イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない

藤永ゆいか

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第3章

◇一堂くんとデート①

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 わたしが一堂くんのお見舞いに行った2日後、彼は元気に登校してきた。

「おはよう、依茉」
「おはよ、一堂くん。体調はもういいの?」
「すっかり良くなったよ。依茉が看病してくれたお陰だね。ありがとう」

 パチッとウインクする一堂くん。確かに、この前と違って顔色も良さそうだ。

「べ、別にわたしは何も……」
「プリンを食べさせてくれて、抱き枕にもなってくれたしね?」
「あっ、あれは仕方なく……」

 あの時のことを思い出すと、頬が一気に熱くなる。

「ははっ。依茉、顔赤くなっちゃって可愛い」

 一堂くんが親指の腹で、わたしの頬を撫でてくる。

「あのさ、依茉。看病してくれたお礼をさせて欲しいんだけど」

 一堂くんが、わたしのほうへと顔を寄せてくる。

 ま、まさか。一堂くんのことだから、『お礼のキス』とか言って、またキスしてくるんじゃ……。
 わたしは、唇を咄嗟に手で覆う。

「なんで、唇隠すの?」
「え? 一堂くんがお礼って言うから、てっきり……」
「いくら俺でも、所構わずキスするわけないじゃない」

 いや、これまで所構わずキスしていた気もするけど……今は触れないでおこう。

 とりあえず、ここでキスされないのなら良かった。
 安心したわたしは、唇から手を離す。

「でも……」

 一堂くんはニヤリと笑うと、私の耳元に唇を寄せた。

「もし依茉がキスして欲しいのなら俺、いくらでもするけど?」

 色気のある声でささやかれ、体が熱くなる。

「さぁ、依茉。どこにして欲しい? まずは、頬?」

 一堂くんの手が、わたしの頬にそっと添えられる。

「ちょっ、ちょっと! さっきから教室で何を言ってるの!?」
「元はといえば、依茉が唇を隠したりするからいけないんだろ? 俺のこと、煽ってるとしか思えない」

 もう! なんでそうなるのかな……。

「一堂くんがそんなことばかり言ってるのなら、わたし杏奈たちのところへ行くから」

 わたしは、自分の席から立ち上がる。

「ご、ごめん。俺は、依茉を怒らせたかったわけじゃないんだ。最初の話に戻るけど……ゴールデンウィークって、空いてる?」

 5月に突入して数日。明日から学校は5連休だ。

「土曜日なら、空いてたと思うけど」
「だったらその日、空けておいて?」
「……なんで?」

 わたしの問いかけに、一堂くんが苦笑いする。

「なんでって。俺を看病してくれた、お礼がしたいんだ。だからその日、俺と一緒にどこか出かけよう。何か美味いものでもご馳走させて欲しい」

 え。一緒に出かけるって。それって、もしかして一堂くんと……デ、デート!?


 そして、あっという間に土曜日の朝。この日は、雲ひとつない快晴。

 約束の時間の10分前。わたしは、待ち合わせ場所である駅前にいた。

 まさか、あの一堂くんと出かけることになるなんて。

 お兄ちゃん以外の同年代の男の子と、学校以外でどこかに出かけることが初めてのわたしは、緊張していた。

 一堂くんと出かけることになったと話したら、杏奈と真織はなぜかとても喜んで。
 昨日の帰り際には『先輩との初デート頑張って!』と、二人にものすごく応援された。

「この格好、変じゃないかな……」

 コンパクトミラーを片手に、わたしは身だしなみをチェックする。

『デートといえば、やっぱりワンピースでしょ』と真織たちに言われたので、今日のわたしは膝丈の春色ワンピースを着用。
 そして軽くメイクもし、胸のあたりまである髪はふんわりと巻いてポニーテールにした。

 一堂くんは、まだかな……? そう思いながら待つこと数分。

「お待たせ、依茉」
「一堂くん!」

 一堂くんはわたしを見て一瞬目を大きく見開いたけど、すぐに笑顔になる。

「今日の依茉、なんか雰囲気違うね? 髪巻いてるし、すごく可愛い」
「い、一堂くんも……」

 だ、だめだ。一堂くんを直視できない。

 一堂くんは、白いシャツの上にグレーのカーディガンを羽織っていて。下は黒のデニムパンツ。
 シンプルな服装も見事に着こなしていて、すごくオシャレ。
 学校の制服じゃないってだけでドキドキするのに、こんなにもかっこよかったら……やばい。

