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第3章
◇一堂くんとデート②
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「ごめんね、一堂くん。ごちそうになっちゃって」
カフェを出る前にわたしがお手洗いに行って戻ると、一堂くんがすでにお会計を済ませてくれていた。
「ううん。そもそも今日は、看病をしてもらったときのお礼だったから。気にしないで」
「ありがとう」
カフェを出たあと、わたしたちは近くのショッピングモールへとやって来た。
「そうだ。カップルっぽく、今日の記念にプリクラでも撮る?」
ゲームセンターの前を通りかかったとき、一堂くんがそんな提案をした。
プリクラか……。高校の入学式の日に一堂くんと仮のカップルになって、もうすぐ1ヶ月になる。もしかしたら、一堂くんとこうして二人で出かけるのも最初で最後かもしれない。
「いいね、撮ろうか」
わたしは、彼とプリクラを撮ることにした。
二人でプリクラの機械のカーテンの中に入りお金を入れてフレームを選ぶと、写真を撮るまでのカウントダウンが始まった。
「依茉、そのままカメラのほうを見てて」
「え? う、うん」
一堂くんに言われるがまま、わたしが真っ直ぐカメラを見つめていると。
──カシャッ!
カメラのシャッター音がするのと同時に、一堂くんの唇がわたしのほっぺに軽く触れた。
「なっ!」
「誰も見てないんだし、キスしても良いでしょ?」
「そっ、それはそうだけど……」
こんな不意打ちのキス、心臓に悪い……!
「ほら、早くしないと次の撮影が始まるよ。依茉、笑って!」
それからわたしは、一堂くんと手を合わせてハートを作ったり。彼がわたしを後ろからハグしたりと、一堂くんに言われるままに色んなポーズをとった。
* * *
「うん。ちゃんと盛れてるし、良い写真が撮れたね」
撮った写真の落書きと印刷を終え、出来上がったプリクラを見て一堂くんが満足そうに笑う。
そりゃあそうだよ。全部、一堂くんの言うとおりにポーズを決めて撮ったんだから。
「俺、このプリクラの画像、スマホのロック画面にするよ」
そう言うと、さっそく一堂くんがプリクラ画像を設定する。
「これでスマホを開く度に、いつも依茉の可愛い顔が見られるね」
「やめてよ、一堂くん。恥ずかしいから」
「ほんと、照れ屋だなぁ。依茉は」
すると、一堂くんがわたしのスマホを奪うように取ってしまう。
「はい、どうぞ」
少しして一堂くんがスマホを返してくれたけど、さっき撮ったプリクラの写真を勝手にロック画面に設定されていた。
「ちょっと、何これ!」
「うん。こうしてると、依茉の男避けにもなるし。俺とお揃いでいいじゃん」
「男避けって……わたしは一堂くんみたいにモテるわけでもないし。そんなの必要ないよ」
「だめ。三原みたいな奴が増えても困るし。それに……スマホを見る度に、依茉に俺のことを思い出して欲しいから」
思い出して欲しいって。なんでそんなことを言うの?
そういうことを言われたら……期待しちゃうじゃない。
「ねぇ。何か気になる景品とかある?」
ゲーセンには多くのUFOキャッチャーが並び、一堂くんに聞かれたわたしは辺りを見渡す。
「あっ。あれ、可愛い」
目に入ったのは、小さくて可愛い猫のマスコットキーホルダー。
「あれか。ちょっと待ってて」
一堂くんは硬貨を入れると、UFOキャッチャーを始めた。
あ、惜しい。もう少しで取れそうだったのに。
「くそ。もう1回」
小さく呟く声が耳に入り、一堂くんのほうを見ると、少し悔し気な表情を浮かべていた。
それからもう一度、一堂くんは硬貨を入れてUFOキャッチャーに取り組み……。
「やった。見て、依茉。2個も取れた」
はしゃぐ一堂くんの手のひらには、猫のマスコットキーホルダーが2個のっている。
「すごい! たったの2回で取れるなんて。しかも2個取り!」
わたしなんて、何回やってもなかなか取れないのに。
「もしかして、一堂くんってUFOキャッチャーが得意なの?」
「いや。普段、ゲーセンに来ることはほとんどないから。ネコ、もしかしたら一つで良かったかもしれないけど、柄が違うし良いかな? はい、どうぞ」
一堂くんが、わたしにキーホルダーを渡してくれる。
「ありがとう」
どっちも可愛いけど。せっかくだし、今日の思い出として一堂くんも持っていてくれたら……なんて。
そう思うのとほぼ同時に、言葉が口をついて出ていた。
「良かったら、ひとつは一堂くんが貰ってくれない?」
「俺は、依茉のためにやっただけで。景品が欲しかったわけでは……」
「でも、取ったのは一堂くんだし。今日の記念だと思って。ね?」
「うん。そうだね……よく見ると可愛いな、こいつ」
マスコットを受け取ると、一堂くんは小さく笑いながらネコの頭をつついた。
「俺、せっかくだからこのキーホルダー、スマホにつけようかな」
「あっ。わたしも」
わたしたちは、さっそくスマホにネコのマスコットキーホルダーをつける。
そしてわたしと一堂くんは、キーホルダーのついたスマホを掲げてみせる。
それぞれのスマホからぶら下がる、ピンクの服を着た白ネコと水色の服を着た黒ネコは、カップルのようにも見える。
スマホで調べてみたら、このネコたちは本当にカップルらしく。
わたしと一堂くんもこの子たちのように、本当のカップルだったら良かったな……と、色違いのネコを見ながらわたしは、ふとそんなことを思った。
カフェを出る前にわたしがお手洗いに行って戻ると、一堂くんがすでにお会計を済ませてくれていた。
「ううん。そもそも今日は、看病をしてもらったときのお礼だったから。気にしないで」
「ありがとう」
カフェを出たあと、わたしたちは近くのショッピングモールへとやって来た。
「そうだ。カップルっぽく、今日の記念にプリクラでも撮る?」
ゲームセンターの前を通りかかったとき、一堂くんがそんな提案をした。
プリクラか……。高校の入学式の日に一堂くんと仮のカップルになって、もうすぐ1ヶ月になる。もしかしたら、一堂くんとこうして二人で出かけるのも最初で最後かもしれない。
「いいね、撮ろうか」
わたしは、彼とプリクラを撮ることにした。
二人でプリクラの機械のカーテンの中に入りお金を入れてフレームを選ぶと、写真を撮るまでのカウントダウンが始まった。
「依茉、そのままカメラのほうを見てて」
「え? う、うん」
一堂くんに言われるがまま、わたしが真っ直ぐカメラを見つめていると。
──カシャッ!
