イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない

藤永ゆいか

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第2章

◇一堂くんとランチ①

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 一堂くんと仮のカップルになって、数日が経った。
 今は、数学の授業中。

「いいか? ここは、テストに出すつもりだから。よく聞いておけよ」

 数学の先生の話に耳を傾けながらも、わたしは一堂くんの席に目をやる。
 窓際の一番前の一堂くんの席は、空席。
 一堂くん、さっきの英語の授業のときはいたけど、今はいないから……サボってるのかな?

 入学式の翌日に通常授業がスタートしてからというもの、一堂くんは授業に出たり出なかったり。
 噂によると、授業をサボってる間一堂くんは保健室で寝てるとか。はたまた、そこで彼女とイケナイコトをしている……とか。

 でも、その噂は本当なのかも。だって昨日、一堂くんが彼女らしき先輩と一緒に保健室から出てくるところをこの目で見たから。
 そのときの一堂くんの制服は、いつもよりも少し乱れていたし……って、彼がどこで何をしていようと、わたしには関係ないけど。

 お兄ちゃんに、一堂くんと仮のカップルになるように言われてからもうすぐ1週間になる。
 その間、わたしは一堂くんと恋人っぽいことは何もしていないし。そもそも一堂くんが我が家に来たあの日以来、彼とは会話すらしていない。

 あのとき、お兄ちゃんの部屋で一堂くんに『これからは俺の彼女として、たーくさん可愛がってあげるから』なんて言われたけど。
 やっぱり、からかわれただけだったのかも?

 まあ、元々は “ 付き合うフリ ” だけの約束だし。このまま何もないほうが、わたしにとっても都合がいいかな。

 * *

 翌日の昼休み。

「依茉! ご飯食べよう」
「うん! あー、もうお腹ペコペコ~」

 わたしはいつものように、杏奈と真織と机を合わせてお弁当を広げる。

「わぁ、依茉ちゃんの卵焼き美味しそう!」
「良かったら、ひとつ食べる?」
「うん! それじゃあ、私のハンバーグと交換しよう」

 わたしが、杏奈とそんな話をしていたときだった。

「本当だ。その卵焼き、すごく美味しそうだね」

 突然わたしたちに、話しかけてきた人がいた。

「えっ、一堂先輩!?」

 いきなり現れた一堂くんに、真織が素っ頓狂な声をあげる。
 
 一堂くん、今日は朝から学校に来ていなかったから、てっきり休みだと思っていたら。いつの間に来ていたの!?
 まさかの人物の登場に、わたしは固まってしまう。

「ねぇ、それ。食べないなら、もらってもいい?」
「あっ、それは……」

 わたしが杏奈にあげようと箸に挟んでいた卵焼きに、一堂くんがパクッとかぶりついた。

「うん、めっちゃ美味い。これって、依茉の手作り?」
「えっと、うん。そうだけど……お弁当は、毎朝わたしが家族の分も作ってて」
「へぇー。毎朝自分で作ってるってえらいじゃん」

 一堂くんが、わたしの頭を優しく撫でる。

「あっ、あのぉ、一堂先輩。私たちに何か用ですか?」

 モグモグと口を動かす一堂くんに、杏奈がおずおずと話しかける。

「あっ、そうそう。悪いんだけど、依茉のこと借りてもいい?」
「えっ!?」
「彼女と一緒に、ランチしようと思って」

「うそ。一堂先輩、今『依茉』って、呼び捨てで呼んだ!?」
「ていうか、かっ、彼女って……!」

 一堂くんの衝撃発言に、開いた口が塞がらない様子の真織と杏奈。

「ああ、実は俺、少し前から依茉と付き合い始めたんだよね」
「ええええ」

 まさかの一堂くんの言葉に、杏奈と真織だけでなく、教室中の女子の悲鳴があがる。

 う、嘘でしょ。一堂くんったら、みんなの前で何を言ってるの!?
 わたしは、持っていた箸を机に落としてしまう。

「ちょっと、一堂先輩って年下に興味ないんじゃなかったの!?」
「えーっ、いいなぁ西森さん」

 クラスの女子の視線を一身に浴び、身を縮こませるわたし。

「という訳だから。依茉のこと、借りてもいいかな?」
「はっ、はいっ!」
「もちろんです」

 一堂くんにもう一度尋ねられ、即答する杏奈と真織。

「ありがとう。それじゃあ、行こうか依茉」

 えっ、え!?

 一堂くんはまだ混乱するわたしの手を取り、もう一方の手でわたしのお弁当を持つ。

 そしてわたしは、彼に手を引かれながら教室を出た。
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