イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない

藤永ゆいか

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第2章

◇一堂くんとキス

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 三原くんと別れたわたしは、一堂くんに手首を掴まれたまま引っ張られるようにして正門を抜け、通学路をどんどん進んでいく。
 掴まれている手を振りほどこうとするも、男の人の力には到底かなわず、ビクともしない。

「ったく。何なんだ、あいつは……」

 一堂くんがブツブツ言うたびに、わたしの手首を掴んでいる彼の手に力がこもる。

「い、一堂くん。そろそろ手、離して」
「……俺がいるのに、構わず依茉が好きとか言って」
「ねぇ、一堂くんってば!」
「え? あっ、ごめん。何?」

 ようやくわたしの声に気づいたという感じで、一堂くんが後ろを振り向く。

「手首、ずっと掴まれてたら痛いよ」
「あ、悪い……」

 一堂くんが慌てて、わたしから手を離す。

 先ほどまで掴まれていた手首は、ほんのりと赤くなっている。

「ごめん、依茉。痛い?」

 わたしの少し赤くなった手首を、一堂くんがそっと撫でてくる。

「痛いけど。でも、少しだけだから。これくらい、だいじょう……ぶ」

 ──チュッ。

 一堂くんが、わたしの手首の内側にキスを落とす。

「ほんと、ごめん。痛いよな……」

 チュッと小さなリップ音を立てながら、一堂くんはわたしの手首に何度も口づける。

「いっ、一堂くん。くすぐったいよ」
「ダメ。これは、治療なんだから。我慢して」

 治療って……。

 一堂くんからのキスにわたしが戸惑っていると、鼻先にポツっと冷たいものがあたった。

 え?

 ふと空を見上げた瞬間、ポツポツと雨が降ってくる。
 それとほぼ同時。わたしたちのすぐそばに、黒塗りの高級車が一台静かに停車した。

「おっ。ちょうど良いところに来たな」

 ちょうど良いところに来たって、この車はもしかして……。

 運転席のドアが開き、中からタキシード姿の綺麗な白髪の初老の男性が出てきて、一堂くんの前で恭しくお辞儀をする。

「慧さま。お迎えにあがりました」
「ああ。悪いな、寺内てらうち。迎えに来てもらって」

 寺内と呼ばれた男性は「初めまして。私は、一堂家にお仕えしている寺内と申します」と、わたしに向かって深々とお辞儀してくれる。
 わたしも寺内さんに自己紹介し、一礼した。

「寺内は、俺が生まれる前からずっと家に仕えてくれている執事なんだ」
「へぇ、執事さん……す、すごい」

 高級車に執事が登場し、一堂くんは本当にお金持ちの御曹司なんだと改めて思わされる。

「それじゃあ、一堂くん。わたしはこれで……」

 一堂くんのお迎えが来たのなら、ようやく彼から解放されると、わたしは一堂くんから離れようとしたが。
 またしてもわたしは、彼に手首を掴まれてしまった。

「何一人で帰ろうとしてるんだよ、依茉」
「え?」
「依茉が雨に濡れないようにと思って、寺内に迎えに来させたんだ。だから、一緒に帰るよ。さあ、早く乗って」

 えええ!?


 一堂くんに断ることができなかった私は今、高級車の後部座席に座っている。わたしの真横には、もちろん一堂くん。

 なっ、なんでこんなことになってるの。

「珍しいですね。慧さまが、女性の方と一緒にこの車に乗られるなんて。もしかして、初めてでは? 私は大変嬉しいです」

 寺内さんの予想外の発言に、わたしは思わず隣の一堂くんの顔を見る。

「えっ。初めてって、本当に!?」
「言われてみれば、依茉が初めてかもな」
「てっきり、他の彼女とも車で一緒に帰ったりしてるのかと……」
「いくら俺でも、誰彼構わず家の車に乗せたりはしないよ。女は……依茉だけだ」

 わたしだけという一堂くんの言葉に、どうしてか胸が熱くなる。
 そんなわたしを他所に、すっとわたしの左手が一堂くんの手に掬われ、手首にそっと口づけられる。

「ちょっと、一堂くん!? 手首の治療は、さっき終わったんじゃ!?」
「左手のほうは、まだだったでしょ」
「こっちは、右手に比べたら赤くなってないから。大丈夫だよ」
「いいから、貸して」

 少し強引に、わたしの左手首にキスを落とす一堂くん。

「……ひゃっ」

 最初は軽いキスだけだったのに。途中から、生温かいものがわたしの手首を這う。
 えっ。もしかしてわたし、一堂くんに手首を舐められてる!?

「ちょっ、ちょっと一堂くん。こんなところで、何を……」

 いくら車の中とはいえ、運転席には寺内さんもいるのに……。

「何って、消毒だけど?」

 それが何か? とでも言いたげな顔の一堂くん。

「やっ、やだ。わたし、そんな消毒なんてして欲しくない……」
「こっちの手首は、さっき悪いヤツに掴まれただろ?」

 悪いヤツって。三原くんは、優しいクラスメイトじゃない。

「だから、バイ菌がついてるといけないから、ちゃんと消毒しておかないと」

 そうして再び、手首に一堂くんの舌先が触れる。
 一堂くん、犬じゃないんだから。そんなに何度も舐めないで欲しい。

「んう……」

 くすぐったくて、身体がビクビクする。声も無意識に口から漏れてしまって、止められない。

「もう。三原くんだったらきっと、こんなことしないのに……んんっ」

 すると今度は、一堂くんに強引に唇を塞がれてしまった。

「あのさ。俺といるときに、他の男の名前なんか呼ばないでよ」
「……え?」
「依茉の彼氏は、俺だろ? 今、他の奴のことなんか考えんなよ」

 いくら仮に付き合ってると言っても、こんな強引なキスなんて嫌なはずなのに。
 相手が一堂くんだと拒めなくて、受け入れてしまう。

 最初は、触れるだけのキスが何度も繰り返されていたけれど。次第に荒々しいキスへと変わり、開いた唇の隙間から一堂くんの舌先が侵入してくる。


「依茉が、俺のことしか考えられないようにしてやりたい」
「……あっ」
「今は、俺に集中して」
「んんっ……」

 慣れない深いキスに、息が苦しくて。わたしは唇を離そうとするが、一堂くんがそれを許してはくれない。

「三原となんか、仲良くすんな。依茉にはいつも、俺だけを見ていて欲しい」

 まさか、あの一堂くんがそんなことを言うなんて……。

「ねぇ。今日の一堂くん、なんだかちょっと変だよ?」
「だよな。こんなの、俺らしくないって自分でも分かってるけど。最近、依茉のことになるとどうも抑えられなくて」

 真っ直ぐ向けられた眼差しに、胸の鼓動が跳ねる。

「ああ、やっぱり俺……好きだわ、依茉のこと」

 長いキスのあと、ようやく唇が離れ、どこか独り言のようにポツリと言う彼。

「なぁ、依茉……これから俺、本気出してもいい?」
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