「それじゃあ、依茉。行こうか」


 一堂くんに連れられてやって来たのは、住宅街の中にひっそりと佇むカフェだった。
 古民家をリノベーションした和モダンな店内は、とても和やかな雰囲気。

「あら、慧くん。いらっしゃーい」

 お庭の見える窓際の席に一堂くんと向かい合って座ると、髪をひとつに束ねた40代くらいの女性の店員さんがニコニコと話しかけてきた。

「慧くんがここに女の子と来るのって、初めてじゃない? もしかして彼女!?」
「はい。そうなんです」

 店員さんに聞かれて、すぐさま肯定する一堂くんに、なんだか嬉しくなる。

「若いっていいわねぇ。ごゆっくりー♡」
「あの……お知り合い?」

 店員さんが去ったあと、わたしは一堂くんに尋ねる。

「ああ。あの人は店長。俺、ここでバイトしてるから」
「えっ、一堂くんってアルバイトしてるの?」

 わたしは、目が点になる。

「え? 何、依茉。その意外そうな顔」
「だってお金持ちの家の子って、バイトとかしないのかと……」

 ましてや彼は、国内では名前を知らない人はいないんじゃないかってくらい有名な、あの一堂グループの御曹司。親のお金で、何不自由なく暮らしているのだとばかり……。

「まあ、バイトは親に世話になりっぱなしなのも嫌で、少しでも自立するためにやってる。一人暮らしもそうだよ」
「そうなんだ」

 自立、か。てっきり、遊んでばかりのおぼっちゃまなのかと思っていたけど。一堂くん偉いなぁ。今の話を聞いて、彼への印象が少し変わったかもしれない。

「一堂くん、凄いね」
「依茉だって、家族のために料理とか家のこと頑張ってるだろ? えらいじゃない」
「そうかな? わたしなんて、まだまだだよ」

 そっか。一堂くん、ここでバイトしてるのか。改めてわたしは、カフェの店内を見回す。
 一堂くんがバイトしてる姿、見てみたいかも。

「それで、話変わるけど。ここのオムライスがめちゃめちゃ美味くてさ。依茉にも食べて欲しいなと思って、今日連れて来たんだよね」
「え、オムライス!?」

オムライスと聞いて、わたしは目を輝かせる。

「依茉は、オムライス好き?」
「うん、大好き!」
「それなら、良かった」

 実はわたし、オムライスには目がないんだよね。だから、つい家でも頻繁に作ってしまって、お母さんとお兄ちゃんに苦笑いされちゃうこともあるくらい。

「わたし、一堂くんオススメのオムライス食べたい」
「それじゃあ依茉はオムライスで、俺は……パスタにしようかな。注文するね。すいませーん」

 一堂くんが店員さんを呼び、二人分の注文をしてくれた。

 そしてしばらく話していると、注文したものが運ばれてくる。

「うわぁ、美味しそう」

 一堂くんおすすめのオムライスは、ケチャップがかかったシンプルなオムライス。

「そういえば一堂くん、トマトは苦手なのにケチャップは平気なの?」
「うん。ケチャップは不思議と大丈夫なんだよね。さぁ、温かいうちに食べよう」

 二人で一緒に「いただきます」をして、食べ始める。

「んっ。一堂くんこれ、めちゃめちゃ美味しい」
「でしょ?」

 卵がとろとろの半熟オムライスのあまりの美味しさに、わたしはスプーンを持つ手が止まらない。

「家ではなかなか、この卵のとろとろ感が出せないんだよね。何かコツとかあるのかな?」
「俺が今度、店長に聞いておこうか?」
「でも、そういうことを聞いて、もし怒られちゃったらどうするの?」
「そのときは……大好きな彼女のために作りたいんで、特別に教えて下さいって頼むかな」

 “ 大好きな彼女 ” その言葉に、胸がくすぐったくなる。

「でも、一堂くんって料理できるの?」
「料理は苦手だけど、依茉のためなら頑張ってするよ?」

 一堂くんったら、ほんと女子が喜ぶようなことを言うのが上手い。

「ていうか一堂くん……」

 一堂くんはパスタを口にいっぱい入れて、ハムスターみたいになっている。

「一堂くん、ハムスターみたいで可愛い」
「……可愛いのは、依茉でしょ」

 一堂くんの手が、こちらへと伸びてくる。

 長い手が伸びてきたかと思うと、彼の指が口元に触れた。

「ケチャップ、ついてたよ」
「……っ」

 くすっと笑いながら、わたしの口元から取ったそれをペロッと舐める一堂くん。

 ケチャップがついていたなんて、恥ずかしい……!
 頬が熱くなるのを感じたわたしは、たまらず顔を伏せた。

「依茉も、良かったらパスタ食べる?」

 一堂くんが、フォークにスパゲティをクルクルと巻きつけ、わたしに差し出してくる。
 ま、まさか、食べさせてくれるなんて。

「はい、依茉ちゃん。口開けて? これも美味しいよ?」
「……っ」

 そんなキラキラの笑顔で言われたら、断れそうもない。

 照れくささから少し躊躇したわたしだけど、ようやく彼のフォークを口に含んだ。濃厚なカルボナーラのコクのある味わいが、口の中に広がる。

「……美味しい」
「だろ? 依茉のもひとくち、もらっていい?」

 それからわたしたちはひとくちずつ互いに食べさせ合い、食後にはカフェラテを飲んで、外でのランチを楽しんだ。
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