯斗が連れて行ってくれるからだ。凪は小さく頷いた。

明日は父親も母親も会社に行くから、凪は一人だと思っていた。「お兄ちゃん、明日は学校だよね?」と聞くと彼は笑いながら「凪のために学校が休みになった」と答え、父が「嘘だよ、代休だってさ」と付け加えた。そんな明るいお兄ちゃんが大好きな凪だった。


「あっ!忘れていた!」颯斗が言いながら、音楽機器の設定をすることを思い出した。時刻と目覚ましの設定をする必要がある。凪の目覚めの音楽は決まっています。それはZeddの「Clarity」です。凪は洋楽だけを聴きます。それには理由があります。
凪が邦楽を聞かない理由は、日本語が好きではないからです。外に出ると、「白い杖を持ってまで歩くな!」と言われたり、「目が見えないって・・・人生終わってる」とも言われる凪は、そんな日本語が大嫌いです。

偏見と無理解が社会に蔓延している。だから日本語が嫌い。邦楽を聴きたくない。

凪はこれから先、邦楽を聴くことがあるのか、誰にも分からない。
もし邦楽を好きになったら、それは凪の中で新しい何かが芽生えた時だろう。

翌朝、父親と母親が会社へ出勤し、颯斗は朝食を買いに病室を出て行った。凪の目覚ましであるZeddの「Clarity」が流れる中、どこからか「クラリティ」を歌う声が聞こえた。その声はとても優しく、どこか寂しげだった。颯斗が戻ってきた時には、歌声はもう聞こえなかった。

一体、あの歌声は誰のものだったのだろうか。凪の耳にはその声が心地よく響いていた。





















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