カメラのシャッター音がするのと同時に、一堂くんの唇がわたしのほっぺに軽く触れた。
「なっ!」
「誰も見てないんだし、キスしても良いでしょ?」
「そっ、それはそうだけど……」
こんな不意打ちのキス、心臓に悪い……!
「ほら、早くしないと次の撮影が始まるよ。依茉、笑って!」
それからわたしは、一堂くんと手を合わせてハートを作ったり。彼がわたしを後ろからハグしたりと、一堂くんに言われるままに色んなポーズをとった。
* * *
「うん。ちゃんと盛れてるし、良い写真が撮れたね」
撮った写真の落書きと印刷を終え、出来上がったプリクラを見て一堂くんが満足そうに笑う。
そりゃあそうだよ。全部、一堂くんの言うとおりにポーズを決めて撮ったんだから。
「俺、このプリクラの画像、スマホのロック画面にするよ」
そう言うと、さっそく一堂くんがプリクラ画像を設定する。
「これでスマホを開く度に、いつも依茉の可愛い顔が見られるね」
「やめてよ、一堂くん。恥ずかしいから」
「ほんと、照れ屋だなぁ。依茉は」
すると、一堂くんがわたしのスマホを奪うように取ってしまう。
「はい、どうぞ」
少しして一堂くんがスマホを返してくれたけど、さっき撮ったプリクラの写真を勝手にロック画面に設定されていた。
「ちょっと、何これ!」
「うん。こうしてると、依茉の男避けにもなるし。俺とお揃いでいいじゃん」
「男避けって……わたしは一堂くんみたいにモテるわけでもないし。そんなの必要ないよ」
「だめ。三原みたいな奴が増えても困るし。それに……スマホを見る度に、依茉に俺のことを思い出して欲しいから」
思い出して欲しいって。なんでそんなことを言うの?
そういうことを言われたら……期待しちゃうじゃない。
「ねぇ。何か気になる景品とかある?」
ゲーセンには多くのUFOキャッチャーが並び、一堂くんに聞かれたわたしは辺りを見渡す。
「あっ。あれ、可愛い」
目に入ったのは、小さくて可愛い猫のマスコットキーホルダー。
「あれか。ちょっと待ってて」
一堂くんは硬貨を入れると、UFOキャッチャーを始めた。
あ、惜しい。もう少しで取れそうだったのに。
「くそ。もう1回」
小さく呟く声が耳に入り、一堂くんのほうを見ると、少し悔し気な表情を浮かべていた。
それからもう一度、一堂くんは硬貨を入れてUFOキャッチャーに取り組み……。
「やった。見て、依茉。2個も取れた」
はしゃぐ一堂くんの手のひらには、猫のマスコットキーホルダーが2個のっている。
「すごい! たったの2回で取れるなんて。しかも2個取り!」
わたしなんて、何回やってもなかなか取れないのに。
「もしかして、一堂くんってUFOキャッチャーが得意なの?」
「いや。普段、ゲーセンに来ることはほとんどないから。ネコ、もしかしたら一つで良かったかもしれないけど、柄が違うし良いかな? はい、どうぞ」
一堂くんが、わたしにキーホルダーを渡してくれる。
「ありがとう」
どっちも可愛いけど。せっかくだし、今日の思い出として一堂くんも持っていてくれたら……なんて。
そう思うのとほぼ同時に、言葉が口をついて出ていた。
「良かったら、ひとつは一堂くんが貰ってくれない?」
「俺は、依茉のためにやっただけで。景品が欲しかったわけでは……」
「でも、取ったのは一堂くんだし。今日の記念だと思って。ね?」
「うん。そうだね……よく見ると可愛いな、こいつ」
マスコットを受け取ると、一堂くんは小さく笑いながらネコの頭をつついた。
「俺、せっかくだからこのキーホルダー、スマホにつけようかな」
「あっ。わたしも」
わたしたちは、さっそくスマホにネコのマスコットキーホルダーをつける。
そしてわたしと一堂くんは、キーホルダーのついたスマホを掲げてみせる。
それぞれのスマホからぶら下がる、ピンクの服を着た白ネコと水色の服を着た黒ネコは、カップルのようにも見える。
スマホで調べてみたら、このネコたちは本当にカップルらしく。
わたしと一堂くんもこの子たちのように、本当のカップルだったら良かったな……と、色違いのネコを見ながらわたしは、ふとそんなことを思った。
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